70987日本で唯一のビールも! 古さから新しさを見出す国立らしいビールとは?

日本で唯一のビールも! 古さから新しさを見出す国立らしいビールとは?

有限会社verb 岡本 のぞみ (おかもと のぞみ)
岡本のぞみ(verb)
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東京にある個性的な地ビールブルワリーを訪問。醸造所を見学しながら、ビール造りにかける思いをインタビュー。併設されたレストランや売店にも立ち寄り、そのブルワリーならではの地ビールの魅力を探る。

今回は、古さと新しさが共存した国立にある「KUNITACHI BREWERY」を訪れた。

■国立らしいビールは「古いは新しい」

醸造長の斯波克幸さん

KUNITACHI BREWERY(クニタチブルワリー)は、国立駅を中心に放射状に広がる街並みの一角にある。周辺には一橋大学などがある文教地区で、緑豊かで閑静な住宅街でもある。

クニタチブルワリーの創業年である2020年は、国立のシンボルでもある国立駅舎が復活したのと同じ年。「古いは新しい」を醸造哲学として掲げ、国立にあるブルワリーにふさわしい信念のもと、ビールが造られている。

醸造長の斯波さんは国立市のすぐ隣の府中市出身

ここで醸造長を務めているのは、同じ国立市にある谷保駅の近くで生まれ育った斯波(しわ)克幸さん。静岡市にあるアオイブルーイングで3年間醸造士として働き、1年間は醸造長も務めてきた。クニタチブルワリーの運営母体である酒屋「せきや」が国立にブルワリーをつくるという話を聞き、地元でビールを造りたいという思いが一致し、立ち上げの頃から醸造長を任されている。

「クニタチブルワリーは、1,000Lの大型タンクと200Lの小型タンクがあります。それぞれある程度の量を仕込む用途と実験的なビールを仕込む用途で使い分けることで、伝統的なビールと実験的なビールの両方を造っています。定番ビールは当たり前にきれいに発酵させることを大切にしながら、いろいろなことにも挑戦できるブルワリーとして設備を選定しました」と斯波さん。

実験的な試みのなかでも日本でここでしか作られていないのがロウエールというビール。

ノンボイルのビールは特に衛生管理が大切。「仕事の6、7割は清掃です」と斯波さん

「北欧とバルト3国で造られている、煮沸されていないノンボイルのビール。ロウエールRAWは生という意味です。今、ビールは煮沸するのが常識ですが、歴史のなかではビールはボイルビールとノンボイルビールに分かれていた時代がありました。かつては金属のタンクが普及しておらず、木樽で造られていたからです。ロウエールのビールは麦の複雑な風味が混ざり、生にしか出せない味がある。そうしたビールを追求するのもクニタチブルワリーらしさだと思います」

地元・国立から着想を得た醸造哲学「古いは新しい」を、ビールの今と昔になぞらえて挑戦するクニタチブルワリー。そうした味わいが国立に暮らす人や訪れる人によって、長く親しまれることになりそうだ。

■国立とストーリーがリンクする定番ビール

クニタチブルワリーの外観

クニタチブルワリーでは、定番ビールの3種類のほか、限定ビールも時期ごとに醸造されている。飲食店からの委託醸造も多く、月に8〜12回仕込まれているほど。オリジナルの定番ビールや限定ビールは、国立らしさをイメージしてスタイルやストーリーが誕生している。

例えば、クニタチビールの顔である「1926」は、旧国立駅舎の竣工年が名前となったケルシュスタイルのビール。古さと新しさのある国立市と同じように、華やかさと飲み心地のよさが伝統的でありながら新しさも感じるケルシュスタイルのビールに込められている。

定番ビールも都度味わいが見直され、よりクニタチブルワリーらしさを求めて、リニューアルされ続けているところもポイントとなっている。

左から「るつぼヘイジー」「天体観測」「1926」

定番ビールの3つは、次のような味わいが楽しめる。

●1926
スタイル:ケルシュ
アルコール度:4.5%
繊細なバランスを追求するクニタチブルワリーの顔。レモンやハーブのような爽やかな香りと上質な苦味が特徴のホップ・サフィアをベースに、白ブドウのような香りを持つホップハラタウ・ブランをアクセントに。麦の優しい風味とケルシュ酵母が生み出す青リンゴやほのかなアプリコットの香りによる繊細なまとまりが楽しめる。

