燕岳は「北アルプスの女王」として名高い。山頂から見える景観には息をのみ、さまざまな形をした岩塊と高山植物の美しいコントラストは心を癒し、想像力をかきたてる。

登山初心者でも挑戦できるコースも用意されているため、ぜひ挑戦してみてほしい。今回紹介するのは、人気の登山ルートを中心として、初心者向けの合戦尾根登山ルート、上級者向けの餓鬼岳ルートだ。

燕岳から常念岳を目指す|人気の縦走コース

燕岳はそのユニークな景観で北アルプスの中でも知られている。白い花崗岩と深緑色のハイマツのコントラストによる美しさといくつもの独特の形をした岩の塊が神秘的な雰囲気を作り出している。南に視線を向けると尾根が延々と続いており、大天井岳、常念岳、蝶ヶ岳へと縦走コースが長く延びている。

整備された登りやすい登山ルートで、高山植物の美しさを楽しみながら、他の山に比べて短い時間で頂上に達することができる。

特に人気なのが常念岳へ向かう縦走コース。このコースは槍ヶ岳、穂高の山が常に左右に迫って見え、その迫力も魅力のひとつだ。黙々と歩みを進めると、まるで雲の上を歩いているかのような感覚を覚える。

2泊3日のコースだが、ちょうどいい間隔で山小屋やベンチが点在していて、足場の悪い岩場や急なアップダウンが少ないのも安心して登頂できるポイントだ。

縦走ルートの道のり

まずは燕岳へと向かう。燕岳の登山口で入山届を提出したら、いよいよ入山。1日目は、合戦尾根をたどって宿泊場所となる燕山荘まで到達する道のりで所要時間は約4時間半だ。

北アルプスの三大急登のひとつに数えられる樹林帯を登っていくのだが、ジグザグした道のりになるものの、どんどん山頂に近づいている実感が湧くので、登っていて楽しい。

コースを3分の2程度進むと合戦小屋が見えてくる。標高2,350m地点に位置し、宿泊こそできないが売店がある。軽食や飲み物が用意されていて、水分補給や小腹を満たすのにちょうどいい。夏であればぜひとも食してほしいのが名物のスイカだ。冷えたスイカが火照った体に染み渡り、疲れを癒してくれる。シャリっとした食感も心地いい。

合戦小屋でほっと一息をついたら登山再開。樹林帯を抜けて森林限界に達する。いよいよ燕岳と宿泊地である赤い屋根の燕山荘が視界に入ってくる。そのことが着々と目的地に近づいていることを教えてくれる。

燕山荘は、欧州の山小屋をほうふつさせる佇まいをしており、北アルプス屈指の人気の山小屋だ。そんな山小屋に宿泊できるのも、このコースの醍醐味のひとつ。燕山荘前の広場からは、裏銀座の山々を眺めることもできる。

翌日、燕山荘で昨日の疲れを癒したら、今度は小石や砂の道を下っていく。稜線は頻繁に上り下りを繰り返しながら蛙岩と呼ばれる巨大な石の間を通っていく。
行く先には槍ヶ岳がそびえていた。晴れた日の槍ヶ岳もいいが、濃い雲が出てくると白いベールに包まれ、神秘的な景観を堪能できる。

その後、大下りの頭と呼ばれる急な坂に差し掛かり、約100mを一気に降下する。槍ヶ岳と常念岳の分岐点では左方向にあるトラバース道を進んでいき、いよいよ大天井岳へと向かって行く。

この道がコースの中で最もきつい。無言になりながら登っていくと、30分程度で中間地点にある大天荘に到着する。小屋の裏手には常念山脈最高峰の大天井岳(標高2,922メートル)が迫っている。いつの間にか槍ヶ岳もすぐ正面に見ることができる。

大天井岳からの道のりは緩やかな稜線が続く。東天井岳、横通岳などの小さな山頂を巻きながら、ときには深緑が綺麗なハイマツの中を進んでいく。2日目の宿泊地・常念小屋までは約2時間の行程だ。右に視線を向けると、穂高連峰の壮大な景観を楽しめる。

