9307店で平飼いしている鶏の旨味をのんびりと田舎家で味わう とり料理瀬戸<左京区>┃奥・京都の名店

店で平飼いしている鶏の旨味をのんびりと田舎家で味わう とり料理瀬戸<左京区>┃奥・京都の名店

男の隠れ家編集部
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叡山電鉄線「市原駅」より徒歩約10分。小さな水車や臼、火縄銃など民俗資料館のような趣のある佇まいの店が「とり料理瀬戸」である。1日3組限定の完全予約制で、平飼いしている鶏を来客時間に合わせて捌いているという、新鮮な鶏料理がいただける店だ。

鶏の旨さを丸ごと味わえば素材の素晴らしさに心震える

出町柳駅からローカル線の雰囲気たっぷりの叡山電鉄に乗り、鞍馬方面を目指す。20分ほど乗車すると、目的の市原駅に到着。1面1線の小さな無人駅で、周囲には住宅が少しあるだけで商店などは見当らない。

出町柳寄りの出口から旧鞍馬街道へ出る。この道の周辺が古くからの集落で、郵便局や神社が見えた。街道を少し南に向かってから右折。すると周囲に畑が広がり、その先に立派な門を構えた農家風の建物が見えてくる。脇に「瀬戸」の看板があるので、ここが目指す店に違いない。

玄関先に下がっている陶器はナスをかたどり、そこに「ようこそいらっしゃい」の文字を透かしにしている。

門をくぐると母屋に続く石畳が延びていて、その周囲には小さな水車や大小の壺などが置かれている。さらに玄関には臼や籠、火縄銃なども置かれていて、まるで民俗資料館のようである。到着時間が早かったのか、屋内は静まり返っていて人の気配がない。玄関でしばらく待つと、奥から品のいい女将さんが現れた。本来は客が到着する時間前に、女将さんたちが門の近くで出迎えてくれる。人の気配がなかったのは、この日の客のために畑で野菜を収穫していたからだそうだ。

普通の農家に迷い込んでしまった錯覚に陥る前庭。民具だけでなく植え込みもよく手入れされている。
玄関先にも生活に使われていた様々な道具が並べられている。右奥の長押(なげし)には火縄銃が2挺、飾られている。

女将さんによれば、もともと農家だったのだが、飼育していた鶏と栽培している野菜を使い、40年ほど前から料理屋を始めたのだという。1日3組限定の完全予約制で、2人以上でなければ受け付けない。というのも鶏はその日の来客時間に合わせ、直前に捌いて提供するからだ。

客室は農家の暮らしも味わってもらおうと、住まいを改修した部屋を使っている。囲炉裏が中心に据えられた部屋と、大人数でも使える和洋折衷の大広間がある。それに加え、庭に離れ家も用意されている。離れ家も囲炉裏を中心に据え、木材の温かみが存分に感じられる内装。三方にある窓には雪見障子が嵌められていて、庭の樹木が織りなす四季折々の表情を楽しめる。離れ家は人気だが荒天時や夏場、冬場の一定期間中は時間帯によっては利用できない。

離れの室内。左の障子は出入口。残りの三方向は雪見障子で庭の樹木を楽しめる。
天井の太い梁が目を引く大広間。囲炉裏ではないがテーブル上で炭火焼きが楽しめる。
炭火は遠赤外線効果で食べ物を美味しく焼き上げる。

そんな特別な雰囲気が味わえる離れ家でしばらく待つと、まずは焼き物の肉が運ばれてきた。もも肉やささ身、胸肉、皮、レバー、砂ずりなど、様々な部位が大皿の上に並べられている。そのどれを見ても艶があり、美しく輝いて見える。

皿に美しく盛られた焼き鶏用の肉。捌きたての肉が見た目にも美しい。

炭火の上に網が載せられ、店の方がそこに手際良く肉を並べる。丁度いい焼き加減になると、皿に取り分けてくれた。まずはもも肉からいただいた。噛み締めると心地よい弾力の肉の中から、力強い旨味が口中にあふれ出た。続いて口に運んだ砂ずりは、シャクシャクとした歯応えと共に、豊かな香りが鼻孔をくすぐる。そしてレバーは豊潤で深みのある甘みに思わず相好が崩れてしまう。

調理は店の人が行ってくれる。

続いて鶏すき用の肉と野菜が運ばれてきた。粗糖、醤油、鶏スープで作るシンプルなすき焼きで、鶏肉はもちろん、多くのものが自家栽培という野菜の旨さも存分に味わえる。鍋の中でグツグツと躍る食材を眺めているだけで、幸せに浸れる。

シンプルな味付けの鶏すきは見た目ほど濃くはなく、素材の良さを引き出してくれる。
一羽丸ごとなので、珍しい部位もいただくことができる。

まずは畑から採ってきたばかりの九条ねぎを味わう。出汁に負けないねぎの甘みが広がる。野菜は合成肥料を一切使用せず、鶏糞と卵の殻のみで育てているのだ。普段口にしている野菜とあまりにも違うので、感動を覚えるだろう。そして主役の鶏肉は、焼きの時とは違った魅力を秘めている。少し甘めの出汁と肉の旨味がほど良く絡み合い、箸が止まらなくなるはずだ。

食事は8500円のコースのみで、焼き鶏や鶏すきのほかに季節の野菜中心の前菜が数種類、締めの鶏雑炊、デザートが付く。この価格の安さは、鶏も野菜も自家製だからこそ実現できたことだ。若干遠方ではあるが、足を運ぶ価値は十分にある。

文/野田伊豆守 写真/むかのけんじ

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いくつになっても、男は心に 隠れ家を持っている。

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