自らを向上させる「克己」を旨とする武士道には、ビジネスの世界に活きる処世訓が詰まっている。武士道から学べるビジネスマナーを紹介しよう。

武士の時代を切り拓いたといわれる源義家/国立国会図書館蔵

『仕事は自分でつくる』

何も言いつけられないからといって、ぼんやりしているようでは仕事は務まらない。それは武士はもちろん、現代でも同じことだといえる。自分の考えをもって、自分から動くことができなければ、武士道の根本にある「克己」には至らない。己を向上させ続けるためには、自分自身に常に問題を課すことが重要なのだ。

『損得では判断しない』

人や仕事はもちろん、物についても「損か得か」では判断しない、というのが武士道の教えだ。武士道では、何かを選ぶときに損か得かを考える「損得勘定」はみっともないこととされている。損得だけを考えるようになってしまうと、財産や名声ばかりに目がいくようになってしまい、本質を見失うからだ。質実を重んじるのが武士道である。

『徳は本なり、財は末なり』

武士道では、己の利益ばかりを重視して金銭を「本」としてしまうと、仕事に対する誠実さや仁徳を失うと考えられていた。あまりに高潔で清廉すぎたゆえ、「武士の商法」として嘲笑の対象になったこともあるが、仕事に対する誠実さを失えば不正や悪徳が横行し、世の中に暗い影を落とすことにもなる。公を重んじる「無私」の精神を心がけたい。

『弱さを克服する』

武士道では気分や感情、目先の欲望に打ち勝つことを「克己」という。“自分自身を乗り越え、文字通り己を克服する”という意味で、これは生涯の心がけとされた。弱さを克服し、強い心を育むことで、優しさは本物となり、人に対して寛容になれるのだ。克己心はすべてのサムライに求められた武士教育の根幹ともいえる。

『嘘は悪循環を生む』

嘘は悪循環を生み、自分自身の心を弱くする原因だというのが武士道の考え方だ。嘘をつけば後ろめたく、心に咎が生じ、誰かから責められないかと疑心暗鬼になるもの。汚職事件や偽装事件などは嘘をつくことで自ら悪循環を招き、破綻していく代表的な例だろう。嘘は「克己」を根幹とし自己の向上を目指す武士道精神とは対極の存在なのである。

『逃げ場は気を弱める』

武士道では「逃げ場」を作っておく、という考え方は自分の首を絞める行為に等しいとされる。これは引き返す道がないと覚悟してこそ全身全霊で立ち向かえる、と考えられているからだ。武士は戦に臨む前に土器で酒を酌み交わし、一息にあおった後は土器を叩き割ったという。自ら退路を断つことで十二分に力を発揮しようとしたわけだ。

『武士に二言はない』

武士道を語る際によく聞かれる「武士に二言はない」という言葉。これは、言ったことは必ず成す、という武士道の「誠」が端的に表れている。言ってしまった以上は必ず取り組んでみることが大切だ。たとえその結果が思うようなものではなかったとしても、周りの人は感心するだろう。

『怒りを外に出さない』

ひとたび何か事が起きれば、俊敏かつ的確に行動することが求められていた武士にとって、怒りや恨みはいらない錘のようなもの。足かせになるだけで何の役にも立たないものだという考え方だ。また、怒りを消し去り、恨みを抱えないようにすることは「克己心」の修養につながる。ストレスの多い現代社会において、肝に命じておきたい。