84278さらなる味わいと余韻を求めて「新・本格焼酎ストーリー」

さらなる味わいと余韻を求めて「新・本格焼酎ストーリー」

男の隠れ家編集部
編集部

本格焼酎の故郷、南九州に位置する宮崎・都城。霧島山を望むこの地から、今、新たな本格焼酎造りの物語が始まろうとしている。

■霧島山の自然の恵みが本格焼酎造りに最適

焼酎は食中酒として料理の味を引き立ててくれる。ペアリングを考えながら選ぶのも楽しい。

朝日が霧島山を照らしている。陽光が山ひだの一つひとつをくっきりと浮かび上がらせる。裾野は一面のさつまいも畑だ。朝露を浴び、旺盛な生命力でつるを畑いっぱいに伸ばし、葉を繁らせている。ここは本格焼酎の故郷、南九州に位置する宮崎県都城市。

北西の霧島連山、南東の鰐塚山地に挟まれた都城盆地には、南九州特有の火山灰地質のシラス土壌が広がっている。さつまいもは高温と乾燥に強く、やせた土地でもよく育つ丈夫な作物。水はけの良いシラス土壌と都城の温暖な気候はさつまいもの生長に最適だ。

収穫されたさつまいもは食用としてはもちろん、芋焼酎の原料としても使われる。黄金千貫や紫優といった焼酎造りに適したさつまいもが多く栽培されている。

芋焼酎の原料として使われるさつまいもの代表格「黄金千貫」。

焼酎造りには潤沢な水が欠かせない。都城盆地には、霧島山に降った雨が数十年の歳月をかけてシラス土壌にろ過されて地下深く蓄えられている。

霧島裂罅水と名付けられたこの地下水は、ほどよくミネラルを含んでまろやかな口当たり(軟水)が特徴で、酵母菌の発酵にも好条件を備えている。

さつまいもは例年8月から12月にかけて収穫され、新鮮なうちに焼酎製造工場へ運び込まれる。
こんこんと湧き出る霧島裂罅水。本格焼酎造りにこの水は欠かせない。

この地で本格焼酎造りを行っているのが霧島酒造だ。焼酎愛好家でなくても「黒霧島」「赤霧島」と聞けば知らない人はいないだろう。

創業は大正5(1916)年、創業者の江夏吉助が、前身の「川東江夏商店」で焼酎の製造を始め、都城で自社工場生産100%、九州産さつまいも100%、霧島裂罅水100%、国産米100%の焼酎造りを行っている。

さつまいも畑の向こうに霧島山を望む。中央の頂は霊峰・高千穂峰。山の字を絵に描いたような美しい山容だ。

■原料本来の香りやうまみが味わえる本格焼酎の元祖

霧島酒造の焼酎は自社工場生産100%で、工場は全て都城市内にある。生産能力は1日当たり1升瓶(アルコール分25%)換算で約20万本分を誇る。

「本格焼酎」という呼称を提唱したのは、じつは霧島酒造だ。

昭和28年(1953)の税制改正で、焼酎は蒸留法によって甲類と乙類という分類が定められた。連続式蒸留法によるさっぱりとした味わいが特徴の甲類焼酎に対して、単式蒸留法を用いた乙類焼酎は、アルコール以外の原料の香りやうまみ成分をしっかり生かすことができた。

また、前者は明治以降に欧州から伝えられた技術であることから新式蒸留、後者は旧式蒸留と呼ばれるようになった。

霧島酒造では近代的な設備で安定した品質の焼酎造りが行われている。写真は一次もろみを造る工程。さらにこの後さつまいもと霧島裂罅水を加えて二次もろみを造り、蒸留して焼酎になる。

甲類・乙類、新式蒸留・旧式蒸留など、まるで優劣を表すかのような呼称に異を唱えたのが、霧島酒造の2代目社長でありブレンダーでもあった江夏順吉だった。

自社の焼酎造りに誇りを持っていた順吉は、「本格焼酎霧島」と自社商品の名称を改めて、誰かに自社商品について説明するときにも、必ず「本格焼酎」という言葉を使ったという。

