酒も肴も超充実した庶民の味方
観光客であふれ返っている四条河原町から、ほんの少し路地を入っただけで、時間軸が50年ほど逆戻りした錯覚に陥る一角が存在する。裏寺町と呼ばれるそのエリアに、正午の開店と共に昼呑みの客が殺到するという、大衆酒場「たつみ」がある。
実際、昼の12時になり扉が開かれたとたん、それまでどこにいたのかと驚かされるほど大勢の老若男女が、店内に吸い込まれていく。少し遅れて店内に入ると、立ち呑みのカウンターに陣取ったひとり呑みの客たちは、みんな早くも酒が注がれたジョッキやグラス、などを傾け、目を細めている。
店内はまず立ち呑みカウンターがあり、その隣にはコの字型の着座カウンターがある。1、2人での来店の場合、このいずれかに案内されることが多い。さらに店の奥へと進むと、テーブル席と2卓分だけ小上がりの座敷が用意されている。どの席に着いても、周りの壁には“これでもか!”というぐらい手書きメニューの短冊が貼り付けられていて、これぞ大衆居酒屋といった風情を醸し出す。
「創業は今から50年以上前ですね。はっきりした年はわかりませんけど、最初のメニューは牛すじと串カツでした」と教えてくれたのは、客席の間を飛び回っていたスタッフの上田翠さん。この2品は今も人気というので、まずは持ってきてもらうことにした。それに脂の乗った「きずし(しめ鯖)」と「鯖のへしこ」「野菜の天ぷら」を注文。どれも日本酒と相性が良いと言われたので、燗酒をお願いした。
切れで酒が3杯は進んでしまう。まさに美味。
トロトロの牛すじは、ひと口食べただけで牛肉の甘みが口いっぱいに広がり、思わず相好が崩れてしまう。日本酒はもちろん、ビールやサワー、ハイボールなどとの相性も抜群だろう。衣がサクサクの串カツは、軽い食感なので何本でもいけそうだ。驚かされたのはきずしである。口に含んだ瞬間、上品な脂の旨味が広がり、思わず杯を重ねてしまった。
日本酒だけでなく、自分で炭酸を注ぐハイボールや瓶入りのハイリキなど、庶民の懐に優しい酒が揃っているのもありがたい。京都とは思えない会計には感激だ。
文/野田伊豆守 写真/金盛正樹