4511一面オレンジ色の自然美 “”草紅葉””を愛でる 秋の尾瀬を歩こう””

一面オレンジ色の自然美 “”草紅葉””を愛でる 秋の尾瀬を歩こう””

男の隠れ家編集部
編集部
9月中旬から10月上旬にかけて尾瀬ヶ原一面を彩る〝草紅葉〞。 尾瀬の紅葉は、その2つの色調に常緑樹の緑が加わった3色の競演美が見事だ。 静けさを取り戻した季節こそ訪れたい尾瀬。遙かなる秋の尾瀬ヶ原湿原をゆっくりと歩いた。
目次

尾瀬ヶ原と尾瀬戸倉温泉
[コース] 鳩待峠→ 山ノ鼻→ 牛首→ 見晴

落葉樹林の紅葉彩る鳩待峠から山ノ鼻へ

夏を謳歌した湿原の草花が終わりを告げると、一面はやがてオレンジ色の装いへと変化していく。どこまでもどこまでも広がる〝草紅葉〞の絨緞。そして、朝露にしっとりと濡れたその絨緞を縫うように、まっすぐに木道が続いている。

透明感と静寂、凛とした冷気。彼方には主峰の燧ヶ岳(標高2356m)が靄の中に浮かび上がり、幻想さを際立たせている。「この木道を歩いて行くのか……」。天国の道のようなそのアプローチを目の前に、早くも心のときめきを覚えた。

歩いていたのは、秋色に染まる早朝の尾瀬ヶ原。群馬県側の登山口、鳩待峠から樹林帯を1時間程ゆるやかに下った山ノ鼻からその湿原は大きな広がりを見せる。東西約6㎞、南北2㎞の高層湿原。落ち葉などの堆積物・泥炭にミズゴケなどが生育して盛り上がった湿原を高層湿原と呼ぶが、尾瀬はその典型的な地形を成し規模は本州最大を誇っている。水芭蕉や夏の花々で華やいだ季節とは異なるもうひとつの尾瀬ヶ原の自然美。

今回の山行ルートは、鳩待峠から燧ヶ岳の麓にある見晴エリアを目指す片道約9㎞、約3時間余の道のり。見晴の山小屋で一泊し、尾瀬ヶ原をゆっくりと往復する山旅だ。 

湿原の秋景色の前に出会う 鳩待峠からの樹林帯の紅葉

まずは登山口に敷かれた種子落としマットで靴底の汚れを払って山へと入る。

これは外来植物の侵入を防ぎ尾瀬の生態系を守るためのもので、大清水の先の一ノ瀬、富士見峠などの登山口に設置されている。国立公園および特別天然記念物指定、ラムサール条約登録湿地ゆえの尾瀬ルールだ。

黄葉が眩しいブナの森が広がる山ノ鼻までの落葉広葉樹林帯。ところどころカエデやシラカバなどの彩りも見られ、木々の香りも清々しい。

登山道は基本的に下りで木道や木階段が整備されているのだが、実は朝露や雨に濡れているとこれがけっこう滑りやすく注意が必要だ。足をフラットに置くことが大事なのだが、靴底の厚い登山靴もどちらかというと不向き。湿原を往復するだけならむしろスニーカーのほうがいいようだ。

これは、以前出会った尾瀬の歩荷(ぼっか)さんからのアドバイス。彼らは80㎞以上もの荷物を背負って小屋へと運ぶ強力たちで、木道の歩き方を熟知している。彼らにならい、ゆっくり一歩一歩。時に足を止めて色づく葉を眺めながら先へと進むと、やがて山ノ鼻ビジターセンターの建物が見えてきた。

尾瀬には山ノ鼻と尾瀬沼の2カ所にビジターセンターがあり、それぞれ自然保護活動とともに資料展示、自然観察会などを行っている。

二つの名峰に抱かれた草紅葉の尾瀬ヶ原を歩く

山ノ鼻からはいよいよ朝靄に包まれた尾瀬ヶ原へと足を踏み入れる。湿原の遙か彼方へと続いていく木道。自然保護のためけっして木道を外れて歩いてはいけないが、先の樹林帯の木道より比較的よく乾いていて、ずっと平らなので歩きやすい。 

すでに数人の登山客が燧ヶ岳方面へ向かって歩いているのが小さく見える。遠くまで見渡せる圧倒的な開放感と安心感。ふり返ると、尾瀬のもうひとつの名峰・至仏山(標高2228m)がどっしりと大きな山容を構えていた。燧ヶ岳を急峻で男性的と喩えるなら、至仏山はゆったりと女性的。

標高約1400m地点にある尾瀬ヶ原は、その二つの山に抱かれるように広がっている。そして秋ならではのうっとりするような草紅葉の光景。晩夏から初秋にかけて紫色の花をつけるサワギキョウは赤紫に、黄色い可憐な花のミヤマアキノキリンソウやキンコウカなどは橙色に変わり、秋色を深めている。また、湿原の中には池塘という小さな池がいくつも点在し、鏡のように映り込む景色がまた美しい。 

尾瀬ヶ原の秋色は3色あるとされている。ひとつは湿原の草紅葉、二つ目は湿原に点在して生えるダケカンバやナナカマドなどの紅葉。そして周りを囲む山の落葉樹の紅葉と常緑樹の緑などがそれに加わり、9月から10月中旬までそれらの色の移り変わりが楽しめるのである。

「オレンジ色や黄金色の最盛期の草紅葉は美しいですが、だんだんと色が抜けて枯れ草のようになっていくのも味わい深いですよ」。そう話すのは、牛首分岐を過ぎ、竜宮十字路近くで出会ったご年配の男性登山客。カメラを手に男性がねらっている景色は逆光の湿原。同じ目線でかがんでみると、ハッと息をのんだ。

葉っぱに太陽が透け一面がキラキラと輝いている。気がつけば、いつしか靄がとれて朝日が差し始めていたのだ。そして草紅葉にわずかに青い色を添えているのはエゾリンドウだ。この花は春から秋の尾瀬の花リレーの最後を飾る花で、10月上旬頃まで見られるという。 

さて、竜宮小屋を過ぎると目的地の見晴までは40分ほどの道のり。太陽は再び雲に覆われてしまったが、正面にそびえる燧ヶ岳とその下に小さく見えている山小屋へ向けて最後の歩みを進めていく。今宵の山小屋「弥四郎小屋」には洒落たカフェもあり、午後はこのテラスでコーヒーを味わいつつ、静かに秋の尾瀬ヶ原を満喫することにしよう。

弥四郎小屋
明治21年、14歳の弥四郎が山に分け入り、この地を発見。後の昭和7年に、漁のために小屋を建てたのが始まりだ。

建物は改築・増築を繰り返しがらもパステルグリーンと茶色の外観はレトロでお洒落。また、カフェの珈琲やケーキ、朝食で選べるパン食は小屋の手作りなど女性好みのメニューも充実。環境保護のため石鹸は使えないが、浴室も完備されている。

・宿泊料/9000円(泊2食付き)・営業期間/4月下旬~10月下旬 
・アクセス/鳩待峠から山ノ鼻経由で徒歩約3時間 
・予約センター/0467-24-8040、090-8316-2864(現地)


編集部
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いくつになっても、男は心に 隠れ家を持っている。

我々は、あらゆるテーマから、徹底的に「隠れ家」というストーリーを求めていきます。

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