男の隠れ家本誌で連載中の人気コラムニスト泉麻人氏によるエッセイ。東京町歩きから昭和、サブカルチャーまで幅広いテーマでの独特の語り口が定評の著者による、往年の名車が活躍した時代から昭和を紐解く。

ウルトラQ 万城目淳のオープンカー

子どもの頃、街頭でよく見掛けた車にプリンス―というのがあった。中島飛行機のエンジン部門(富士精密)や伝説の電気自動車「たま」を生産した立川飛行機を前身とするメーカーで、1960年代後半に日産と合併して消滅してしまったが、いまも現役のスカイラインはプリンス自動車から生まれた名車だ。

僕がプリンスの車の銘柄やデザインを意識するようになったきっかけは仁丹が出していた自動車ガム。板ガムと同じサイズの自動車カードが1枚入っていて、このなかに初代のプリンスグロリアやプリンススカイラインのカードもあった。ちなみにこの自動車ガムのカード、いまもストックブックに保存しているけれど、アメリカやドイツの名車からソ連など共産圏の車まであって、日本車もヒルマンやミカサなんて渋いところまでフォローされている。

グロリアやスカイラインはタクシーにも使われていたから、何度か乗ったおぼえがあるけれど、このスカイラインスポーツというモデルはまず街で目撃することはなかった。1962年に発売されて、64年には生産中止になってしまったレアなスポーツカー、イタリアのミケロッティがデザインしたという“吊りあがった2つ目ライト”のマスクが印象的だった。

実はこの車のコンバーチブル型のミニカー(アサヒトーイ)を持っている。ミニカーが販売されるということは、子ども向けの乗物絵本なんかにも描かれる人気のモデルだったのだろう。

このプリンススカイラインスポーツのコンバーチブルの雄姿が眺められる映画がある。NHKの人気ドラマ「若い季節」を映画化した東宝の「続・若い季節」(64年制作)。化粧品会社のオシャレな女社長に扮する淡路恵子が真っ赤なスカイラインスポーツに乗って、できたばかりの首都高から都心のオフィスに出社してくるシーンから始まる。

そしてもう1作、これはオトナになって再見してから気づいたことなのだが、あの「ウルトラQ」の人間側の主人公、セスナ機パイロットの万城目淳(佐原健二)の愛車がなんとスカイラインスポーツのコンバーチブルなのだ。総計25台しか生産されなかったというこのコンバーチブル型は、当時195万円の価格だったというから万城目淳、けっこうな裕福者といえる(時計もローレックスだ!)。あるとき、ふと気になってDVDで両作の車のナンバープレートをつぶさにチェックしたところ〈品5わ1・29〉という同一車なのだった。コレ、東宝の大プロデューサー・藤本真澄氏の所有車…と聞いた。

文/いずみ あさと
コラムニスト。1956年、東京都生まれ。東京ニュース通信社に入社し、「週刊TVガイド」の編集を行いながら「ポパイ」など雑誌への寄稿を始める。84年よりフリーに。主な著書に『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』『昭和40年代ファン手帳』。

イラスト/小玉英章
1952年、岐阜県生まれ。イラストレーター、スーパーリアリズム作家。書籍の表紙や挿絵、企業広告のイラスト等を多く手がけるほか、個展、グループ展への出展も多数。第38回日本出版美術家連盟展大賞受賞、NYソサエティオブイラストレーターズ入選。