25600「歩く」と「脳」の密接な関係|「歩くと認知症になりにくい」はホント?〈歩けば活性化する脳の機能〉

「歩く」と「脳」の密接な関係|「歩くと認知症になりにくい」はホント?〈歩けば活性化する脳の機能〉

男の隠れ家編集部
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歩行と脳の機能が密接に関連していることが最近分かってきた。例えば、歩くとストレス解消になる、アイデアが浮かぶ、そして認知症になりにくくなる、等々。なぜ「歩く」ことと「脳」の機能が結びついているのだろうか。
目次

語り◎堀田晴美
(東京都健康長寿医療センター 老化脳神経科学研究チーム 自律神経機能研究)

歩けば活性化する脳の機能と血流

高齢者は「寝たきりになると認知症になりやすい」、そして、その逆に「よく歩くと認知症になりにくい」と言われている。

例えば70~80歳の女性の認知機能テストの成績と日頃の運動習慣の関係を調べた研究によると、日頃よく歩く人は歩かない人に比べてテストの成績が良いことがわかる(下図)。なぜ歩行が脳に影響を与えるのだろうか。

【その1】脳の働きを活性化する物質とは?

脳が正しく働くためには、絶えず十分な血液が流れている必要があります。脳の働きを担う神経細胞は、血流不足にとても弱く、再生能力もありません。高齢者やアルツハイマー型認知症患者では、大脳皮質や海馬(記憶などを司る部位)で脳血流の低下がみられます。

この大脳皮質や海馬には、大脳の奥からアセチルコリンという化学物質を放出する神経(アセチルコリン神経)が来ています。私たちは、ラットを用いた研究により、このアセチルコリン神経を活性化させることによって、大脳皮質や海馬のアセチルコリンが増え、その働きによって脳の内部の血管が広がり、血液の流れが良くなることを発見しました。

また、アセチルコリンが、脳を守る重要なタンパク質を増やすことも明らかにしました。さらに、アセチルコリン神経の働きを高めることにより、神経細胞のダメージを軽減することも確認しています。つまり、アセチルコリン神経は脳の健康を維持するうえでとても大切なのです。

● 高齢者やアルツハイマー型認知症患者は脳血流が低下。
● 神経細胞のダメージを軽減する化学物質を確認。
● その物質が脳内部の血液の流れを良くする神経を活発化。

【その2】歩けば脳が活性化するワケ

歩行が脳のアセチルコリン神経を活性化して海馬や大脳皮質の血流を増やすのではないかと考え、それを証明する実験を行いました。その方法は、ラットをランニングマシンの上を歩かせて、その際の海馬の血流と血圧を同時に測定するものです。

歩く速さを、「遅い」「普通」「速い」の3段階に分けて、それぞれ30秒間歩かせてみます。すると、いずれの速さで歩いても、歩行中の海馬血流が増加しました。海馬の血流は、歩行開始直後から増えはじめ、歩行をやめると徐々に元に戻ります。

特に「普通」の速さで歩いた時でも、海馬のアセチルコリン量を調べると、変わりなく増えることがわかりました。つまり、血圧があまり上がらない程度の無理のない歩行でも海馬のアセチルコリンが増え、海馬の血流が良くなるのです。また、興味深いことに、老齢のラットでも、若いラットと同様の結果が得られました。無理せずゆっくり歩くことは、年齢に関係なく脳の血流を増加させるのです。

● 歩くと海馬の血流と血圧が増加した。
● 無理のない歩行で海馬の血流が良くなった。
● 年齢に関係なく歩くと海馬血流が増加した。

【その3】手足の刺激でも脳の血流は増す

歩くことや運動ができない場合でも、皮膚や筋、関節に刺激をあたえることで、脳が活性化することがわかりました。

麻酔をかけたラットの皮膚を刺激する実験では、アセチルコリンを作る神経細胞の活動が高まり、大脳皮質でアセチルコリンが放出され、血流が増加しました。体のどの部位の刺激でも血流増加の効果がみられますが、特に手や足への刺激は効果的です。

皮膚をゆっくりとブラシで擦るような軽い刺激でも、15分続けると血流がとても増えてきます。また年相応の物忘れがある程度では、アセチルコリン神経がまだたくさん残っていますので、体への刺激によってアセチルコリンを増やすことが可能となります。

つまり歩いたり皮膚を刺激したりすることで、抗認知症薬と同じ効果が期待できることになります。アセチルコリンを作る神経が病気で少なくなる前なら、薬に頼らないで無理のない日常的な運動や体への刺激によって、認知症を予防できる可能性があることがわかります。

● 皮膚を刺激することで海馬への血流が増加。
● 実験の結果、特に手や足への刺激が効果的。
● 薬に頼る前に体への刺激で認知症を予防。

【まとめ】「歩き」による「脳」への効能

効能1「歩くことと健康寿命」

人間誰しも長寿を願うが、同じ長寿でもやはり健康な体で長生きをするのが理想だ。その健康寿命を延ばすには死亡原因の上位を占める「心疾患」「脳血管疾患」などの生活習慣病を予防することが大事。

それには、栄養バランスに留意した食生活などがあげられるが、やはり適切な運動が効果的だ。そこで有酸素運動の「歩く」ことによって血糖値を下げ、脂肪を減らし、さらにストレス解消効果で生活習慣病を予防することが効果的なのだ。

効能2「散歩で生まれるアイデア」

「歩く」ことが体に良いことなのは当然。歩くことで心肺機能が活発に動き、それによって血液も体中に送られ、脂肪も燃焼して新陳代謝も良くなる。

だから体に悪いわけはない。つまり難しい脳内物質の話しを出さなくても、歩く=酸素・血液の循環が良くなる=脳にも新鮮な酸素と血液が届く=脳が活性化する、というシンプルな図式なのだ。その理由も解明されているが、難しく考えずにアイデアに詰まったら歩いてみることをお勧めする。

効能3「歩いてストレス解消!」

怪我や痛みなどの身体的ストレスを加えられるとあるホルモンが分泌されストレスを和らげることが知られている。ところが現代病の精神的ストレスにはそのホルモンが効かず、体内に留まって脳の記憶中枢などを傷つけてしまうのだ。

このホルモンをうまく消し去ってしまう方法が歩くことなのである。イライラすると歩き回るのは、このホルモンを消そうとする行動と言われている。それなら颯爽と歩いてストレスを解消してみよう。

効能4「プラトンも歩いて考えた!?」

古代ギリシャでは「歩くことが最良の薬」といわれた。つまり「歩く」と「健康」は直結している、ということが2000年以上も前から言われていた。また哲学者アリストテレスの講義は歩きながら行われていたという。

ソクラテスもプラトンも歩きながら議論を戦わせた。「効能3」で述べたように議論を歩きながらすると、歩くことで脳を傷つけるストレス物質を無くせるので感情的にならずに前向きな議論を交わすことができるのかもしれない。

※2018年取材

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