大切な人とゆっくり過ごすかけがえのないひととき

すべては「おふたりの特別な時間」を演出するために……。心に響くその言葉に誘われ、予約を入れた米沢・湯の沢温泉に向かっている。晩秋の装いに変わった田園の中を抜け、静かな森に抱かれるように佇むその一軒宿の名は「時の宿 すみれ」。愛らしい宿名に呼応するように、出迎えてくれた女将の黄木綾子さんの柔和な笑顔に旅の疲れが癒される。

祖父からこの温泉宿を譲り受け、2005年にリニューアルオープン。以来、〝おふたりさま専用の宿〟として、独自のおもてなしに心を砕いてきた。それはおひとり様、または3人以上の宿泊もお断りしているという徹底ぶり。

「ご夫婦、恋人同士、友人、親子など〝大切なおふたりの特別な時間〟をお過ごしいただきたいからです」と、その思いを語る女将。

部屋数は全10室。古民家風の趣深い和室から、モダンなヨーロピアンリゾート風やアトリエ風など、それぞれ異なったイメージでまとめられた居心地の良い設え。そして、部屋にはテレビも時計も置かないのが宿のこだわりでもある。しかし、部屋に座していると、それらはすぐに不必要なものであることがわかる。窓に映る自然の景色や木々を揺らす風の音。そしてなにより、ふたりの会話がいつもより多いことに気がついた。

さて、部屋でひと息ついた後は宿自慢の温泉へ。男女別の大浴場 のほかに、「木漏れ日の湯」「せせらぎの湯」という風流なふたつの貸切露天風呂が用意されている。いずれも無色透明の湯が源泉のままかけ流し。裏山の中腹に当宿の湯元があり、こんこんと自然湧出している。

湯の沢温泉は米沢八湯のひとつに数えられる名湯で、開湯の歴史は元禄時代以前にまで溯るという。湯船の縁(ふち)を越えてあふれ出る湯にゆっくり身を委ねる幸せ。耳に届く渓流の瀬音が、より清々しさをもたらしてくれる。 

ふたりだけのために流れる美味しい時間

湯上がりに堪能したのが、この宿を最も特徴づける夕食である。その名も「おふたりのための米沢牛づくしの創作懐石」。最高級の米沢牛がフルコースでいただける贅沢な内容で、料理を食べる目的だけで宿を予約する常連客も少ないという。まずは温泉宿とは思えない高級ステーキハウスのような食事処の空間に驚かされる。

長いカウンターと鉄板の前でステーキを焼くのは料理長の木下太郎さん。その他に個室もあるが、個室かカウンターどちらに座るのかは宿におまかせとなる。一品一品供される料理には地元産野菜とともに米沢牛の様々な珍しい部位もアレンジ。そしてコースは一番人気の大とろポアレの握りやA 5ランクのサーロインステーキでクライマックスを迎える。

実はこれだけの料理が出せるのは肉の仕入れ先が女将の実家で、創業大正15 年(1926)の米沢牛 販売店「米沢牛黄木」だからこそ。宿で良質の米沢牛を安く提供できる秘密がここにあるのである。

「米沢牛は脂のサシと赤身のバランスがよく、少しピンクを帯びた脂はあっさりしています。まずはワサビだけで食べてみてください」とミディアムレアで焼いたステーキをサーブする料理長。口に含むと肉の旨味ととろける歯ごたえ、香ばしい香りが絶妙に広がり、まさに五感で幸せを享受。ワインを傾けながら、ふたりの美味しい時間が思い出とともにまたひとつ刻まれていくのを感じていた。

時の宿 すみれ
山形県米沢市関根12703-4
☎0238-35-2234 
宿泊料/1泊2食付き2万3220円~(2名1室の場合の1人分・入湯税別)カード/使用可 客室/10室 チェックイン・アウト/15:00・11:00 風呂/男女別大浴場各1、貸切露天風呂2 泉質/単純温泉(低張性-中性-低温泉) 施設/バーラウンジ、エステサロン、酒蔵 駐車場/25台 アクセス/(電車)山形新幹線「米沢駅」より無料送迎バスで約15分。(車)東北中央自動車道「米沢八幡原IC」より約10分。山形自動車道「山形蔵王IC」より約約1時間10分