おじさんたちが飲むもの その価値観を払拭したい!

「はい、角ハイ一丁!」

今や居酒屋などで店員がこういってオーダーを通す光景は、もう珍しくない。ただ、10年ちょっと前はどうだったか。ハイボールをデカデカと掲げる店はごく少なかったように思う。酒に詳しいバーでは通用したが、普通の居酒屋で「ハイボール」は通じないことも多かった。

昭和12年(1937)にサントリーの前身である寿屋が発売した同社の看板商品「角瓶」。ハイボールにすることで旨さが一層引き立つ。

「私が入社したのは2005年なのですが、ウイスキー市場は厳しい状況でした。ただ、入社当時に先輩から『ウチで働くならハイボールを覚えよう』と、バーに連れていってもらったことを覚えていて『家業であるウイスキーを何とかしたい』という想いは、以前からありました」

そう話すのは、サントリースピリッツ(株)角瓶ブランドマネージャーの菊池友里さん。お父さんが角瓶党だったことで、幼い頃からウイスキーへの憧れがあったそうだ。

ウイスキー市場は2007年には最盛期の1983年と比べ、数量ベースで5分の1程度まで落ち込んでいた。最大の理由は若者世代のウイスキー離れ。「おじさんが飲むもの」というイメージが強かったのだ。

「当社もそれが悩みでした。古くさい、敷居が高い、飲む場所がない、などのマイナス要素が多く、良さが伝わらない状況を打開しなきゃ、という思いで2008年から始まったのがハイボール復活プロジェクトでした」と菊池さんは回想する。

イメージ&ブランド戦略

2008年頃まで低迷傾向にあった日本のウイスキー市場。しかし、飲食店などの現場で「角瓶」は、味はもちろん発売以来変わらぬ亀甲模様のボトルのファンも多かったという。角瓶の魅力、美味しさを改めて訴求するプロジェクトが始動。積極的な営業活動とPRが実を結んだ。

食中酒としてのハイボール

菊池さんは「キンキンに冷えたハイボールは、爽快な飲み口と旨味のある味わいで、どんなつまみにもマッチ」するという特性に着目。特に揚げ物との相性が良いことから、唐揚げとの組み合わせの美味しさをシンプルに伝えるため「ハイ・カラ」のプロモーションを展開した。

Uncle Torys(アンクルトリス)

高度経済成長期の昭和33年(1958)、一日の疲れを癒すサラリーマンの心情を代弁するキャラクターとして誕生。柳原良平が「身体」を、コピーライター開高健が「魂」を、CMプランナー酒井睦雄が「名前」を授けた合作。

▶若い頃からお酒といえばウイスキー
 とりあえずハイボール
▶小心者だが時々思いきったこともする
▶座右の銘「フツー」
▶昭和33年(1958)生まれ
▶おいしいハイボールを作るのが好き
▶おいしいハイボールを飲むのはもっと好き

DATA
分類:CMキャラクター
デザイン:柳原良平
指定日:1958年
性別:男性

約5000点の作品を豊富に収蔵する柳原良平アートミュージアムへ!

リトグラフ「アトリエ」2000(平成12)年

柳原良平(1931~2015)は、京都市立美術大学(現・京都市立芸術大学)卒業後、寿屋(現・サントリー)宣伝部に入社。30歳でデザイナー、イラストレーターとしての地位を確立した。2018年3月、横浜みなと博物館内にその柳原が描いたアンクルトリスの広告デザインや船の絵が鑑賞できる常設展示室がオープン。遺族から横浜市に寄贈されたイラストや油彩画などが公開され、年数回の特集展示がある。

柳原良平アートミュージアム(やなぎはらりょうへいあーとみゅーじあむ)

神奈川県横浜市西区みなとみらい2-1-1 横浜みなと博物館内
電話/045-221-0280
開館時間/10時~17時(入館は~16時30分)
休館日/月曜(祝日の場合は翌日)
料金/400円
アクセス/JR「桜木町駅」より徒歩5分、あるいはみなとみらい線「みなとみらい駅」より徒歩5分

家でも気軽に飲めるハイボール缶の大ヒット

そしてハイボールは、確かにウイスキー復活の担い手になった。サントリーの原点である「角瓶」はドライな味わいで、ソーダとの相性の良さはよく知られていた。角ハイボールならジョッキで乾杯でき、アルコール度数も低く抑えられ、食中酒に適したのもポイントだった。翌2009年以降「トリス」ハイボールや角ハイボール缶なども発売、市場の底上げへの取り組みが続いた。

「私は入社7年目の2011年からプロジェクトに携わるようになりました。その中で取り組んだのが、角ハイボール缶のマーケティング強化です。角ハイボールは居酒屋で徐々に浸透してきましたが、一方で『自宅でハイボールを作るのは面倒』という声を多く聞いたんです。『瓶を買ってまでは飲まない』という。それなら缶を提案する作戦でした」

