57412「孤独のグルメ」原作者・久住昌之が往く 三鷹・路地裏の名店|和菓子 たいやき すえき

「孤独のグルメ」原作者・久住昌之が往く 三鷹・路地裏の名店|和菓子 たいやき すえき

男の隠れ家編集部
編集部

実直で真摯な人と商いこそ街に長く愛される名店の所以

中央通りの喧騒を離れ裏路地へ入ると懐かしい空間が突如として現れる───。

「僕、一度も三鷹から出たことないんです。生まれも育ちも、三鷹」

この日、JR三鷹駅で待ち合わせていたのは漫画原作者、エッセイスト、ミュージシャンと多方面で活躍する久住昌之さん。『孤独のグルメ』や三鷹のラーメン店を題材とした小説『孤独の中華そば「江ぐち」』など、食をテーマとした作品が多いイメージだが、ご本人は「食に、コダワリはない」という。どういうことだろうと考えている間にも、勝手知ったる久住さんは南口から延びる「中央通り」の一本横、「赤鳥居通り」へと歩を進めている。

「生まれた街だからね、思い出はいっぱいありますよ。このギターショップ『よろずや』は20代の頃から通ってるし、『春の湯』って銭湯あるでしょう? ここも。あのとんかつ屋の『若葉』も、古いねぇ」

中古レコード店に喫茶店、ちゃんぽん屋さんにギターショップ。駅周辺には昔なじみが営む店がたくさん。

交差する通りを渡り、さらに路地を進む。と、左に入るさらに細い小道。覗き込むと、そこだけ映画のセットのような昭和感漂う一角が現れる。その奥には「豆大福」と「みたらしだんご」の幟がはためいていた。久住さんが愛する和菓子店「すえき」だ。元々は中央通りにあった和菓子店「たかね」の3代目が独立して開いた店だという。平日の午前10時50分。11時の開店前からすでに、客が並んでいる。

「3、4歳の頃から母に連れられて、たい焼きを食べに通ってた店でね。このご主人が店に入ってからすごく旨くなったの。1度にたい焼きを40個買っていく人なんかもいますよ。以前は店内に飲食スペースもあって、そこで出される煎茶も美味しくって」

末木孝尚さんと、前職時代から共に働くパートナーの島鳥由美子さん。

開店待ちの客が4人ほどになった11時。時間ぴったりに店が開き、紺地に白く「すえき」と染め抜かれた暖簾が掛かった。お店は、幅2メートルほどの間口が一つきり。イートインはなし、店頭売りだけのよう。その正面には小さなショーケースが一つ。なかには団子に大福、あんみつなど気取らない和菓子が並んでいる。左手の窓からは、たい焼きの焼き台が見える。先に並んでいた客たちは皆小さな包みを大事そうに懐に入れては、路地を去って行く。

この路地に来る人は「10人中10人が、うちに来ます(笑)」と、店主の末木孝尚さん。19歳で和菓子職人の道に入り「甘味処たかね」に約28年勤め、令和元年(2019)に独立したそうだ。かつてここはサニーショッピングセンターという商店街で、寿司屋や豆腐屋、肉屋、本屋もあったという。ご自身も小さい頃、野球帰りに春の湯で風呂を浴び、湯上りに友達とこの路地で買い食いをするのが楽しみだった、と笑う。

「たい焼きもだけど、団子も旨いよ。僕、みたらし」と、久住さん。私もと、一本いただく。ざらつきの全くない、モチモチとなめらかな団子。けれど歯ざわりはさっくりと軽やかで、ほのかに甘辛いさらりとしたたれと共に、すっと喉に落ちてゆく……。あれ、団子ってこんなに美味しいものだったっけなと、素直に、驚く。

羅臼昆布の出汁に本葛粉や白ザラ糖を加えて仕上げた、すっきりとしたたれを纏った団子(140円)。

末木さんに、庶民的な生菓子に心血を注ぐ理由をお聞きすると「難しいから、でしょうか」との言葉が返ってきた。茶事に出すような美しい上生菓子ももちろん作れるけど、僕は旨いものが作りたいからと、末木さん。

団子の原料は上新粉と熱湯のみだ。シンプルだからこそ最高の仕上がりを保つためには、上質な原料を使うことはもちろん、気温や湿度に応じた水分量や生地をつく時間、冷やす時間などに細心の注意がいるという。でも、高い値段は付けられない。だから業者に注文して仕入れる店がほとんどだ、と続ける。

「再開発が進む三鷹でも、何十年と続く店は安いし、何より努力してる。良心的だからこそ、ずっと残るんだよね」と、久住さんも言葉を継ぐ。

そうかと、そこで気づいた。久住さんのテーマは“食”ではなく、“街”であり、そこに暮らす“人”。真摯に手を抜かず商売を続けている、そのあり様そのものにあるのだろう。

【店舗情報】
和菓子 たいやき すえき


看板メニューのたいやき(つぶしあん)220円

東京都三鷹市下連雀3-31-10
営業時間/11:00~19:00 
定休日/月・火曜 
アクセス/JR「三鷹駅」より徒歩約7分

【プロフィール】久住昌之(くすみまさゆき)
1958年7月15日 東京・三鷹生まれ。法政大学社会学部卒。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。1981年、泉晴紀と組んで「泉昌之」名で漫画家としてデビュー。泉昌之名義では、デビュー作にしてロングセラーの単行本「かっこいいスキヤキ」ほか、「新さん」「ダンドリくん」「豪快さんだ!」など単行本多数。実弟の久住卓也と組んだマンガユニット「Q.B.B.」で、1999年「中学生日記」で第45回文藝春秋漫画賞を受賞。

文/奥 紀栄 撮影/池本史彦

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