まさに大阪の“ザ・立ち呑み”!
暖簾の隙間から店をのぞき込むと、人の背中でカウンターが隠れて見えないくらいの賑わいで、ちょっとたじろいだ。
「岡室酒店直売所」に着いたのは10時前なのにこの活況。店に入るのを躊躇していると、目が合った客が「どうぞどうぞ、入れるよ~」と引き戸をガラリと開けてくれた。
奥が空いていると促され、カニ歩き状態で進んでカウンターの奥に落ち着く。
隣のひとり呑みの男性客に軽く挨拶すると、
「どっから?」
「わざわざ東京から?」
「今日はお客さん少ない方や~。混む時はダークダックス状態のようやで(笑)」と矢継ぎ早。つまりカウンターにダークダックスのように斜めに重なって呑むらしい。
店があるのはJR大阪環状線と東西線、京阪電鉄などが交差する京橋駅の東側エリア。町の様相を少し説明すると、京橋駅の西側はお洒落な商業ビルが建っているのに対し、東側はいまだディープな昭和の香りがたっぷり。東西でこれほどくっきり異なる町も珍しい。
「♪京橋は、ええとこだっせ、グランシャトーがおまっせ~♪」のCM(関西限定)でお馴染みのレジャー施設グランシャトーの歓楽色は、やや色落ちしながらも健在だ。
そしてこの界隈こそが“昼呑みの聖地”ともいえる場所で、朝や昼からオープンしている酒場は30軒余を数えるとか。夜勤明けの常連や年金生活のご近所さんはもちろん、最近は京橋の店々をはしごする若人も増えているそうだ。
岡室酒店直売所はそんな京橋のなかでひときわ賑わう人気の一軒である。“直売所”とあるだけに製造元から仕入れる酒は、ビールも日本酒も日付が新しいのが自慢。
そして、酒に合うアテがこれまたどれも安くて旨く、壁にびっしり下がる品書きが心をときめかせる。なかでも透き通った出汁で煮込んだ関西式おでんは絶品だ。
「タイの頭で出汁をとってます。刺身もそうだけど素材は妥協しないよ。はい、呑んで呑んで~」と呵々と笑う店主の岡室和成さん。
この豪快な人柄も店の顔。開店から閉店までアクセル全開で、遠慮は無用。扉を開ければ地元客のごとく、すぐに溶け込める楽しい店である。
文/岩谷雪美 写真/秋 武生