深い山に分け入り渓を歩く自然を存分に味わう時間

渓流釣り師の朝は早いものと決まっている。早朝4時半、雨上がりの森にはまだ濃い霧がかかっていて、山々の全貌は見渡せない。規則正しく並んだ杉や檜の針葉樹の山に、山鳩の低い鳴き声だけが響いている。目の前を流れる美しい渓流。数日降り続いた雨のおかげで水量が増えて適度な笹濁り、まさにベストコンディションだ。素晴らしい渓流魚を1尾、なんとか釣り上げたい。

山林が広がる埼玉県飯能市の名栗地区。西川材という良質な杉の産地で自然豊かだ。都心からも2時間弱で行けるため、釣りをはじめ、アウトドアアクティビティの拠点にするアウトドアマンも多い。

早々にウェーダー(胴長)を着て愛用のフィッシングベストを羽織り、ウェーディングシューズを履いた。3.6mのテンカラロッドを1本持ち、ワレットの中には替えのテンカラ毛針を多数仕込む。最小限の装備で渓流を歩くこのテンカラ釣り、実は日本の伝統的な渓流釣り手法であり、近年は欧米でも人気が高まっているという。

餌釣りのほか、ルアーやフライなど様々な手法があるが、今日はテンカラでトラウト(ニジマス、イワナ、ヤマメなど)を狙っていく。小さなポイントも見逃さず毛針を流す。しかし見た目以上に水量が多く、遡行すらままならない。

古来、日本の職漁師の釣り手法だったテンカラ釣り。
リールを用いないロッドにラインを付けて毛針をセッティングしただけの簡素なタックルである。

水没に気をつけながら慎重に遡り、深場では沈む毛針をチョイスしてキャストを繰り返した。リリースサイズのヤマメが毛針を追うのが見えるが、なかなかヒットせず。しかし渓流釣りとはこんなものだ。釣れるに越したことはないが、釣れなくても川を歩くだけで気持ちがいい。いや、そんな無理やりの納得をもう何度したことか。それでも渓流が解禁すると、私はひとり渓に立っているのだ。

テンカラロッドを振る。狭い渓流ゆえ、枝葉も多く、ロッドのテイクバックがとても難しい……。

渓流釣りとソロキャンプそれはワンセットなのだ

渓流釣りに出かける日、その夜もし泊まれる時間があるならば、私はその渓流近くのフィールドでキャンプをしようと決めている。今日も渓流からほど近い場所にある「ケニーズ・ファミリー・ビレッジ」(埼玉県・飯能市)に1泊お世話になることにした。

人気のキャンプ場だとは聞いていたが、なるほど、それも頷ける。野宿キャンパー寄りの私にはもったいないほど整ったフィールド、清潔で安全な設備、そしてなによりスタッフの接客が素晴らしい。

数あるキャンプ場の中でも常に人気上位に名を連ねるケニーズ・ファミリー・ビレッジ。

ファミリーと名が付くキャンプ場ではあるが、聞けばソロキャンパーも意外に多いらしい。「平日、ぶらっとお見えになる熟年男性のソロキャンパーさんもいらっしゃいますよ」。まさに私がそれだろう。川音が聴けるサイトがいいなと思っていたのでその旨を伝えると、河原サイト(7〜8月は日帰りの利用のみ可)を案内してくれた。

チェックインを済ませて薪を2束(箱)購入し、早速サイトへと向かう。そして設営の前、まずはお決まりの儀式から。今日は深夜出発のため、昨夜我慢していたビールが疲れた体にジワーッと染み入っていく。この一杯があるから釣りとキャンプはやめられない。いや、私はもうこの一杯のために釣りをしているのかもしれないな。渓流釣りをする人ならきっと共感していただけるだろう。

ソロキャンプなので装備も最小限のギアしか持参していない。ゆえにサイトもコンパクト、全体的にミニマムだ。今日はモンベルのムーンライト1型でインナーテントを使わず、グランドシートとフライシートを直結してテント代わりのシェルターを作った。

キャンプギアはたったコレだけ。最小限のもので小さなキャンプを楽しんだ。
ゆえに設営も撤収もスピーディー。それがソロのいいところだ。

焚き火に強いコットンTCのタープを張ってヘリノックスのテーブル&チェア、焚き火台と簡易的なトライポッドを配置したら完成。ミニマムとはいえ、快適さや自分の嗜好には贅沢でいたい。だからフィールド選びも焚き火ができる場所であることが大前提。何かをしなくてはいけないという決まりはないが、美味しい料理と酒があり、焚き火キャンプを楽しむというのが小さなこだわりなのである。

