にかほの前浜、海の恵みを食い尽くす

JR仁賀保駅のすぐ目の前、にかほの老舗酒蔵・飛良泉本舗から徒歩5分の距離にある「笹乃井」は、地場の幸を余すことなく味わえる寿司割烹。昭和50年の創業以来、地元の人はもちろん、旅の人の胃と心を温めてきた名店だ。

所狭しと並べられた料理の数々。

寒さが本格的になってきたこの日、肩をすぼめながら訪れてみると馴染み客の宴会で店内は盛り上がっていた(2016年取材当時)。

大将の斎藤金悟さんと親しげに語らう先客たちの邪魔にならないよう、ゆっくりとカウンターに腰を下ろす。何を注文しようか迷っていると「よかったら一緒にどうですか?」と隣から声がかかった。見知らぬ旅の顔にも親しげに接してくれる大将と先客たちに、まだ何も口にしていないのにほっこりと心が温まる。

声と匂いに誘われ、ふと目を移せばカウンターの上で「タラのしょっつる鍋」が湯気を上げながら、芳醇な香りをふりまいている。ええい、恥じらいなどかき捨て、いっそご相伴にあずかろう。

「にかほのタラのしょっつるは、クセがなくて旨味が強いんだ。だから何に合わせたって、んめぇのさ」

魚醤がきいた鍋にはタラの身も白子もたっぷり入って、野菜の甘みも堪能できる。はふはふと息を吐きながら味わう鍋と、辛口の飛良泉山廃純米酒との相性は抜群である。酒はキリっと冷やされ、凍らせた竹の酒器で提供されるのだが、これがまたいい。

前浜で獲れたという「魚介の刺身盛り合わせ」は、ぷりぷりのエビやタコ、つぶ貝、イカなど鮮度抜群の品揃え。特にエビは口に含んだ瞬間から甘みと旨味が弾ける。とろけるような口触りに思わずため息が出た。

「せっかく来たんだから珍しい寿司でも食べないかい?」そう言って提供されたのはハタハタのざっぱ汁が付いたおまかせ握り。ハタハタの卵や白子など東京ではまずお目にかかれない珍しいネタが楽しめる。卵の食感はほかの魚では味わえない弾力と濃厚な旨味が、日本酒と一緒に食べればことさらクセになる。

身がぎっしり詰まったズワイガニや、卵が溢れそうな「ハタハタの焼き物」など、次から次へと提供される地場の味に舌鼓を打つ。気がつけば先客の方々と旅の話や趣味の話で盛り上がり、旅の夜が更けていったのだった。

※2016年取材

写真/池本史彦