12116海の強者フランシス・ドレイクがもたらした『モヒート』|ラム&ミントでつくる珠玉の1杯

海の強者フランシス・ドレイクがもたらした『モヒート』|ラム&ミントでつくる珠玉の1杯

男の隠れ家編集部
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今やバーのみならず居酒屋でも気軽に提供されるカクテル『モヒート』。ラムとミントの爽やかな飲み口で老若男女問わず人気を得ているが、その誕生話は意外と知られていない。イギリス女王公認の“海賊”、フランシス・ドレイクの人生と、モヒート誕生の裏側を探る。
目次

女王公認海賊の語り注がれる人生と共にある酒

日本では2010年代から、空前のモヒートブームが到来したといっても過言ではないだろう。しかし、それも日本だけでなく世界的にブレイクし、今や夏だけでなく通年の定番カクテルとするバーも少なくない。

爽快な味わいなモヒートの誕生をひもとけば、カリブ海を横行した海賊に行き着く。映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジョニー・ディップ扮するジャック・スパロウにしても、酒はラムと決まっている。ラムは当時、最も手に入れやすい酒であり、薬でもあったのだ。

ここで、アウトローからナイトの称号を得るまでに成り上がった伝説のイギリス人海賊、フランシス・ドレイクについて触れねばなるまい。

1590年頃に描かれたとされるフランシス・ドレイクの肖像。

舞台は1500年代後半。コロンブスの新大陸(アメリカ)到達以降、カリブ海はサトウキビによる製糖産業で沸いていた。労働力の奴隷の調達地とされていたアフリカ、新大陸を含むヨーロッパ、サトウキビ栽培を手がける西インド諸島において、三角貿易がなされていた。弱肉強食の社会システムである。

ドレイクはスペインの財宝を奪うべく、エリザベス女王より私掠(しりゃく)特許状を下付された。私掠船とは、いわゆる海賊とは一線を画し、政府公認で他国の船を攻撃・拿捕することを認められた特別な船のこと。

さらに、ドレイクは後にイギリス人として初めて世界周航を達成。エリザベス女王に献上した膨大な収益は、東インド会社経営の基礎となった。やがてイギリス海軍の中将に任命され、プリマスの市長にも選任されるのだった。エリザベス女王はナイトの称号を与え、ドレイクを「私の海賊」と呼んで労ったという話も残っている。

命を危険にさらす日々。ドレイクと屈強な海の男たちが乗り込む船上で、魂を奮い立たせ、慰めもしたのがラムだった。部下のリチャード・ドレイクが、サトウキビの蒸留酒「アグアルディエンテ」とライム、ミント、砂糖を合わせ『ドラゲ』というカクテルを作ったのだが、これがモヒートの原点になったとされている。

世界中で愛される爽快なカクテル“モヒート”

ミントの爽やかな緑色と清涼感あふれる香り、ソーダの爽快な飲み口が特徴のカクテル『モヒート』。ラムの芳醇な甘さは果実にも合い、アレンジがきくことで愛されている。

1862年以前、ラム酒を作り始める前のキューバで、「ドラゲ」と呼ばれていたカクテルがモヒートの前身とされ、ハバナをコレラが襲ったときには、木製のスプーンと共に提供され、医療目的でも消費されていた。その後、バカルディ社が自家製ラムを用いてドラゲを改良し、モヒートが誕生したという。

時を経て、アメリカで禁酒法(1920~1933年)が施行されると、アメリカ人たちはこぞって国外へと酒を飲みに出た。カナダ、メキシコ、そしてカリブ海。地元の蒸溜所は大いに栄え、モヒートは彼らにとっても馴染みある酒となっていく。洗練された軽やかな飲み口からは程遠い、モヒート誕生の舞台。次の1杯は、伝説の海賊に思いを馳せてみてはいかがだろうか。

取材協力/海老沢忍(SCREW DRIVER) 文/沼由美子 写真/古末拓也

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