●るつぼヘイジー
スタイル:ロウエール製法で仕上げたヘイジーIPA
アルコール度:5.0%
クニタチブルワリーのフラッグシップビールの一つ。2022年7月からロウヘイジーIPAにマイナーチェンジ。初めは、黄桃、マンゴー、アプリコット、グレープフルーツが一体となって香る。フレイバーはグレープフルーツやシトラスが強めで、続いて黄桃、マンゴー、アプリコットなどの種の大きい果物中心、そしてキウイ。ほのかに針葉樹を思わせるようなニュアンスやココナッツ、クリーム感。ロウエールで仕込んだことによる麦芽の風味と爽やかな果実味が味を引き締める。

●世界は点滅するモザイク模様のように
スタイル:アメリカン・ベルゴスタイル
アルコール度:3.5%
2022年5月からアメリカン・ベルゴスタイルに変更になったレギュラービール。黒系ベリーや黒ブドウ、完熟する前のフレッシュなパパイヤ、マンゴー、ゼラニウムの香り。フレイバーは香りから来る印象と似ていながら、濃色オレンジのような印象もあり、オレンジの中果皮様の苦味が味わいを引き締める。ホップや酵母由来の複雑なアロマ・フレイバーもあり、軽めの飲み心地ながら、アルコール度3.5%らしからぬ味わいの奥行きを生み出している。

■和や発酵をテーマにしたメニューをビールとともに

クニタチブルワリーに併設のレストラン「麦酒堂かすがい」

三小通りにあるクニタチブルワリーは、通常見学はできないが、ガラス張りになっているため、その雰囲気を感じることができる。そして、並びにある併設のレストラン「麦酒堂かすがい」でビールが楽しめる。

麦酒堂かすがいののれんをくぐると、小さな池のある庭や火の見櫓のある江戸時代のような風景が登場。2020年に亡くなった会長が作家・池波正太郎氏の世界が好きだったことから、日本人が憩える風景のあるレストランが建てられた。

麦酒堂かすがいの1階

店内の1階は、カウンター、テーブル席、個室があり、晴れた日にはテラス席も使用できる。2階は事前予約制で宴会などに利用できる大きな個室が用意されている。昼と夜の営業時間があり、どちらの時間帯も地元の人でにぎわっている。

店内では、オリジナルの定番ビールや限定ビールが常時楽しめる。おすすめは、3種類の味が楽しめる「ビアフライト」。スタイルの異なる3種類を一度に試せるため、お気に入りを見つけることができる。

料理は、地の素材や発酵調味料を使った和のテイストが中心のメニュー。ランチは定食や丼、薬膳カレー、ディナーはソーセージや和風ピザなどのビールに合うおつまみから、ローストビーフやミートソースグラタンなどしっかりとした食事まで楽しめる。ビールの定番フィッシュアンドチップスはカマスを丸ごと1本使った大胆な大きさながら、タルタルソースにいぶりがっこが入っていてこれもほんのり和風の味がいただける。もちろんクニタチブルワリーのビールとは相性抜群だ。

クニタチブルワリーの「古いは新しい」という醸造哲学は、新しいビールができたらそれで終わりではない。定番といえども、リニューアルが繰り返されていた。レストランのメニューも斬新な和の工夫があった。しかし、元々が伝統的なものを見直すことでの新しさなので、しっくりなじむ良さがある。クニタチブルワリーは落ち着いた街並みで、ちょっとおもしろさを感じたいときに訪れたいブルワリーだった。

【クニタチブルワリー】
住所:東京都国立市東3-17-28
TEL:042-843-0990
営業時間:麦酒堂かすがい平日・日 11:00〜21:00、金・土 11:00〜22:00
(月・火・木・金の15:00〜17:00はクローズ)
定休日:水曜日
https://kunitachibrewery.com

取材・文:岡本のぞみ(verb) 撮影:山田大輔

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有限会社verb 岡本 のぞみ (おかもと のぞみ)
有限会社verb 岡本 のぞみ (おかもと のぞみ)

編集プロダクションverb所属。広告制作会社でコピーライターを経験後、ライターに。Webメディア「東京ワインショップガイド」も運営している。ワインエキスパートやビアテイスター、普通自動二輪の資格・免許を所持。ワインやクラフトビール、テニスが趣味で、酒を楽しむこと、体を動かすことが好き。男の隠れ家デジタルを担当するようになり、アウトドアやバイクにも興味が広がっている。

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