結果、この取り組みが大成功。一定のファンを持ち、歴史ある「角瓶」のイメージを保ちつつ、缶製品への昇華を果たした。サントリーが仕掛けた戦略の通り、今では当たり前にコンビニやスーパーにハイボール缶があり、居酒屋でも当たり前の存在になった。こうして復活を見事に果たしたハイボールだが、チームには共通のスローガンがあるという。

「ハイボールを浮わついたブームで終らせてはいけない。それを、ちゃんと働き、ちゃんと暮らすニッポン人が心から愛せる『ソウル・ドリンク』に昇華させること……というものです。創業者の鳥井信治郎は戦後、日本人が元気をなくしていたなか、安くて品質の良いものを、と奮闘しました。信治郎さんなら今の世の中にどうアプローチするか、いつもそう考えながら頑張っています」

まだ10年か、もう10年か。ソウルドリンクに成長しつつある、ハイボールのこれからが楽しみである。

角ハイボールつくりましょ?

1.レモンちょいしぼ。
2.氷を山盛りに。
3.角1:強炭酸水4
4.マドラーそーっとひと回し。

サントリーが提案する美味しいハイボールの作り方は、ウイスキー1に対して強炭酸水4の1:4の比率。これにレモンをちょっと絞って、氷をたっぷり入れたものがベスト。角瓶の場合、サントリーのブレンダーがハイボールにした時の美味しさを意識して作っているとか。ロックやストレートより、ブレンデッドウイスキーならではのソーダ割との相性の良さ。食中酒にも最適であり、日本人の舌に合う絶妙な配合なので、ついつい何杯でも飲めてしまう──。そのあたりが人気の秘訣のようだ。

角瓶ブランドとハイボール缶の実績

出典/サントリーホールディングス(株)

サントリーが発売する「角瓶」及び、角ハイボール缶、トリスハイボール缶、ジムビームハイボール缶の3種の販売実績。いずれも、ほぼ右肩上がりで推移。2011年と2019年を比較すると角ハイボール缶は約4倍、トリスハイボール缶は約2.4倍にまで伸びている。缶の普及が日本のハイボール文化を促進していることは間違いない。

2019年のウイスキー市場

出典/サントリーホールディングス(株)

ウイスキーとハイボール缶の市場推移(2008~2019年)。角瓶の販売促進の開始及び、ハイボール缶が発売された2009年から、どちらもほぼ右肩上がり。上の表の角瓶ブランドとハイボール缶の実績と比べると、それと符号していることがよくわかる。右表では2015年以降のハイボール缶の伸長がめざましい。

サントリーの人気ハイボール缶

サントリー角ハイボール缶

エンボス加工のデザインにも注目!

角瓶のボトルの感覚をイメージし、エンボス加工した缶。中味もたびたび改良が加わり、炭酸ガス圧アップ、飲食店の味に近い美味しさに仕上がっている。
350ml缶(189円)/500ml缶、度数:7%

サントリー角ハイボール缶〈濃いめ〉

ウイスキー「濃いめ」の、より本格的なバーの味わいを感じさせる。角瓶の凸凹を缶で再現するのは特殊な工程が必要で、何度も金型を改良して完成した。
350ml缶(189円)/500ml缶、度数:9%

トリスハイボール缶

トリスならではのすっきり飲みやすいハイボールにレモン風味を加えた爽快な味わいが特徴。中央にアンクルトリスを配し、トリスブランドを強調。
350ml缶(160円)/500ml缶、度数:7%

トリスハイボール缶〈濃いめ〉

トリスハイボールの特長であるレモンが爽やかな、キレのある味わいと、アルコール度数9%の飲みごたえを両立。黒を使用したウイスキーらしい本格感。
350ml缶(160円)/500ml缶、度数:9%

ジムビームハイボール缶

アメリカケンタッキー州で生まれたバーボンウイスキーの爽快さ、飲みやすさはそのままに、特有の甘い香りと、すっきりとした後味の良さが好印象。
350ml缶(160円)/500ml缶、度数:5%

トリスバーとは?

その名の通り「トリスハイボール」でお馴染みのウイスキー「トリス」をメインにした酒場のこと。1950~60年代にサラリーマンたちの憩いの場として愛された。昭和25年(1950)5月、東京・池袋に第1号店がオープン。価格を明示し、安くて気軽に飲めるバーだった。進駐軍向けラジオ放送から流れるテネシー・ワルツを聞きながら飲むトリスが、人々の舌と心を和ませ、敗戦間もない日本人の心を元気づけた。

角ハイボールタワーとは?

居酒屋で見かけることのある角ハイボールタワー。これは主にビールなどを抽出するスタンドコックを改良したもので、レバーを倒すだけで誰でも美味しいハイボールが提供できるようになっている優れもの。瓶に比べると、はるかに高いガス圧を実現しており、冷水循環でソーダを冷却することができる。そのため連続抽出しても、冷たさ、濃さ、炭酸が安定した美味しいハイボールが愉しめるようになっている。

取材・写真協力/サントリーホールディングス(株) 取材・文/上永哲矢

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