「相手への思いやり」を核にするのが武士の礼法といわれている。それを体現することは実はそんなに難しいことではない。ここでは現代においても、すぐに実践ができる“礼法の基本中の基本”を紹介する。日々の生活のさまざまな場面で役立てたいものばかりだ。

『礼』について

礼は日本の伝統文化。海外できちんとした礼をした際に、相手に喜ばれた経験がある人も多いのではないだろうか。武士のお辞儀は、大きく分けると3段階あるとされている。

1、軽く上体を15度ぐらい前に傾ける「会釈」
2、会釈より深く45度ぐらい前傾させる「敬礼」
3、上体を90度近く前傾させる「最敬礼」

お辞儀ひとつでその人の人間性が出るといっても過言ではない。ビジネスの場面でも、そのシーンに最適なお辞儀をしっかりできることが己の評価を上げるきっかけにもなるだろう。相手に対する思いやりを表す礼法において、もっとも重要な項目のひとつが『礼』なのだ。

『姿勢』について

正しい姿勢を保つことは、正しい位置に内蔵を保ち、全身の筋肉をまんべんなく使うと同時に、もっとも疲れにくいとされている。武士の正しい姿勢を保つコツは、丹田(へその下周辺)に意識を集中することだ。

立つときは胸を自然に張ってあごを引き、頭のてっぺんを吊られている感覚を持つと良い。また、正座は尻と腿の裏の間に、半紙が1枚挟まっていると思うのがコツだ。

その際、背中は頭のてっぺんから糸で引っ張られているような感覚になると良い。姿勢はあらゆる日常動作の土台ともいえる。武士道では幼い頃から立ち振る舞いの訓練を繰り返したといわれている。

「義士四十七圖」より/国立国会図書館蔵

『表情』について

笑いが免疫力を向上させることが医学的に証明されているように、表情を明るく保つことは美しい姿勢と同様、健全な肉体と精神を育む。他者に気遣いさせたり、心配をかけたりすることは失礼なこと。自分自身の機嫌にかかわらず、表情を明るく保つことは武士道において重要な振る舞いだ。

新渡戸稲造の『武士道』にも「日本人の微笑の裏に隠されたもの」という内容があるが、これは微笑みが非常に高貴な精神から発することを海外に向けて紹介したものだ。日本人独特の感覚であり、まさに“武士道”をわかりやすく体現した、ひとつの形といえる。

新渡戸稲造/国立国会図書館蔵

『歩き方』について

歩き方も動作の基本中の基本である。「姿勢」の項目で述べたことと同様に、丹田に意識を持っていき、自然に力を入れるようにするのがコツである。

正しい姿勢を保ったまま歩くには、5mほど先を見るようにするのが秘訣。その上で、つま先を前に向け、膝を曲げたりしないように注意しながら、自然に足を前に出すようにする。

ちなみに女性の場合は、着物を着ている際にはこの歩き方は変える必要がある。足先を常に内側に向け、膝をすり合わせるようなつもりで裾が乱れないよう小さな歩幅で歩くのが良い。

『言葉づかい』について

日本は言霊信仰の伝統を持つ。武士道においてもその傾向は顕著で、例えば不吉なことを予感させるような言葉や、相手に向けた悪口などは「自分を穢すもの」としてタブーとなっている。悪口を言わないようにすることは、自分の弱い心に打ち勝つことでもある。

武士道において重要な「己に克つ」姿勢を養う意味でも、心がけたいことだ。また、言葉は使う人の心持ちを示すものでもある。自信がないとそれを隠すためについ大げさな表現になりがちだが、控えめなこと、慎みのあることが美徳とされている武士道には相応しくない。誠意ある言葉を自然に使えるように努めることが必要だ。