ひとりでも料理にはこだわりたい、というのが私のルール。
あくまでもキャンプ料理、分量などは適当である。

イワナのホイル焼き、夏野菜のラタトゥイユ、チキンの白ワイン煮などを自家製レモンサワーを飲みながらのんびり下ごしらえしていく。さっきまでBBQをしていた若者が会釈をして帰って行った。河原には私ひとり。カジカガエルが鳴く渓を目の前に、静かで優しい夏の夕暮れがやってきた。

焚き火と美味しい料理と酒ソロでしか味わえない贅沢

夜の帳が下りる頃、小さなメッシュランタンに火を灯した。サイト全体が明るくなるほどの照度はないが、テーブルランタンとしては十分な明るさ。雰囲気も悪くないのでもう長年愛用している。

そして下ごしらえしておいた料理各種を仕込むため、焚き火に薪をくべて火力を上げていく。お気に入りの8インチダッチオーブンでチキンの両面をじっくり焼いたら、安い白ワインをひたひたに注いでコンソメと粉チーズを大量に投入する。このままトライポッドに引っ掛けてアルコール分が飛ぶまでかまわず放っておく。

若干の罪悪感がないこともないが、キャンプではまだ明るいうちから堂々と飲み始めるのがいい。

さらに、シングルバーナーの上にヨコザワテッパンを載せ、イワナの腹にマイタケと大葉を入れて包んだホイル焼きを蒸し焼きにした。とにかくこのヨコザワテッパンが優秀だ。ソロキャンプ(見た目は小さいが4人くらいまでなら余裕で使える)にはもってこいの万能鉄板で、私はどこに行くにもキャンプギアの中に忍ばせておいて愛用している。ここ数年、この〝ちまちま”感をたまらなく愛しているのである。

ヨコザワテッパンで肉を焼いて長々と酒を楽しむ。

さらに小さなスキレットでバター味の焼き枝豆も作った。これをつまみにしてレモンサワーを飲むのが今のお気に入り。ラタトゥイユは焚き火が勝手に作ってくれるし、ここからは何もしない〝ひとり飲み時間”の始まりだ。

今日の前菜はラタトゥイユと枝豆バター。小さなスキレットがあれば料理のバリエーションも広がる。

ひとりで釣りをしたりキャンプすることは寂しくないかとよく聞かれるのだが、話相手がいないという点だけでいえば寂しさがないわけではない。ただ、真剣に渓流釣りを楽しんだ後のソロキャンプでは、その余韻にひとりどっぷり浸るのがきっと私は好きなんだな。仲間たちとワイワイと楽しむ賑やかなキャンプもいいけど、釣りで疲れた日は誰にも気を遣わない自分勝手なソロキャンプがやはり一番いいと思っている。

焚き火の火力を少しだけ落とし、ダッチオーブンの蓋をずらす。白ワインのアルコール分はもうほぼ飛んで、濃い目のスープの中でチキンがグツグツと煮えている。夏野菜がたっぷり入ったラタトゥイユとチキンを味わいながら、今度は山桜のククサでアイリッシュウイスキーをちびちび飲んだ。

メイン料理が完成した。

こんなソロキャンプをもう何年やってきただろう。栃木の山奥で焼いた地鶏は最高だったな。郡上の雨の釣りキャンプ、鮎の塩焼きと焼酎が美味しかった。伊那谷ではマトンロースをたらふく食べて日本酒をしこたまを飲んだっけ。

新しくくべた太めの薪がパチンと爆ぜ、火の粉が勢い良く舞った。気持ちの良い酔いに包まれて、私は楽しかったソロキャンプの場面を思い出していた。

料理を作り終えると、後は食べること、飲むこと、焚き火をいじることしかしない。

ソロキャンパーにもお勧めしたい
ケニーズ・ファミリー・ビレッジ/オートキャンプ場

都心からアクセスも良く、管理も行き届いた人気の高規格キャンプ場。キャンプ場の名にファミリーと付くが、ソロキャンパーにも人気があり、特にオフシーズンの河原サイトはお勧めだ。

※シーズンによって料金が異なりますのでお問い合わせください。
※ソロキャンプ割引・シニア割引あり

Text/Noriy.K Photo/Kenji Mukano

Thanks/ダイワ、ジェットスロウ

※2019年取材