世界で最も古い国立博物館の一つであるオランダのライデン国立古代博物館は、総数約20万点のコレクションを所蔵している。今春より、九州国立博物館をはじめ、北海道、宮城、東京、静岡、愛知、兵庫、山口を巡回する本展は、同館所蔵の古代エジプト・コレクションから、人のミイラ5体、動物のミイラ8体、十数点の棺を含む約250点を展示。最新の科学技術を駆使した調査結果などを公開、古代エジプト人の生活や社会、美意識といった文化的側面に触れることができる。

半世紀が過ぎた古代エジプト展の歴史

 古代エジプトをテーマにした展覧会は、昭和40年(1965)の「ツタンカーメン展」に始まり、常に高い人気を誇っている。ミイラの棺や黄金のマスク、宝石などの「お宝」を並べるだけの展示から、企画性の高い展示が増えてきた。実際にエジプトを訪れる旅行者も増え、古代エジプトに対する深い知識欲が生まれてきていることもあるだろう。
 本展には、ヨーロッパで5大古代エジプト・コレクションの一つとされるオランダのライデン国立古代博物館が所蔵の古代エジプトの名品の数々が展示される。人間のミイラ5体、動物のミイラ8体の他、十数点のミイラの棺など、約250点が来日。また、出土品や発掘現場の映像などもあわせて紹介する。
 さらに、同館では最新の科学技術によって本展出品のミイラの内側をCTスキャンをして調査。この研究成果を、世界で初めて公開するなど、次々にエジプトの古代文明の謎が明らかになる。

金彩のミイラマスク

グレコ・ローマン時代 長さ48.5×幅28×厚さ14㎝
ライデン国立古代博物館蔵

Image©Rijksmuseum van Oudheden
(Leiden, the Netherlands)

ミイラにかぶせるマスク。表情は写実的で、ギリシア系の影響を受けていることが見てとれる。金色を塗ることは「永遠」を意味しており、裕福な高い階級の人と思われる。

護符とビーズの首飾り

新王国時代 長さ36㎝
ライデン国立古代博物館蔵

Image©Rijksmuseum van Oudheden
(Leiden, the Netherlands)

発掘された時は、ほとんどのケースで糸は切れていた。その首飾りの並びを再現。古代エジプトで使われた色は原色が多い。例えば青は、ナイル河から連想し、水を意味する。

王の書記パウティのピラミディオン

高さ47×幅47×奥行47㎝
ライデン国立古代博物館蔵

Image©Rijksmuseum van Oudheden
(Leiden, the Netherlands)

古代エジプトで、ピラミッドが建造されたのは、初期の時代。時代が過ぎると太陽崇拝との関連から、小型なピラミッドを墓の入口に置くなどするようになった。

簡単、棺の見分け方 文字が少ない方が古い

 ライデン国立古代博物館は、大英博物館やルーヴル美術館、ベルリン・エジプト博物館、トリノ・エジプト博物館とともに、ヨーロッパの五大エジプト・コレクションの一つ。
 ルーヴル美術館は美術的な収集を、大英博物館はミイラにこだわりが強いなど、各コレクションには特徴がある。なかでもライデン国立古代博物館は、棺、石碑、彫像などを多く収集し、さまざまな研究プロジェクトも推進している。
 展示方法も独特で、棺を縦に並べて、網羅的に展示しているのが特徴。本展では、ライデン国立古代博物館の展示同様に、12点の棺(5セット10点の棺、覆い2点)を立てて展示。大きさや幅などを比較しながら見ることも可能となる。
 12点の棺はどれも木製、中東産のレバノンスギなどが使われている。死後も来世での生活が続くと考える古代エジプトでは、棺にも死後の世界で生きるための呪文などを象形文字、ヒエログリフで記した。
 例えば、ヒエログリフが少ない方が時代が古く、新しい方が文字が多い。また、交差する手が細かく表わされている方が、古い作り方であるなど、棺の制作様式の変化にも注目したい。

アメンヘテプの内棺

第3中間期 長さ185×幅50×高さ61㎝
ライデン国立古代博物館蔵

Image©Rijksmuseum van Oudheden
(Leiden, the Netherlands)

アメン神とムウト神の神官だった人物で、手の拳が表わされているのは男性だったという証明。胸の中央には再生復活を表す雄羊の頭を持ったスカラベが描かれている。

ホルの外棺

後期王朝時代 長さ202×幅70×高さ70㎝
ライデン国立古代博物館蔵

Image©Rijksmuseum van Oudheden
(Leiden, the Netherlands)

ホルはアメン神のウアブ神官。神殿領の執事だった。襟飾りの絵のすぐ下には「死者の書」にも描かれた死者の心臓を真実の女神マアトの羽と計量する場面も描かれている。

ハイトエムハトの棺

後期王朝時代 長さ186×幅58×高さ27㎝
ライデン国立古代博物館蔵

Image©Rijksmuseum van Oudheden
(Leiden, the Netherlands)

女性の棺で、冥界の神オシリスを表す、神が被るかつらを付けている。黄色い顔は女性を表し、襟飾りの花柄は新たな命を示す。足元の山犬は死者から見えるよう逆向きに。

パネシィの外棺

第3中間期 長さ200×幅54×高さ38㎝
ライデン国立古代博物館蔵

Image©Rijksmuseum van Oudheden (Leiden, the Netherlands)

アメン神の歌い手だった人物で、両脇には内臓を守護するホルス神の4人の息子が描かれる。棺の顔は魂が戻ってくるために必要で、目立たせるために別の木材を使っている。

石碑に記されているストーリーにも注目!

