江戸時代から愛されてきた旬の贅沢“アンコウ鍋”

生活費の大半を食費に使い、初物、旬のものに目がなかった江戸っ子にとって、11月のアンコウは垂涎の的だった。「霜月あんこう絵に描いても舐めろ」と唄に詠まれるほど人気の食材。その味は現在も受け継がれ、「西のフグ鍋、東のアンコウ鍋」と称され人気鍋料理としてその地位を確立している。

グツグツと煮立つ鍋からは、出汁の効いた美味い香りが立ち上る。東京ではアンコウ鍋を醤油仕立てで食べることが多いが、茨城県や福島県では肝を溶かし込んだ味噌仕立てにすることが多い。

肝を味噌に溶かしたアンコウ鍋。

アンコウは水温が低くなることで身が締まると同時に、春先の産卵に向けて肝臓が肥大化し、味も良くなる。つまり1月から2月頃にかけてが最も美味い時季なのだ。

奇妙な外見に加え、骨とあご、眼球以外のすべてを食べられることも、食欲と好奇心が旺盛な江戸っ子が、アンコウへ熱狂していく理由のひとつだった。“カワ(皮)・エラ・水袋(胃袋)・トモ(ヒレ)・台身(身)・ヌノ(卵巣)・キモ(肝)”は「アンコウの七つ道具」と呼ばれ、それぞれの味わいと食感を楽しんだというが、今もアンコウ鍋といえば、その七つ道具入りが一般的である。

吊るし切りは江戸時代から続く伝統のさばき方だ。

栄養面から見てもアンコウはこの時季に最適の食材で、柔らかく淡白な味わいの身は、低カロリーで良質なタンパク質を摂取できる。また、「あん肝」に至っては体に良い栄養素の宝庫だ。DHAやEPAなどの不飽和脂肪酸が豊富で、コレステロール値を下げたり、血栓予防に一役買ったりと素晴らしい恩恵を人体に与えてくれる。

また、皮膚や粘膜を保護し、肌に潤いを与える効果が高いビタミンA・Dも豊富に含まれている上に、皮のゼラチン質には保湿に欠かせないコラーゲンもたくさん。乾燥しがちな冬の肌に最適の食べ物なのだ。

旬の味覚を獲りに行くアンコウ漁船。

体が温まり、肌まで潤う。一石二鳥とはこのことか。いや、味も良いのだから、一石三鳥だ。そのことをわかっていたのかどうかは置いといて、江戸っ子たちがこぞって食べた冬の味覚を、食わずして春を迎えるわけにはいかない。