「お酒を知ること」は一生の趣味づくりに直結します。「日本酒は辛口に限る!」「生酒がうまい!」「日本酒は熱燗じゃないといかん!」・・・お酒好き同士で交わされる様々な議論があります。「そんなめんどくさい酒の場に巻き込まれたくない!」という気持ちもわかりますが、自分の味の好みを知りながら、日本酒を共通の趣味として意見を交わして飲むお酒は楽しいものです!居酒屋で飲むだけでなく、リモート飲み会もスタンダードになりました。遠くにいる友人とパソコンの画面越しにそれぞれの地元の日本酒を紹介しながら飲むなんてワクワクしませんか?さぁ、飲み会新時代の幕開けです!
酒飲み永遠の紛争テーマ「日本酒は甘口・辛口どっちが美味い?」
あさやん:俺らみたいに日本酒の世界に携わる人間として永遠のテーマといえば「甘口・辛口どっちが美味しいか」問題ね。
北井:あー確かに!知識がばっちりある日本酒ファン層を除けば、日本酒の味の表現って「甘口・辛口」が今でもよく出てくるよね。
あさやん:そう!「辛口でおすすめの日本酒教えて!」とかよく聞かれるけど、それ聞いたら「ふんっ、この素人が!」って心の中で言うようにしてるもんな。
北井:嫌なやつやな!言うようにしてるってなんやねん。でも「辛口」っていうワードを使う人からしたら「詳しくない私でも飲みやすい、おすすめの日本酒教えて」っていうニュアンスの場合がほとんどやねんからそこは優しく教えてあげたらええやんか。
あさやん:ちょっと北井!優しいフリすんなよ!!そんな男じゃないやろ!
北井:優しいフリってなんやねん!「辛口下さい!」に対応できる引き出しの多さが俺らの勝負どころやん!
あさやん:そんなごちゃごちゃ言わんと、現代の日本酒は美味しいものがほんまに多いんやから飲んだらわかるねん!!もっともっと「辛口」で初心者には接したらええねん!
北井:なんちゅうこと言うねん!ほんであんまりうまく言えてないぞ!
あさやん:おい、俺を辛口評価するな!
「甘味」と「旨味」が日本酒の味わいの基本
あさやん:だいたいな、日本酒って基本の原料が「米・米麹」で、米麹がお米のデンプンを糖分に変える!ほんでその糖分を酵母が食べてアルコールを生み出す!
北井:日本酒のアルコール発酵の仕方はそうやな。
あさやん:だからどんな日本酒にも糖分がある程度残ってて、日本酒には「甘味」があるねん!
北井:えらいまともな話してくるなぁ。
あさやん:日本酒の味わいは「甘味」と「旨味」が基本なの!辛口がそんなに好きなら唐辛子でもかじってればええねん!
北井:ちょっと落ち着けよ!こんな説教おじさんがおったら新たに日本酒を飲みたくなる人おらんようになるって!
あさやん:ふぅふぅ・・・
「辛口」は80年代バブルが生んだ?
北井:そもそも「辛口の日本酒」が美味しい日本酒の代名詞みたいになったのはバブル期に人気やった日本酒ジャンルが、すっきりとしたキレの良い味わいの「淡麗辛口(主に新潟地酒)」テイストやったという歴史が関係するんやけど。
あさやん:うん。
北井:これは世の中が「平和で物質的に豊か」という証でもあるねん。
あさやん:うん??
北井:戦中戦後とか、世の中が乱れて物質的にも貧しいときは食べ物も飲み物も「甘くて濃い」ものが求められるわけ。
あさやん:あぁ、、ちょっとしか食べられない、飲めないなら甘くて濃いものが欲しくなるってこと?
北井:そう!ようわかってるがな!そもそもな、日清・日露戦争の時代は酒税が国の税金の中で3割を占めるほどに。
あさやん:ちょっと話ずれてきてるって!歴史も好きなんかしらんけど。
北井:あぁ、すまんすまん。すっきり飲める「辛口」の日本酒や、たっぷりお米を磨いて仕込まれた贅沢な「大吟醸酒」が楽しめるような現代は恵まれてるってこと。
あさやん:うん、それはわかったけど…
北井:じゃあ具体的に日本酒の「甘口・辛口」ってどういう違いがあるのかっていう話をしよう。日本酒のラベルとかに書かれてることもある、この「日本酒度」が一個のキーワードやな。
「辛口」の実像に迫る!日本酒度の話
あさやん:そう、みなさん!「日本酒度」っていうワードを知ってると日本酒通!酒場でもリモート飲みでも偉そうにできますよ!