 古代エジプト文明はおよそ3000年にわたり、少なくとも30を超える王朝が存在したといわれている。18世紀の末にナポレオンがエジプトに遠征したことを発端に、エジプトに調査団が多数送り込まれた。そこで古代文字が書かれた石碑「ロゼッタストーン」(大英博物館蔵)を見つけるなど、古代の遺物の発見がきっかけともなり、ヨーロッパでエジプトへの関心が高まったようだ。
 本展では、ミイラ棺や黄金やミイラ、パピルスといった「古代エジプト展らしい」展示品以外にも、墓の中や神殿の参道に設置された石碑も紹介している。
 石碑に刻まれた文字を読み解くと、死者の素性や妻、兄弟などの紹介が記されていたりする。時には、延々といかに死者が生前に善行を積んできたかについての記載も……。悪人は死後の世界へ行けないという死生観があった古代エジプトで、人々は、嘘や脚色を含め「善人」としてあの世へ向かいたかったのだ。
 また、あわせて発掘現場の様子を写真や映像で紹介。副葬された状態の出土品からわかることも多い。現在の発掘調査の様子も知ることができるだろう。

クウと家族の供養碑

中王国時代 高さ38×幅50×厚さ6㎝
ライデン国立古代博物館蔵

Image©Rijksmuseum van Oudheden (Leiden, the Netherlands)

石碑は神殿の参道に置かれ、死後の世界で生きるために必要な呪文が記されている。「あの世でも王様から食物をいただけますように」とクウと家族の祈りが記されている。

フイの石碑

新王国時代 高さ147×幅89×厚さ11㎝
ライデン国立古代博物館蔵

Image©Rijksmuseum van Oudheden
(Leiden, the Netherlands)

墓の祠堂(しどう)などにたてられたとされる石碑。フイと妻に対し、一族が供え物をささげる場面が彫られている。

ホルネジイトエフの内臓を納めた木箱

グレコ・ローマン時代 長さ28×幅28×高さ66㎝
ライデン国立古代博物館蔵

Image©Rijksmuseum van Oudheden
(Leiden, the Netherlands)

ミイラを作る時、心臓、肺、肝臓などの内臓を取り除き、亜麻布に包んで木箱に入れた。それらの内臓は別々の守護神によって守護されていた。

3体の人のミイラと1体の動物のミイラを調査

 ライデン国立古代博物館のミイラは、同館の初代館長が将来的な技術の進歩を予見して、ミイラを研究目的でほどいたりすることなく、傷つけずに保存した。そのため、その大半がほぼ発見当時の状態で保存されている。そしてその予見通り、科学の技術によるミイラの解析は、1950年代からX線による研究が始まり、90年代には世界初のCTスキャンが実施された。昨今のCTスキャン技術はさらに進歩し、まるで皮をむくように、1枚1枚の包帯の様子が細かくみられるようになり、中のミイラも当時の病気やけがの様子や、処置法などがわかるようになっている。
 本展では、最先端ともいえるCTスキャン技術を用いて、3体の人間のミイラと1体の動物のミイラを、展覧会のために調査。その調査の成果を世界で初めて公開する。

男性のミイラ

第3中間期あるいは後期王朝時代
長さ160×幅38×高さ26㎝ ライデン国立古代博物館蔵

Image©Rijksmuseum van Oudheden
(Leiden, the Netherlands)

3体の人のミイラをCTスキャンしたところ男性2体、女性1体と判明。その内1体の包帯の巻き方に特徴があり、脇に土製の塊が入れられているなど貴重な資料となっている。

【展覧会情報】
ライデン国立古代博物館所蔵 古代エジプト展
URL:leidenegypt.jp

<福岡展>
会期:4月25日(土)~ 6月21日(日)
会場:九州国立博物館
住所:福岡県太宰府市石坂4-7-2
電話:050-5542-8600(ハローダイヤル)
開館時間:9時30分~17時(金・土は~20時。入館は閉館の30分前まで) 
休館日:月(4月27日、5月4日は開館)、5月7日(木)
観覧料:一般1600円ほか 
アクセス:西鉄「太宰府駅」より徒歩約10分

<東京展>
会期:2021年4月16日(金)~ 6月27日(日)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
住所:東京都渋谷区道玄坂2-24-1 Bunkamura B1F
電話:未定
開館時間:未定
休館日:未定
観覧料:未定 
アクセス:JR「渋谷駅」ハチ公口より徒歩約7分

< 巡回展>
(北海道)7月4日(土)~9月6日(日)/北海道立近代美術館
(愛知)9月19日(土)~12月6日(日)/愛知県美術館
(静岡)12月19日(土)~2021年3月31日(水)/静岡市美術館
(宮城)2021年7月9日(金)~9月5日(日)/仙台市博物館
(山口)2021年9月中旬~11月上旬/山口県立美術館
(兵庫)2021年11月下旬~2022年2月下旬/兵庫県立美術館
※詳細情報は公式HPで随時更新予定