煮物や鍋、おでん、旬の寒ブリと一緒に煮たぶり大根。寒くなってくると温かい料理が恋しくなる。そんな時に思い浮かべるメニューの中にひっそりと存在し、ダシの染みた柔らかい食感と、じゅわっと口に広がる暴力的な旨味で、胃袋に主張してくるやつ。そう、「大根」である。

旬の食材と組み合わせ、味にも栄養にも相乗効果を

池波正太郎の時代小説『仕掛人・藤枝梅安』シリーズには、しばしば「大根鍋」なる料理が登場する。寒い夜、火鉢にかけられた小鍋の中には、昆布と湯が入っている。昆布の上にそっと置かれているのは厚めに切った大根。

ダシで煮ただけのシンプルな大根。これが良い。

柔らかく煮えた大根を小皿にとって、醤油を垂らして食べる。これが主人公・梅安の好物なのだ。シンプルの極みといえる料理だが、旬の大根さえあれば手をかけずとも十分美味しくなることを、食通の池波は心得ていたのだろう。

火鉢やストーブの熱を利用して料理をつくる。それを頬張って体を温める。旬の食材を季節にあった料理法で食べ、元気に過ごす。温かい根菜料理ほど昔ながらの知恵を感じさせてくれるものはない。

大根の根は95%が水分、残りは栄養素だ。

それはさておき「冬大根」とは、秋から冬にかけて収穫される大根のことである。まだそれほど寒くない秋の大根は比較的辛みがあり、薬味として適している。例えば秋の旬・サンマやサバなどの焼き魚との相性は抜群だろう。大根にはビタミンCと消化酵素のジアスターゼが豊富に含まれていて、それらの栄養素を効率的に摂取するなら生で食すのをお勧めする。

対して、寒さが増してきた冬。冒頭のように温かい料理が脳裏に浮かんだら、その通りに食べるのが良い。冬の大根は秋のものに比べ糖度が高く、甘みが増すため煮物にぴったりなのだ。旬が同じなら料理の相性も良い。それこそ冬の魚・寒ブリと一緒に煮たら、魚の臭みを消し、旨味を最大限に引き立てる。大根のポテンシャルはかなり高いのだ。

天高い秋になると冬大根の収穫が本番を迎える。

ちなみに。大根は世界最古の野菜のひとつで、古代エジプト時代には栽培されていたすごいやつ。食べたいように食べるのが一番なのだが、寒い夜には温かい大根料理で一息つこうじゃないか。

文/浅川俊文 写真/遠藤 純