63545ポール・スミスのクラシックな「ミニ」が電気自動車に生まれ変わった!

ポール・スミスのクラシックな「ミニ」が電気自動車に生まれ変わった!

男の隠れ家編集部
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ポール・スミスがデザインした「ミニ」

1959年に誕生してから2001年まで生産が続けられた英国の小型車「ミニ」。その長きに渡る歴史の中に、ファッションデザイナーのポール・スミス氏が手掛けた特別仕様車があったことをご存知だろうか。現在もスミス氏自身が所有するその中の1台が、生まれ故郷である英国オックスフォードの技術者たちの手で、電気自動車に生まれ変わった。

英国人ファッションデザイナーであるポール・スミス氏が、同じ英国で生まれた小型車「ミニ」の装いを初めて手掛けたのは1997年のこと。1959年に発表されてから一度もフルモデルチェンジすることなく40周年を迎えようとしていた名車を称えるためだった。

小さなボディを様々な色のストライプで彩ったこのミニは、その年の東京モーターショーで展示されると大きな反響を呼んだものの、86色もの縦縞で塗り分けたボディは、当然ながらこのまま量産することは難しかった。

それでも「ポール・スミスのミニ」を求める声に応えるため、新たに量産を前提で考えられたのが、翌1998年に1800台のみが限定発売された(そのうち日本には1500台も輸入された)特別仕様車「ローバー・ミニ・ポール・スミス・エディション」だった。

そのボディカラーには、86色のストライプに代わって、黒・白・青の全3色が用意されたが、中でも最も人気が高かった「ポール・スミス・ブルー」と呼ばれる紫がかった青色は、ポール・スミス氏自身が着ていたお気に入りのシャツの端を切ってメーカーに渡し、「この色で」と指定したと言われている。

さらにこのミニは、ポール・スミス氏がデザインした専用エンブレムとバッジが付けられた上、まるで上着の裏地に凝るように、エンジンのロッカーカバーやグローブボックスの内側など、普段は見えないところに眩いシトラス・グリーンの差し色が施されていた。いかにもポール・スミスの作品らしい、クラシックなミニにひねりを加えたこの特別仕様車は、今なお愛され続けている旧ミニの中でも一際人気が高い。

クラシックなミニをメーカー自ら電気自動車に改造

時は進んで2022年。かつてのローバーから「ミニ」のブランドを受け継いだBMWグループは、21世紀の社会と環境に合わせた新型「MINI」(旧モデルと区別するため大文字で表記される)に、電気駆動技術の導入を進める一方で、クラシックカーとなった20世紀のミニを電気自動車に改造し、現在そして未来の路上に遺そうとする「MINIリチャージ・プロジェクト」を起ち上げる。

これまでにも、ミニを含むクラシックカーを電気自動車化する業者は多数存在しているが、MINIリチャージ・プロジェクトは自動車会社が自ら主導し、現行MINIを製造する英国オックスフォード工場の一角で作業が行われる、いわば「メーカー純正改造車」。安心感と信頼感、そして車両の評価・価値は、サードパーティが手を入れたものとは、心情的にも客観的にも一線を画したものであることは確かだ。

この改造が可逆的、つまりガソリンエンジンを搭載するオリジナルの状態にいつでも戻せるように設計されていることも、このような安心感や価値を下支えするだろう。ちなみにオックスフォードは、1959年から2000年まで、旧ミニを製造していた工場があった場所でもある。取り外されたオリジナルの直列4気筒エンジンは、マーキングした上で保管されるという。

現在は英国の顧客のみに向けて提供されているこのMINIリチャージ・プロジェクトだが、さらなる国際的な注目を集めるために、ミニは再びポール・スミス氏の協力を仰ぐ。

電気自動車になった「ポール・スミスのミニ」

1998年にローバーから発売されたミニ・ポール・スミス・エディションを、MINIリチャージ・プロジェクトで電気自動車化した「MINI Recharged by Paul Smith」が、6月7日から12日にイタリア・ミラノで開催されたSalone del Mobile.Milano(ミラノサローネ国際家具見本市)で公開された。

「1990年代のクルマを現代に蘇らせた」とポール・スミス氏が言うこのミニは、クラシックな外観と特徴的なブルーのペイントはそのままだが、ボンネットの下には古典的な直列4気筒ガソリンエンジンおよび4速トランスミッションに替わり、72kWを発生する最新の電気モーターとリチウムイオンバッテリーを搭載。排ガス規制された欧州の都市部でも胸を張って通行可能だ。

ロッカーカバーの代わりにバッテリーボックスのフタがシトラス・グリーンで塗られており、同様にブレーキキャリパーや充電ケーブルなど、やはり隠れたところにこの鮮やかなグリーンが用いられている。

インテリアはカーペットやドアの内張りが省かれ、リサイクルラバー製の簡素なフロアマットが敷かれているだけ。ダッシュボードの中央に備わる英国スミス社製の3連メーターは、中央の大きな速度計のほか、左がモーターの温度、右はバッテリー残量で走行可能な航続距離を示す。

金属がむき出しの車内は一見すると1998年型ミニよりもさらにクラシックな印象だが、ステアリングホイールの横には、マグネットで取り外し可能なスマートフォンホルダーが装備されている。樹脂製のトリムや内装パーツを廃した意図には、サステナブル(持続可能性)を訴えるメッセージが込められている。

「古い叔母さんの家に引っ越したら、すべてを変えてしまうのではなく、いくらかモダンに改装して住むのが礼儀です」と、ポール・スミス氏は語っている。

1959年に発表された最初のミニは、スエズ動乱に端を発する石油危機を背景に、「経済的な4人乗り小型車」の開発という命を受けた技術者アレック・イシゴニスが設計した、いわば当時のエコカーだ。

エンジンを横置きして短いボンネット内に詰め込み、前輪駆動にすることによって車内を貫通するプロペラシャフトを廃し、限られた全長の中で人間のためのスペースを最大限に確保するというアイディアは、その後の多くの大衆車の規範となった。

電気自動車となったミニは、この基本設計のコンセプトをそのまま受け継ぐのみならず、さらに突き詰めたものと言えるだろう。当時のミニではボンネット内から車体の後端まで伸びていたエキゾーストパイプさえ不要になったのだから。

2030年代には完全な電気自動車ブランドへ

「アイデアなんて、どこでも見つけられるものです。課題はそれを実現することです。このクルマではそれが成功しました。夢が実現したのです」と、スミス氏は言う。

「古い叔母さんの家」のような文化遺産クルマのデザインを持続可能にすること。スミス氏と英国の自動車技術者たちが、そんな「夢を実現」させた。彼らの夢は、多くのクルマ好きの夢でもある。ましてや日本は英国に劣らずミニを愛するマニアが多いことで知られている。確かに、英国在住のオーナーのように、愛車をオックスフォードに里帰りさせて電気自動車に改造してもらうことは難しいだろう。

しかし、日本でもガソリンで走る自動車の存続が難しくなる前に、かつては世界で一番ミニが売れていた時もあるこの国に、今も残る多くのミニを生き長らえさせる術が提供されることを願いたい。

なお、BMWグループに属する現在のMINIは、2019年に発表された「MINIクーパーSE」(日本市場未導入)を皮切りに、今後は内燃機関を持たない純電気自動車のラインナップを拡大し、2030年代には完全な電気自動車ブランドとなることを目指している。

「男の隠れ家デジタル」編集部では、これからも魅力的な電気自動車をご紹介していく予定だ。ぜひ今後の情報にも期待してほしい。

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