出汁と食材にこだわる天王寺の名酒場

日本一の高層ビル「あべのハルカス」をランドマークに近年めざましい発展を見せている天王寺。

大阪ではキタ、ミナミに次ぐ繁華街だが、周辺には聖徳太子が建立した「四天王寺」や大坂冬の陣の舞台となった「茶臼山」など歴史深い史跡があったり、“なにわのエッフェル塔”で親しまれる「通天閣」や西成の町が隣接するなど、天王寺は新旧が混在するいわゆる大阪らしいディープでごった煮感のある楽しいエリアだ。

暖簾に残る西成の店の名残り “立呑処”。

「立呑処」の暖簾がかかる「森田屋」は、JR天王寺駅の北側にある。レトロな雰囲気を漂わせる天王寺駅前商店街に店を構えているが、人通りの多い道に面しているため初めてでも入りやすい。

野菜も地元産が中心。
厳選の地酒も多種揃えている。

墨文字の店名が記された提灯と清々しい白い暖簾に誘われて中をのぞき込むと、昼時だというのに早くも酒を酌み交わす先客の姿であふれていた。

L字型のカウンター席が奥へと延び、空間はゆったりと広め。時間によってその25席が満席になることも少なくないが、待っているとグラスビールをサービスしてくれるという粋な計らいも。

本日お勧めの品書き。ちなみにこの日は鯛塩焼やヒラメの唐あげなど。

「せっかく足を運んでくれたお客さんですからね」と主人の森田東佑さん。電車に乗って通ってくる常連客も多く、隣に座っていた市内在住の3人の男性陣は毎週金曜の昼にここに集まって呑むのを楽しみにしているのだという。
「ワシら金曜の男たちですわ(笑)」

カウンターの冷蔵ケースに並ぶ新鮮な食材。

創業は42年前。最初は西成に店を開き、8年前に現在の場所に移転。暖簾に“立呑処”とあるのは西成時代の名残りだ。店の造りはそっくり再現したが、立ち呑みではなく座って酒と料理を味わってもらうようにしたのだという。

西成で店を開業した当時の雰囲気をあえて残した店内。

料理は“旬菜と海鮮”を掲げるように鮮魚のお造りや焼き物、揚げ物など酒と相性のいい逸品がずらり。一番のこだわりは、毎朝しっかりと仕込む出汁。利尻昆布やカツオなどでとった上品な出汁は、煮物や関東煮(おでん)などの味の基本となる。しかし、料理は本格ながら、値段の安さは思わず笑みがこぼれるほど。

店の一番人気のメニューは「本マグロスキミ(350円)“。すきみ”とはいえ身は厚く、食べ応えあり。
自慢の出汁で食べる湯豆腐(280円)。
日本酒は半合380円~。

「食べて呑んで2000円ちょいで満足できます」。なるほど、店に通いたくなるのも納得である。

京都北山の羽田酒造の「初日の出(1合650円)と共に「あん肝湯引き」(400円)を堪能する。純米無濾過生原酒はしっかりと旨味があり口当たりは軽やか。濃厚なあんこうの肝との組み合わせは絶妙だ。それにしてもあん肝がこの値段で食べられるとは大阪恐るべし。
シンプルな白い看板が目印だ。

文/岩谷雪美 写真/秋 武生