料理とのペアリングで掛け算的に美味しくなる
越乃寒梅、十四代、獺祭と続く、時代を象徴する日本酒の系譜。令和を象徴する日本酒とはどんな酒だろう。自分たちの手で今の時代にふさわしい日本酒を造りたい。そんな野望を抱きつつ「男の隠れ家」オリジナル日本酒造りのプロジェクトが始まった。
編集部が白羽の矢を立てたのはカリスマ日本酒ソムリエ・千葉麻里絵さん。恵比寿の日本酒バー「GEM by moto」で日本酒アドバイザーを務めている。千葉さんは料理と日本酒の関係性を重視。口内調味やペアリングというキーワードによって、日本酒の新たな楽しみ方を提唱してきた。千葉さんが考える「男の隠れ家」オリジナル日本酒とは何か。
「読者の皆さんは色々なジャンルのお酒に親しんでいるはず。そういう方に驚いてもらえる日本酒を造り、ぜひ飲んでいただきたいです。日本酒=辛口と思っている読者に向けて今回は新しいタイプの日本酒を考えています」
新潟の端麗辛口のように料理の邪魔をしない日本酒は昭和の時代からあった。食中酒を名乗る日本酒も出てきた。現在のトレンドはワインのマリアージュのように、料理とペアリングできる日本酒だ。ブームの牽引役となったのが千葉さんである。
「この10年の間、日本酒の香りと味のバリエーション、料理とのペアリングを体験してきました。ペアリングによって日本酒の香りと味が、足し算ではなく掛け算になります。その楽しみを読者の方に知っていただきたい」
千葉さんが推薦した酒蔵は「仙禽」の銘柄で知られる、栃木県さくら市の(株)せんきんだ。江戸時代の創業で、11代目蔵元・薄井一樹さんはソムリエスクールの講師から転身した、異色の蔵元だ。杜氏は弟の真人さんが務めている。
「酸の魔術師」の異名がある薄井さんの造る日本酒は、酸の強い甘酸っぱい日本酒。現代人の食生活と味覚に合った日本酒の造り手として、注目を浴びている酒蔵である。千葉さんと薄井さんが考える「男の隠れ家」オリジナル日本酒とは。
「熟成酒を使ってみたい。まだ商品化されていない熟成酒があり、それをブレンドすることによって、さらなる高みに行けないかと」(千葉さん)
蔵ではオーク樽に漬け込んだ熟成酒が、商品となる日を待っている。その熟成酒をブレンドするという選択だ。
「アッサンブラージュ(ワインの原酒をブレンドすること)のように、オーク樽で漬けた熟成酒によって、掛け算的な効果が生まれるのではないかと考えています」(薄井さん)
熟成酒をブレンドするオリジナル日本酒が完成
千葉さんが重要視したのは、料理とのペアリングと、男の隠れ家読者の年齢層や嗜好にふさわしい、「今の市場に出回っている日本酒よりも高級感がある、リッチな酒」だ。高級感のある日本酒には酒米を極限まで磨く大吟醸酒があるが、千葉さんはほかにも方法があるという。
「“時間”の力を借りればいいのです。時間をかけてじっくり熟成した日本酒なら、重厚感や複雑な味わいが生まれ、高級感のある日本酒になります」
㈱せんきんの仕込み蔵では、ウイスキー熟成に使われたオーク樽で、日本酒の熟成を行っている。
「オーク樽で熟成させると“バニリン”という香気成分により、単純な熟成では得られないバニラ香が漂い、甘やかな味わいと重厚感が生まれ、お酒に立体感や妖艶さをもたらします」
「男の隠れ家」オリジナル日本酒には、ワインのアッサンブラージュ(原酒のブレンド)の手法を使い熟成酒をブレンド──2人の意見が一致した。ブレンドする熟成酒の候補を、オーク樽の中から6種類選び、最終的に2種類をチョイス。酒米は2種とも山田錦だが、「No.190」は貴醸酒(仕込み水の代わりに日本酒を使う濃厚な酒)で7カ月熟成、「No.181」は全麹造りで3年8カ月熟成した酒だ。
「通常は強い酒と弱い酒を組み合わせるのがセオリーかもしれませんが、今回は強い酒同士のブレンドにしました。ただ一方の香りが強かったので、比率を考える時には、ブレンドで出したい香りを残しつつ、味わいも片方だけが突出しないよう意識しました」
息詰まるような緊張感の中、さらなる試飲により導き出されたブレンドの比率は「7対3」。完成した日本酒は「ラムレーズンのような香り」(千葉さん)。単体の酒だけでも美味しい酒が、ブレンドによって掛け算をしたようにより複雑な味わいになり、飛躍的に美味しさが増した。
試験管に何度も酒を入れ直し、電卓で比率を計算していく大変な作業の結果、ついにこの黄金比率を「阿吽の呼吸」(薄井さん)で見つけ出した2人のプロフェッショナルな舌、味覚は驚くべきものだった。こうして「男の隠れ家オリジナル日本酒」がついに誕生した。
熟成酒をブレンドして造る重厚感と深みのある味わい
オーク樽で浸け込んだ熟成酒「No.181」(山田錦の3年8カ月熟成)と「No.190」(山田錦の貴醸酒で7カ月熟成)の2種類を、何度も試飲し、比率の計算を重ねて導き出した「7対3」の黄金比率でブレンド。そこに1%の割り水(鬼怒川の伏流水)を加え、飲みやすい日本酒に仕上げた。
プロフェッショナルな舌と味覚で造り出された「男のオリジナル隠れ家」日本酒は、新しい日本酒との出会いを求めている人にこそお勧めしたい。
【200本限定!】
『仙禽「MARIE SENKIN Special Edition 2022 男の隠れ家」』
容量/720ml
価格/5000円(税・送料別)
アルコール分/14度
原材料名/米、米麹
原料米/山田錦100%
精米歩合/90%
酒母/普通速醸
仕込み水/鬼怒川伏流水
▶︎購入はこちら https://mariechiba.base.shop/
【プロフィール】千葉 麻里絵
日本酒ソムリエ。恵比寿GEM by moto日本酒アドバイザー。岩手県出身。保険業界のシステムエンジニアから飲食業界に憧れて転身。飲食店に勤務するうちに日本酒に魅了され、日本全国の酒蔵や酒販店を訪ねるようになる。酒類総合研究所の研修に参加するなど日本酒の専門知識を習得し、化学的知見から一人ひとりに合わせた日本酒を提供、人気店舗となる。
口内調味やペアリングというキーワードで新しい日本酒体験を作り、さまざまなジャンルの料理人や専門家ともコラボレーション。新しい日本酒のスタイルを日々模索している。2019年には日本酒や日本の食文化を世界に発信する第14代「酒サムライ」に叙任した。国内外の日本酒ファンを魅了し続けている。
【会社紹介】株式会社 せんきん
江戸時代、文化3年(1806)の創業の(株)せんきん。11代目蔵元・薄井一樹さんが酒造りの変革に着手し、地元の酒米、水を使った酒造り(ドメーヌ)、木桶による仕込み、酵母を添加しない天然蔵付き酵母による生酛造りなど、原点回帰の酒造りを行っている。今回、その薄井さんも同プロジェクトを強力にバックアップ。
栃木県さくら市馬場106
TEL:028-681-0011
公式HP:http://senkin.co.jp/
文/阿部文枝