7426あの名車がいた 昭和風景 「トヨペット クラウン RS21」 (1955 – 1962)| 泉麻人 

あの名車がいた 昭和風景 「トヨペット クラウン RS21」 (1955 – 1962)| 泉麻人 

男の隠れ家編集部
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「男の隠れ家」本誌で連載中の人気コラムニスト泉麻人氏によるエッセイ。東京町歩きから昭和、サブカルチャーまで幅広いテーマでの独特の語り口が定評の著者が、「トヨペットクラウンRS21」が活躍した時代から昭和の風景を、イラストレーター小玉英章氏による書き下ろしと共に紐解く。
目次

「CQペット21」のカスタムカー

トヨペットクラウンの初代のタイプ(1955年~)は、タクシーによく使われていたから東京の街角でもしばしば見掛けた。

黒塗りの車は会社の社用車やハイヤー、それからパトカーの多くがこの車を使っていたので、昔のアクション映画などを観るとこの初代トヨペットクラウンと出会うことができる。

58年にマイナーチェンジして「トヨペットクラウン・デラックス」という名義になったけれど、当初からこの車の大きな特徴は、〝観音開き〟と呼ばれるドアのスタイルだった。後部のドアが前側に開くので、つまり前と後のドアを同時に開けると仏壇の観音様ご開帳の状態になる。タクシーに乗る時、回りこむように入っていくのが面白かった。

さて、そんなぼんやりとしたタクシー乗車の記憶が残る幼稚園児の頃、夜6時台の子供向きのヒーロー番組をよく観ていた。「まぼろし探偵」「少年ジェット」……15分ぐらいの尺の連続ドラマを日替わりでやっていたのだが、なかに「CQ! ペット21」というのがあった。NET(現テレ朝)系で60年8月から61年4月まで、というから割と期間は長いが、確か好みの裏番組と重なっていたから毎日熱心に観ていたわけではない。とはいえ、物語の大筋は記憶している。空手の腕に長けた兄とハム通信の技術を持つ弟──この体育会系と理系の兄弟が悪の一味と闘うという話で、彼らの用心棒的な役割でブラックマスクという超人が登場する。

そう、このブラックマスクがトヨペットクラウンのオープンカーに乗っていたのだ。弟が無線機に向って「CQ、CQ、ペット21」と唱えると、どこからともなくやってくるのである。

当時は無意識だったけれど、この“ペット21”というのはトヨペットSR21、というスポンサーのトヨタの車の型式にあやかったものだったのだ。そしてオープンカーはドラマ用にカスタマイズされたもので、市販はされていなかったようだ。ハードトップ車が母体なので、さすがにドアは観音開きしない。

ところで、僕は先頃三木鶏郎の評伝を出版したが、この番組のテーマ曲はトリロー氏の作詞作曲なのだ。番組主題歌としては「鉄人28号」で知られる人だが、なんといってもCMソングを数々と産み出した才人だ。

62年にデビューする新型クラウンのCMソングも手掛けているから、トヨタと縁のある作家と思われるかもしれないが、CMのリストを見ると、「CQ」が放送されていた61年にライバルの日産ブルーバードのCMソングを書いている。当時はその辺アバウトだったんですね。

文/いずみ あさと
コラムニスト。1956年、東京都生まれ。東京ニュース通信社に入社し、「週刊TVガイド」の編集を行いながら「ポパイ」など雑誌への寄稿を始める。84年よりフリーに。主な著書に『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』『昭和40年代ファン手帳』。

イラスト/小玉英章
1952年、岐阜県生まれ。イラストレーター、スーパーリアリズム作家。書籍の表紙や挿絵、企業広告のイラスト等を多く手がけるほか、個展、グループ展への出展も多数。第38回日本出版美術家連盟展大賞受賞、NYソサエティオブイラストレーターズ入選。

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