業界団体にも働きかけを行い、その甲斐あって昭和37年には「本格焼酎」が大蔵省令で正式に認められる。焼酎乙類の中でも一定の条件をクリアすれば「本格焼酎」を正式に名乗ることができるようになったのだ。

2代目社長の江夏順吉。家業を継いだのは昭和20年(1945)。昭和24年に霧島酒造株式会社に改組した。

江夏順吉は、東京帝国大学(現・東京大学)で応用化学を学んだ学者肌の人物だった。

蒸留機など生産設備の設計にも携わるなど、焼酎造りの近代化を進める一方で、ブレンダーとして自ら焼酎の改良にも積極的に取り組んだ。

「1/1000の味の違いが分からなければ失格だよ」。これが順吉の日頃からの口癖だったという。

■従来の既成概念を打ち破る「黒霧島」で売上日本一へ

霧島酒造といえば芋焼酎。「白霧島」「黒霧島」「赤霧島」などが代表的な銘柄だ。

霧島酒造が焼酎メーカーとして確固たる地位を築き上げたのが、平成10年(1998)に登場した「黒霧島」である。

創業者、江夏吉助によって初蔵出しされた焼酎は黒麹仕込みであり、そのルーツを受け継いだ本格芋焼酎である。明治の終わり頃まで焼酎造りは黒麹が主流だった。

創業者の江夏吉助。本格焼酎「霧島」の名付け親だ。

しかし黒麹はその名の通り胞子が黒く、飛散すると衣服や設備を汚してしまうため、次第に敬遠されるようになり、やがて白麹へと置き換えられていく。いわば原点回帰の焼酎造りを、霧島酒造は近代的な設備を駆使して行ったわけだ。

その一方で「芋焼酎は芋の香りがするもの」という既成概念を捨て、これまでとは違う上品な味わいに仕上げた。

トロッとしたあまみ、キリッとした切れの良さは、ジャンルを問わずどんな料理の味も引き立てる食中酒として評判となり、今まで焼酎を飲んだことのない層にも支持を広げることに成功した。

創業時の様子。当初は鹿児島から取り寄せた焼酎を販売していたが、それが思いのほか売れたことから自社で焼酎を造ることを思い立った。

当時の食品業界ではタブー視されていた「黒」を謳ったネーミング、パッケージに挑戦したことも話題となり、その人気は地元九州から火がつき、次第に全国区へと拡大していく。

こうした本格焼酎造りへの情熱は、売上日本一となった今も霧島酒造のDNAとして受け継がれている。そして今、新しい本格焼酎への挑戦が始まろうとしている。

芋焼酎造りで米を使用するのは麹を造るため。もちろん100%国産米。
円盤式の自動製麹機を導入し、安定した麹造りを行っている。
連続芋蒸し機で約1時間蒸上げ発酵しやすい状態となりコンベアで運ばれるさつまいも。

霧島酒造 酒質開発本部長
奥野博紀さん

2代目社長・江夏順吉の下で焼酎造りを学んだ奥野さん。「1/1000のこだわりは今も霧島酒造のブレンダーに受け継がれています」。

■本格芋焼酎造りの技術を麦焼酎・米焼酎に生かす

この秋、霧島酒造の新しい本格焼酎造りが話題となった。

「黒霧島」以来、芋焼酎造りに注力してきた霧島酒造が、新しい本格麦焼酎「霧島ほろる」、本格米焼酎「霧島するる」を発売したからだ。

今まで焼酎を飲んだことのない人にも親しみやすい味わいで、焼酎を幅広く楽しんでもらいたい。そんな思いが込められていた。

研究開発部・瀬戸口翔さんは焼酎の基礎研究を行っている。「霧島ほろる」「霧島するる」では主に後者の酒質の開発を担当。さまざまな麹や酵母を駆使して目標とする酒質を目指した。

まったく新しい焼酎の開発。もちろんそれは一朝一夕にできることではない。霧島酒造はかねてから麦焼酎・米焼酎の研究を続けてきた。

「霧島ほろる」「霧島するる」の開発が始まったのも今から5年前。新しい焼酎の理想を求めて、麹や酵母の組み合わせを変えながら試験仕込みを何度も繰り返し、酒質を改善していった。

