妖怪門から始まる摩訶不思議ワールド

「哲学堂公園」。乗り物があるわけでも、変わった動物が見られるわけでもない。ここは都心でありながら憩いを感じられる自然と、明治の面影を色濃く残した珍しい建物が数々ある場所だ。明治~大正時代の哲学者で東洋大学の創始者・井上円了が、「哲学をテーマにした精神修養の場」として造った公園である。

左が四聖堂、右が六賢台。

西武新宿線の新井薬師前駅から歩くこと約12分。さっそく公園内に入って、中央広場(時空岡)へ向かう。まず出迎えるように建っているのは「哲理門」という木造の門だ。屋根瓦にくっきりと「哲」の一文字が彫られ、左右に天狗と幽霊の像が立っている。どうやら別名を「妖怪門」というらしい。これは円了が哲学者だけでなく、妖怪学の研究でも名を馳せたことに由来するそうだ。

哲理門の左側には幽霊。心的・陰性を意味している。
右側には天狗。物的・陽性を意味する。

かつて、今よりも迷信が人々の間で信じられていた時代、円了は「人はなぜ迷信・妖怪を信じるのか、それらは何なのか」と深く考察。火の玉や日月食、蜃気楼などの不思議な自然現象を研究したことから、お化け博士・妖怪博士と呼ばれていたのである。

妖怪門を抜けると、正面に「四聖堂」という建物がある。円了が最も影響を受けたという4人の哲学者を祀ったもので「哲学堂」の別名を持ち、公園の名前の由来になった建物だ。祀られているのは東洋哲学の孔子と釈迦、西洋哲学のソクラテスとカントである。

四聖堂の中、畳敷きの堂内には釈迦涅槃像。

もうひとつ、四聖堂と並んで公園のシンボルになっている建物がある。「六賢台」だ。赤い外観が特徴の六角形・周囲六間の塔。なかなか目立つ建物にも関わらず、東京大空襲の戦火を免れたのだから不思議な運命を感じてしまうのも仕方あるまい。

六賢台には東洋の哲学者で日本古代の聖徳太子、中世の菅原道真、中国・周代の荘子、宋代の朱子、インドの龍樹、迦毘羅仙の6人が六賢として祀られている。

六賢台。外観は2階建だが、内部構造は3階建になっている。

公園内にはこのほか、一番高い位置にある東屋の「三学亭」や、講堂として使用される「宇宙館」、かつては図書館として機能していた「絶對城」などがある。また、哲学にちなんだ名が付く橋や池が77カ所も存在する。

何の説明もなしに見れば、ただの橋や池にしか見えないかもしれないが、すべては創始者の円了が意味を込めて命名したものだ。哲学について、何か明確な答えがここに存在するわけではない。わかりやすく解説が残るわけでもない。

ただ、円了が生涯をかけて創り上げたこの公園で、そんな彼の思いを感じながら見ることで、万物に対する認識を考え直すいい機会となるだろう。

「唯心庭」と呼ばれる園の東側にある小庭。池には心字池と名が付く。中心には鬼燈が建つ。
「絶對城」では主に円了の蔵書を収めていた。現在、蔵書は東洋大学に移されている。
「三祖苑」にある三祖碑。中国の黄帝、インドのアクシャ・バーダ、ギリシャのタレスの顔が刻まれている。

文/上永哲矢 写真/遠藤 純