7169本物のお坊さんがカクテルを作ってくれる、真夜中の駆け込み寺BAR「中野坊主バー」|中野駅北口〈おたくの隠れ家〉

本物のお坊さんがカクテルを作ってくれる、真夜中の駆け込み寺BAR「中野坊主バー」|中野駅北口〈おたくの隠れ家〉

男の隠れ家編集部
編集部
「中野坊主バー」は、本物のお坊さんが、カクテルを作ってくれる珍しいカウンターバー。在籍するお坊さんは4人で浄土宗、浄土真宗、など宗派はまちまち。尼さんもいる。
目次

お坊さんがお酒を進めていいものか

「元祖坊主バー」は現在日本全国で3店舗ある。「京都坊主バー」「四谷坊主バー」、そして創業15年「中野坊主バー」だ。もともと大阪心斎橋にあった1号店は現在残念ながら閉められている。

「中野坊主バー」には、浄土真宗・真宗大谷派瑞興寺僧侶・釈 源光マスターを始めとして、真言宗、浄土宗などのお坊さんたちが、カウンターの内側でお酒を注いでくれる。ちなみに源光マスターは下戸なのだそうだ。

坊主バーの源光マスター

お坊さんがやっている飲み屋だから「坊主バー」なのだが、まず最初に思うのは「仏教ってお酒を飲んで良かったのか?」と言う疑問だ。その疑問にお店の尼さん舞風(マイカ)さんが答えてくれた。

「酒はこれ亡憂の名あり」という親鸞の教え

「酒はこれ亡憂(ぼうゆう)の名あり」という親鸞の教えは、亡き人を思い悲嘆にくれるよりも、お酒を飲んで故人を偲ぶ気持ちが供養になる、という意味の言葉だという。

すなわち親鸞は、お坊さんが酒を飲むことを必ずしも禁じていない、むしろ供養になると言っているのだ。親鸞が教えを広めた浄土真宗は、700年前からお酒を飲むことを勧めている。お店の中ではこのありがたい教えを生かしている。

また、弘法大師空海が中国に渡り、密教を学んで日本に帰り、広めた教えが真言宗だが、真言宗の高野山では、お酒は般若湯(はんにゃとう)と呼ばれ飲まれていた(般若湯は仏教系のお酒の隠語表現)。僧侶は飲酒を禁じられているが般若湯なら禁じられていないという、日本古来からある名前の呼び変えだ。山クジラ(猪肉)をももんじゃと呼ぶのと同じだ。   

日本の現代仏教では僧侶のプライベートタイムは戒律などに縛られない生活をしている。それにお葬式の後の食事時、遺族にお酒を勧められて断るお坊さんはいないだろう。そのような理由から、「坊主バー」の誕生となったのだ。

店内は静かで独特の雰囲気が漂う

店内の壁には曼陀羅が貼られていて、色紙も多数展示されている
カクテルに使う多様なお酒の間から、大日如来が燦然とお姿を現す

「坊主バー」は何をするところなのだろうか? 答えは、心静かにお酒を楽しむところ。お客さんは自分の心に悩み事があれば、お坊さんが無料でそれに懇切丁寧に答えてくれる。悩み相談に料金は取らない。その理由として、個室相談ではないから他の客にも聞こえてしまうからだという。

カウンターには有難いお釈迦様のミニチュア、蝋燭、お香などが置かれている

坊主バーは食べ物の持ち込みは自由。お店の中のBGMはお経ではなく、ジャズが流れていることが多い。それ以外にリクエストに応じてお坊さんがお経を詠んでくれる。客が読みたければ経典も常備されている。「四谷坊主バー」では、毎日20:00に10分ほどの読経タイムがあるそうだ。中野の店内では、スクリーンで普通に放映中のTVが掛かっていることもある。取材時にはたまたま「志村けんのバカ殿」が映っていた。

この様に店中の雰囲気は至って砕けた空間なのだ。舞風さんが「ここでは何をしても犯罪以外ならOK」と言ってくれた。ここにいれば肩の力を抜いて、心を軽くして瞑想し、酒に酔って悟りが開けるかもしれない。

お店にはいくつもの経典が置かれている

オリジナルカクテルの御品書きが経文のようで変わっていて面白い。カクテルの名前も、その色合いや混ざり方に応じ、煩悩や解脱を意識した仏教らしい名前になっている。カクテルの名前は極楽浄土、阿弥陀如来(アミタ―バ)、愛別離苦、涅槃寂静など様々。助平坊主(エロぼうず)は笑える。オーダーしたカクテルが目の前に置かれると、なるほど仏教だという気持ちになる。

経の経典のようなカクテルメニュー。仏教に絡めた洒落の利いたメニューが並ぶ

お店に飾ってある色紙には、有名人が多数現れた痕跡が伺える。政治家では山本太郎、芸能人では三船美佳、島田雅彦、ラッキー池田、成海璃子、漫画家では「第三野球部」むつ利之、「聖☆おにいさん」中村光、などおよそジャンルを問わない有名人が既に何人も訪れている。

源光マスターはTVや雑誌から取材が来るなら、かなえて欲しい希望があると話してくれた。それは香港のアクティヴィスト、「民衆の女神」周庭(Agnes Chow Tingアグネス・チョウ)との対談だという。体制に対抗して生きる可憐な運動家の周庭に魅せられたという源光マスター。彼女の生き様に、脱サラから僧侶になって生きる道を見つけた彼の人生を振り返って、若い頃の自分を重ねているのだと語ってくれた。

中野坊主バー
東京都新宿区荒木町6 AGビル2F 
TEL 03-3353-1032 
19:00~25:00 日曜・祝日定休
(系列店)
東京四谷坊主バー
京都坊主バー

権威や時代に流されない、自分が信じた生き方を貫く骨太の僧侶がそこにいた。

文/宮川総一郎
エッセイスト、漫画家、小説家。代表作:漫画『マネーウォーズ』(集英社ビジネスジャンプ)。小説:「七福神食堂」「東京謎解き下町巡り」(マイナビFan文庫)。総監修:「漫画から学ぶ生きる力」、他。


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