北井:偉そうにせんでええねん!日本酒マウントおじさんは増やしたくないねん!この「日本酒度」っていうのは「甘口・辛口」を判断する一個の目安になります。
あさやん:そうそう。あ、北井はん、ここは任せなはれ。序盤でも言うたように日本酒を造るときっちゅうのは米麹はんがお米のデンプンをせっせと糖分に変えてくれる、その糖分を酵母菌はんが「いただきますー!」言うて機嫌よう食べて、「甘いもん食べさせてもらったからお礼に酒でも」っちゅうてアルコールを生み出すんですなぁ。
北井:なんで急に落語家さんみたいな話し方になったんや?
あさやん:ほんで、肝心の「日本酒度」っちゅうのはアルコール発酵が順調に進んでるかを調べるために「酵母菌はんのエサである糖分がどれくらい残っているか」をみる検査で出る数値やねん。
北井:うん、そうやな。
あさやん:糖分が多いとマイナスで、糖分が少ないとプラスになるんですな。
北井:そうそう。
あさやん:そやから、日本酒度がマイナスにいくほど「甘口」の日本酒、日本酒度がプラスにいくほど「辛口」の日本酒っちゅうことなんですわ。
北井:まぁ、目安としてな。
あさやん:わしは日本酒度プラスの酒が好きやけど、「日本酒を度を越して飲んでしまう」から毎月の小遣いは、マイナスですわ・・・お後がよろしいようで。
北井:よろしくはないわ!ものすごい微妙なオチやで?
あさやん:最近落語をよく聴いてるからスイッチ入ってもうて・・・
北井:まぁ説明自体はできてたけど。ただ、この「日本酒度」だけでは日本酒の味わいは判定できません!!
あさやん:な、なんやて!?
酸度、香りも味わいを左右する重要な要素
北井:日本酒の味わいは糖分がどれくらい残っているかによっても左右されるけど、日本酒度が結構なマイナスの数値でも、「酸度(日本酒に含まれるリンゴ酸や乳酸などの有機酸の総量)」が高いと後味がぴしっと引き締まって「甘い!」という印象がほとんどない日本酒も多いんですよ。甘味と酸味のバランスが取れていてぐいぐい飲めてしまう「甘酸っぱい」お酒も現代の日本酒シーンの人気ジャンルとなってるんです!
あさやん:なるほど!
北井:あと、現代の日本酒はフルーティな香りのものも多いですね!
あさやん:吟醸酒とか大吟醸酒とかは香りがあるよな。
北井:そのフルーティな香りを嗅ぐと「甘そうなお酒だ!」という第一印象になって日本酒度プラスでもそんなに辛口に感じないこともあるんですよ。
あさやん:語る要素が多いな!ややこしい!
北井:それはしょうがないやん!
あさやん:えぇと…例えば野球選手でもヤクルトの山田哲人選手みたいに身体が細いのにパンチ力があってホームランをガンガン打つ選手がおったり、逆に体重100キロぐらいあるのに足が速い選手がおったり。
北井:うんうん。
あさやん:身体の大きさだけじゃなくて打ち方の技術とか、身体能力が高いとかとか、色んな要素の絡み合いがあると。日本酒の味わいも日本酒度だけでは語れへんってこと?
北井:完璧に理解しとるやないか!そういうこと。あくまでも目安の一個ね、日本酒度は。
あさやん:じゃあ喉も渇いたし「これが辛口の日本酒です!と言い切れる日本酒はない!」ということで今日はもう終わりにして飲みたいと思います!
北井:勝手に終わるなって!あとちょっとだけ伝えることあるから!!
あさやん:もー!なによ?
決着!甘口・辛口だけで現代の日本酒を選ぶと損をする!
北井:日本酒度や酸度とか香りの要素とか色々話したけど、結局何を伝えたいかっていうと「甘口・辛口」だけで選ぼうとするとせっかくの現代の美味しすぎる日本酒の幅広さを狭めてしまうってことな!
あさやん:確かに!ちょっと損するよな!現代の日本酒は香りの幅も味わいの幅もすごいですから!
「辛口」と言われる日本酒の3パターン
北井:この討論のまとめとして「辛口」と言われる日本酒の主な3パターンを紹介します。
①醸造アルコールが適度に入った「本醸造酒」パターン。醸造アルコールとはレモンサワーや緑茶ハイ、ホッピーのナカなどで使われるクリアな味わいの甲類焼酎と同じ製法で造られた蒸留酒です。米と米麹のみで仕込まれた純米酒よりすっきりとキレのいい味わいになる傾向があります。
②発酵期間をしっかり取り、発酵タンクの中で酵母菌が糖分をしっかり食べ尽くすことによって甘味が少ない「しっかり発酵した純米酒」パターン。今回使わせていただいた「山本 純米酒 ど辛」はこのパターンです。
③アルコール度数の高さにより刺激が強い「原酒」パターン。日本酒も加水処理をされていない原酒だとアルコール度数が17~19度くらいあるものがあり、アルコールの刺激の強さにより、後味がキリっとドライに感じやすいです。
あさやん:なるほどな。日本酒の「辛口」は唐辛子みたいな辛い味がするわけではなくて、甘みが少なくてすっきりしてたり、アルコール度数の高さによる刺激によるもんやな。
北井:そうそう!だから居酒屋さんとか酒屋さんとかに行った時には「甘口・辛口下さい」だけじゃなくてちょっと一工夫すると自分好みの日本酒に出会えますよ!