目指したのは、食中酒として料理を引き立てながら、華やかさや果実の香りを演出し、麦や米の余韻を感じさせる味わい。絶妙なブレンドも求められた。

霧島酒造の新しい挑戦は、これまでの本格焼酎造りで培った技術を集結した麦焼酎と米焼酎だ。

料理とのペアリングも考慮しながら最適解を追求した。これまで芋焼酎造りで培ってきた技術を結集することで、ついに「霧島ほろる」「霧島するる」は完成した。

「霧島ほろる」は、すっきりとした味わいになる麦麹ではなく、ふくらみのある味わいを生む米麹にこだわった。麹造りには、本格芋焼酎「SUZUKIRISHIMA」(宮崎エリア先行・数量限定)で開発した「ふわり玄米」を採用。

玄米を最適に精白した「ふわり玄米」を使うことで味わいに奥行きを与えることに成功した。

さらに、フルーティーな香りをもたらす独自開発の「エアリアル酵母」と、華やかな香りを生み出す「紫陽花酵母」を使用することで、バナナのような軽快な果実香も実現した。

紫陽花酵母。
エアリアル酵母。

「霧島するる」は、「ふわり玄米」を主原料とし、さらに麹原料としても使用することで、味わいに奥行きを与えて深みのある香りを生み出している。

甘い果実香を醸し出す独自開発の「海美酵母」、華やかな香りを生み出す「紫陽花酵母」を使用することで、メロンのような甘い果実香を実現している。

海美酵母。
ふわり玄米。

これまでと違った味わいをもつ本格焼酎。さてどんな料理とのペアリングがお勧めなのだろうか。

「霧島ほろる」の麦の香ばしさはチキン南蛮やバーベキュー料理と一緒に飲むことでより味わえる。また、燻製などと合わせることで、自然で心地良い麦の余韻を楽しむことができるだろう。

料理とのペアリングでは、「霧島ほろる」はチキン南蛮など衣を使った揚げ物、燻製、みそ煮込み料理。

「霧島するる」は、刺し身のような素材の味を生かした料理と合わせることで、米焼酎本来の味わいが楽しめる。

出汁のうまみが効いたおでんといただくと、口の中ですっと広がる米の余韻が心地良い。また、冷しゃぶのようにさっぱりとした料理とも相性が良い。

「霧島するる」は出汁の効いた茶碗蒸し、あまみが感じられる刺し身などとも相性が良かった。好みに応じて自分なりのペアリングを探してみてはいかがだろうか。

「霧島ほろる」と「霧島するる」の登場で焼酎を楽しむ機会が増えそうだ。さらなる味わいと余韻を求めて。霧島酒造の新しい本格焼酎のストーリーが始まった。

企画室に所属する大岩達郎さんは、酒質や商品ネーミング、パッケージデザインなどの全体の取りまとめを行った。
酒質管理部・尾﨑圭晃さんはブレンダーとして「霧島ほろる」「霧島するる」の味わいを決めるブレンドを行った。「芋焼酎とはまた違った飲み応えやうまみを表現しました」。

●本格麦焼酎
霧島ほろる

原材料:麦(国産)、米こうじ(国産米)
アルコール分:25%
内容量:900ml/瓶、1800ml/瓶
希望小売価格(税込):1077円(900ml)、2028円(1800ml)

●本格米焼酎
霧島するる

原材料:米(国産)、米こうじ(国産米)
アルコール分:25%
内容量:900ml/瓶
希望小売価格(税込):1067円

「霧島ほろる」「霧島するる」というネーミングは単に酒質を表現するだけでなく、飲んだときの気持ちにまで踏み込んだ。「従来の焼酎にないラベルのデザインにも思いを込めました」と大岩さん。

提供/霧島酒造株式会社
お問い合わせ/お客様相談室 TEL0986-22-8066(平日9:00 ~ 17:00、土・日・祝日除く) 
公式HP/https://www.kirishima.co.jp/

飲酒は20歳から。飲酒は適量を。飲酒運転は、法律で禁じられています。妊娠中や授乳中の飲酒はお控えください。

撮影/遠藤 純 文/仲武一郎 提供/霧島酒造

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