【著者】河合 敦(かわい あつし)
歴史研究家、歴史作家、多摩大学客員教授、早稲田大学非常勤講師。1965年、東京都生まれ。青山学院大学文学部史学科卒業。早稲田大学大学院博士課 程単位取得満期退学。歴史書籍の執筆、監修のほか、講演やテレビ出演も精力的にこなす。主な著書に『この歴史、知らなくてすみません。47都道府県・感動の日本史』(共著、PHP文庫) 、『幕末・明治偉人たちの「定年後」』(WAVE出版)、『日本史は逆から学べ』(知恵の森文庫)など。
本書で紹介する13人は、いずれも神から与えられたギフトを有する天才ではない
作家としての私の生きがいは、日本史の楽しさ、面白さを世の中に広めることにあります。そこで今回は、教科書に登場する偉人以外にもまだまだ日本にはスゴい人物がいることを紹介し、みなさんに驚いてもらおうと考えたのが、この本の執筆動機です。江戸時代を選んだのは、250年以上も平和が続いたことで社会が安定し、さまざまな分野で素晴らしい才能を開花させた人間たちを多く輩出したからです。
例えばものづくりの奇才として登場する田中久重は「発明がしたい」、それが彼の生きる原動力でした。ただ、発明によって久重が人間的に大きく成長していった過程に興味を覚えました。単に人を楽しませる作品(カラクリ人形など)から人に役に立つもの(無尽灯など)へ、さらに日本のためになるもの(蒸気船など)へと発展を遂げていった。発明という同じことをしながら、同じ場所に留まっていない。それがスゴいなと感じました。
また牧庵鞭牛(ぼくあんべんぎゅう)という僧侶は四十一歳。当時としては初老です。そんな彼が悪路のために命を失う者が絶えないことに心を痛め、たったひとりで道路の開削を始めます。当初人々は好奇の目で眺めていましたが、やがてひとり、ふたりと同調者があらわれ、ついに多くの協力者を得て30年で400kmに及ぶ道路を開きます。無私の心が偉業につながることを改めて実感しました。
この「奇」という言葉は「ふしぎな」、「思いがけない」、「正規でない」という意味もあります。本書の人物たちは、いずれも神から与えられたギフトを有する天才ではありません。「楽しいから。必要に迫られ。他人のために」など、その理由はさまざまですが、いずれも凄まじい努力や労力を払った末に高い能力を獲得した人々です。つまり私たちも天才になれなくても、その道の奇才になることは可能なのです。そんな事実を知ってほしいと思っています。
知られざる江戸の偉人たちの生涯を紐解く
「誰も知らない 江戸の奇才」
河合敦 著 880円+税 サンエイ新書
【第一章】ものづくりの奇才
田中久重●発明家 武田斐三郎●大洲藩士
【第二章】経営の奇才
佐竹義宣●秋田藩初代藩主
銭屋五兵衛●商人 調所広郷●薩摩藩家老
【第三章】インフルエンサーの奇才
西川如見●天文学者
崎門の三傑(佐藤直方、浅見絅斎、三宅尚斎)●儒学者
河田小龍●日本画家・思想家
【第四章】己の信念を貫いた奇才
牧庵鞭牛●僧侶 白井 亨●剣客
【第五章】愛に生きた奇才
江馬細香●漢詩人・画家