あさやん:注文するときに使うワードね!これ大事!
北井:「香りの要素」と「味の要素」を伝えていただけるといいと思います。香りは「フルーティな香り」とか、「お米っぽいしっかりした香り」とか。味わいは「すっきりした味わい(ライトな味わい)」とか「しっかりした味わい」とか「甘いor辛い」ではなく「すっきりorしっかり」で注文するのがコツなんです!今上げたワードを使うだけでも日本酒を扱う居酒屋の店員さんからしたら「このお客さんめっちゃお酒すすめやすーい!!選びやすーい!!話早ーい!!サービスしたーい!」ってなること間違いなしですよ!
あさやん:サービスまでしたくなるんや!笑 北井は実際に日本酒居酒屋でも働いてたから実感こもってるな。
北井:ほんまにそうやねん!
あさやん:じゃあ俺が今夜飲む日本酒を北井にお酒選んでもらおう!
北井:おぉ、ええよ!「お客様、どんな日本酒がよろしいですか?」
あさやん:えぇと、、、辛口で!
北井:おい、話聞いとったんか!! ・・・まぁええわ。とりあえず日本酒飲んでクールダウンしよか。
あさやん・北井:かんぱーーい!!
にほんしゅの味評定
- お酒:純米酒「山本 純米酒 ど辛」
- 香り:穏やか ◀ 〇〇★〇〇 ▶ 華やか
- 味 :淡 麗 ◀ 〇★〇〇〇 ▶ 濃 醇
「どんなお酒?」
日本酒度+15の超辛口ですが、口に含むとほのかな甘さを感じます。ところが飲み込んだとたんにキリっとした辛さが一気に押し寄せます!米と米麹が主原料の日本酒はどれだけ製法で辛口に仕上げても甘味もある。この奥深さをぜひ体験してみて下さい。日本酒の香りや味わいに大きく影響を与えるのがアルコールを生み出す酵母菌ですが、こちらのお酒は平成20年にこちらの日本酒の醸造元、山本酒造店で発見された蔵付き分離(酒蔵にすみついている酵母)、その名も「セクスィー山本酵母」で仕込まれています。蔵元さんのネーミングセンスや遊び心も楽しいですね!
「どんな酒蔵?」
秋田地酒「白瀑(しらたき)」「山本」を醸す山本酒造店は全国にファンを持ち、明治34年(1901年)秋田の県魚ハタハタ漁で有名な日本海沿岸の漁村、八森村(現八峰町)に創業しました。昭和40年代初頭には、全国に先駆けて大吟醸酒を商品化し、東京や神戸の料亭などに提供し好評を得ました。また、近年には杜氏制を廃止し、蔵人皆が自由に意見を出し合える環境を作り、「蔵人みんなで作る酒」を志しています。
平成22年から醸造アルコールを添加する本醸造と大吟醸を廃止し、純米、純米吟醸、純米大吟醸のみを生産する「純米蔵」となりました。そして「酒造りは米造りから」を徹底させ、その年の米の状態を栽培を通じて把握できるようにと、蔵元自ら酒米の栽培を行っています。
同じ秋田県で「新政」「ゆきの美人」「春霞」「一白水成」を醸す酒蔵さんたちと酒蔵ユニット【NEXT5】を結成し「未来の秋田の日本酒業界は俺達が牽引するんだ!!」という強い気持ちと高い志を持ち、技術交流は勿論、前代未聞の共同醸造酒の製造や、話題性のあるイベント等を積極的に行っています。
株式会社山本酒造店WEBサイト
【取材協力】
「SAKE story」五反田
「旅する様に日本酒を」がテーマの銘酒居酒屋。元旅行ライターでもあった店主の橋野元樹(初代(2017) Mr.SAKE)さんが、各地で巡り合えた食やお酒に感動した体験を飲食店として表現できないかという思いからSAKEstoryでは3か月ごとに対象地域を変え、日本酒を揃えています。前菜(お通し)はその地域からピックアップした食材やお料理をご用意。四季があり、また南北に長いこの日本と言う国をお酒を飲みながら旅する様に楽しめる五反田の名店です。
「SAKE story」WEBサイト https://sake-story.com/