かつての日本では、乗り物といえば「路面電車」だった。懐かしの昭和の風景をもう一度見たいという人のために、2020年現在、路面電車が現役で走る街を紹介しよう。
路面電車の歴史を辿る
路面電車の始まりは、明治時代まで遡る。1890年の内国勧業博覧会を契機に電気鉄道が注目を集め、1895年に「京都電気鉄道伏見線」が開業し、路面電車が街中を走るようになった。
その後も全国各地で次々に新たな路線が開業し、路面電車は都市交通の主役となっていった。やがて自動車の普及が進むにつれて、それまで最盛を誇っていた路面電車は徐々に主役の座を奪われ、衰退の一途を辿ることとなる。
懐かしき昭和の風景。全国の路面電車が走る街
少なくなったとはいえ、路面電車は今なお各地で運行を続けている。路面電車に乗ることができる街を地方ごとにご紹介しよう。
北海道
札幌では「札幌市電(札幌市交通局)」が、函館では「函館市電(函館市企業局交通部)」が現役だ。札幌は、雪を跳ね飛ばす冬の「ササラ電車」が有名。一方の函館は、レトロ感あふれる期間限定の「函館ハイカラ號」は特に人気が高い。
関東
東京で「都電荒川線(東京都交通局)」と「東急世田谷線(東急電鉄)」が健在だ。荒川線は荒川区~新宿区を、世田谷線は世田谷区を走っているが、どちらも大半は電車のみの専用軌道で、車と並行するのは一部区間だけとなっている。
中部
愛知で「東田本線(豊橋鉄道)」が豊橋市を走っている。市民には「市内線」として親しまれており、日本一急なカーブがあることでも有名だ。
北陸
富山市で「富山市内軌道線(富山地方鉄道)」と「富山港線(富山ライトレール)」が、高岡市・射水市で「ドラえもんトラム」が人気の「万葉線(万葉線株式会社)」が走っている。さらに福井にも、福井市と越前市を結び、鉄道用車両も走行可能な「福武線(福井鉄道)」がある。
関西
京都市と滋賀の大津市を結び、地下も走行するという「大津線(京阪電気鉄道)」がある。京都には、「嵐電」の名で親しまれる「嵐山本線・北野線(京福電気鉄道)」も走っている。また、大阪市と堺市を結ぶ「チン電」こと「阪堺線・上町線(阪堺電気軌道)」も有名だ。
中国、四国
通称「岡電」と呼ばれる「東山本線・清輝橋線(岡山電気軌道)」が岡山市内を走っている。広島市内には「市内線(広島電鉄)」が通っており、こちらは6線8系統に及ぶ国内最大規模の路面電車として有名だ。また「伊野線・桟橋線・後免線(とさでん交通)」は、高知市・南国市・いの町にまたがる、現存する中では日本最古の路面電車である。愛媛を走る「松山市内線(伊予鉄グループ)」は、「軌道への車の進入が禁止」という珍しい路線だ。
九州
長崎市内では、一般に「電車」と呼ばれる「長崎電気軌道」の路面電車が走っている。全国から譲り受けた車両を使用し、昭和の原風景を今も留めている。熊本と鹿児島では、大正時代から続く市営の「熊本市電」「鹿児島市電」が、それぞれ今も変わらず運行されている。
路面電車は現在、地元の方でなければそうそうお目にかかれない希少なものとなっている。もし旅行などで見かけることがあれば、ぜひ一度乗ってみてほしい。特急電車や地下鉄などとは一味違った、路面電車ならではの懐かしい雰囲気を楽しめるだろう。