横通岳と常念岳のちょうどくぼみに位置している常念小屋で体を休めながら、南側のすぐ目の前には大きくせり上がった標高2,857mの常念岳を見ることができる。山頂の方にはゴツゴツとした岩の道が続いており、見ているだけで気分が盛り上がる。

幻想的なモルゲンロートを楽しみながら、翌日の早朝には小石と岩が混ざるジグザグの道を進んでいく。登れば登るほどに視界が開けてきて、天空へ向かっている気持ちになる。

濃密な雲海を見ながら、北西側の槍ヶ岳、穂高連峰から立山、後立山連峰まではっきりと見渡せる。ここまで来れば、常念岳の頂上のすぐ近くまで来ていることを実感できるだろう。

登山初心者から上級者向けまで

続いて初心者向けとして合戦尾根登山ルートを、上級者向けとして餓鬼岳ルートを紹介していく。

初心者向け|合戦尾根登山ルート

剱岳の早月尾根、烏帽子岳へのブナ立尾根と並んで北アルプスの三大急登と言われる合戦尾根。しかし、危険な箇所は少なく登山初心者でも安心して登れること、標高差が1,243メートルであることから北アルプスでの入門コースとして人気を集めている。

このルートは1泊2日を想定していて、燕岳登山口から入り、第二ベンチ、合戦小屋を経由して燕山荘で1泊目を迎える。2日目は燕山荘から出発し、燕岳登頂後、燕山荘、合戦小屋と来た道を引き返し、燕岳登山口に到着することになる。

燕岳登山口は中房温泉にある。中房温泉の「湯原の湯」の横を進むと合戦尾根ルートの登山道入口が見えてくる。登山口に足を踏み入れると、そこから樹林帯の中をジグザグな斜面を登っていく。その後、樹林帯を抜けると丸太で作られた「第一ベンチ」と書かれた休憩スポットに出る。

この休憩スポットは合戦尾根ルートで唯一水が飲める場所だ。決して水量は多くはないが、冷えた湧水が体に染み渡り、美味しく感じる。休憩スポットを過ぎると約30分ごとに第二ベンチ、第三ベンチ、富士見ベンチとベンチが置かれた休憩スポットがあり、さらに富士見ベンチから約30分登ると合戦小屋が見えてくる。

合戦小屋をから少し歩くと、右手に燕岳が見えてくる。この辺りからは徐々に傾斜が緩み始め、足が前に出やすくなる。

さらに足を進めると、常念山脈の稜線上に赤い屋根をした瀟洒な建物が目に入る。それが燕山荘だ。燕山荘からは約30分で燕岳の山頂に立つことができる。

上級者向け|餓鬼岳ルート

餓鬼岳は常念山脈の最北端に位置している標高2,647メートルの山だ。餓鬼岳からの稜線は北西に続いていて、最終的には唐沢岳から高瀬ダムへつながる。

餓鬼岳の魅力は多く、落差40メートルもある圧巻の「魚止ノ滝」や、剣ズリに代表される岩峰群のスリルが味わえる稜線歩きなどがある。登山者を飽きさせない好ルートと言えるだろう。

しかし、それと相反して餓鬼岳に挑戦する登山者は少ない。そもそも餓鬼岳コースの登山口である白沢三股登山口付近には公共交通機関がない。そのため、タクシーなどの車で向かう必要がある。さらに、標高差が約1,600mもある点、ハイペースで進んでも5時間半はかかる長丁場なコースである点などが手伝い、夏場のシーズン中でも餓鬼岳コースが登山客で賑わうことはない。

その分、黙々と山と向き合いながら登りたい上級の登山者にはおすすめのコースだ。体力に自信がないようなら、2泊することを考えるのが無難だろう。

なお、登山口付近には20台ほど車が置ける路肩の駐車スペースがあるので、マイカーでも安心だ。

写真/佐藤佳穂、松尾啓司(一部)、getty images