66470東京で仕入れた生ホップで醸造する下町のブルワリー。深川から問う「東京らしい」ビールとは?

東京で仕入れた生ホップで醸造する下町のブルワリー。深川から問う「東京らしい」ビールとは?

有限会社verb 岡本 のぞみ (おかもと のぞみ)
岡本のぞみ(verb)
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東京にある個性的な地ビールブルワリーを訪問。醸造所を見学しながら、ビール造りにかける思いをインタビュー。併設されたレストランや売店にも立ち寄り、そのブルワリーならではの地ビールの魅力を探る。

今回は、深川で東京らしいビールを追求する江戸東京ビールを訪れた。

深川で「東京らしさ」をテーマにビールを醸造

醸造長の篠原慎一さん

深川は、浅草や神田などと並ぶ江戸の下町として、その文化が色濃く残るエリア。現在も、ものづくりを通して職人気質が感じられる街。江戸東京ビールも、そんな街の一角にある。

江戸東京ビールは2018年のスタートから、東京で地ビールを造ることの意味を意識してきた。原料に「なるべく東京らしいもの」を使うことをテーマの一つに掲げ、ビールを醸造。アグレッシブにそんな思いを推し進めているのが、2021年春から醸造長を務める篠原慎一さん。

「昨日も練馬にある井之口農園さんの生ホップを使ったビールを仕込みました。井之口農園さんはキャベツ栽培で有名ですが、江戸東京野菜である早稲田ミョウガを復活させたことでも知られた農家さん。『ホップを作ってもらえませんか』とお願いしたところ、思いが伝わり、今回の醸造につながりました」

通常のビール造りには、乾燥させ圧縮して固形化されたホップが使用される。そうしたホップは苦みなどの風味が調整しやすいメリットがあるが、画一的な味わいで農作物らしさに欠ける。

「生ホップの魅力は、その年の作柄までもあらわれるところ。それこそがクラフトビールらしさだと思っています。井之口農園さんは、『東京おひさまベリー』という東京産のイチゴも栽培されていて、出荷できない不揃いなイチゴでストロベリーIPAを造ったこともあります。こういうチャレンジはこれからも続けていきたいですね」

ビール造りを1から10まで一人で担当する篠原さん。会心の一杯ができると、思わず笑みがこぼれる

チャレンジングなビール造りは、江戸東京ビールらしさ。そうした意気込みが見事な結果を生んだこともある。醸造長になってたった3か月で、インターナショナル・ビアカップで銀賞を獲得したのだ。

ビール醸造を始めてまもない期間で国際的なコンクールで入賞できるのは、かなりの快挙。篠原さんの勉強熱心で研究肌な気質が功を奏したともいえるが、もう一つ理由があるという。

「江戸東京ビールではビアックという醸造・発酵・貯蔵が一体化された80Lの極小タンクを使っていて、醸造担当は私一人です。そのため、だいたい月に12回くらい仕込んでいます。そうすると経験値が段違いに上がるので、ホップやモルトの特性を早くから掴めたのだと思います」

現在も委託醸造も含めて、ビアックはフル稼働。そのたびに新しい原料やバランスでビールを仕込み、チャレンジしている。腕一本で旨いビールを造り続ける職人気質な篠原さんの人柄が、そのまま江戸東京ビールの個性になっているようだ。

定番のペールエールと季節に合わせたビールを約10種類ラインナップ

左から、「天翔柚子閃」R880円、L1,400円、「パープルヘイズ」R880円、L1,400円、「千田ゴールデン」R680円、L1,200円

江戸東京ビールでは、毎日約10種類のビールが「ON TAP」という併設のビアバーで提供されている。

この日は、11種類がタップにつながっており、そのうち9種類がオリジナルビール、2種類がゲストビールだった。「千田ゴールデン」というアメリカンペールエールやニューイングランドIPAのほか、ハーブやスパイスを使ったセゾンビールや季節の果物を使ったビールなどがあった。

●千田ゴールデン
初代醸造長が造った、江戸東京ビールの定番。アメリカンペールエールのクセのないスタンダードなビール。

●ボタニカルファームハウスエール
レモングラス、バイマックルー、ブラックペッパー、コリアンダーの4種類のハーブをブランドした、スパイス&ハーブビール。「ジャパン・グレート・ビア・アワード2021」銅賞受賞、「ジャパン・グレート・ビア・アワード2020」銀賞受賞。

●ニューイングランドIPA
苦みがありながら、乳糖を入れて柔らかい口当たりにしたニューイングランドIPA。

●パープルヘイズ
少量のブルーベリーを使用。鮮やかな色合いと華やかな後味のペールエール。色みのクリアさから分かるように、フルーティーさは風味のみ。しっかりとビールの苦みがある。

「ON TAP」のタップはカウンターから見えるところにある

カウンターのガラス窓から醸造風景を眺める

ON TAPの内観

「ON TAP」の店内はカウンター席が縦にずらっと並んでいて、カウンターの正面に江戸東京ビールのブルワリーがある格好になっている。そのため、早い時間から飲んでいると、ブルワリーで篠原さんが醸造作業をしている様子を見学することができる。ビール越しにビールが醸造された風景が見られるのだ。

ガラスの奥にはブルワリーがあり、作業の様子が見られる

もし、江戸東京ブルワリーの見学がしたい場合は、繁忙期をのぞいた期間であれば、事前予約を受け付けている。篠原さんの説明を聴きながら、運がよければマッシングの工程で、かき混ぜる体験をさせてもらえる。

「ガーリックキノコのオイル漬け」600円

ON TAPのフードメニューは、ビールに合う揚げ物や乾き物が中心。パブの定番料理「フィッシュアンドチップス」「フライドポテト」や、和風テイストの「鶏の半身唐揚げ」「舞茸のフリット」「ミョウガのフリット」がある。乾き物は「ドライ無花果」「ミックスナッツ」がメニューになっている。

おすすめ料理の「ガーリックキノコのオイル漬け」は、白と黒のマイタケ、シメジ、ヒラタケの5種類のキノコがガーリックオイル漬けになっている。キノコは種類ごとに瓶詰めして熟成された冷製アヒージョの状態で仕込まれているため、それぞれのキノコの味が引き立っている。

キノコの旨みがしみたオリーブオイルにパンを付け、ビールをいただくのは、たまらない瞬間だ。

「ミョウガのフリット」680円

メニューのうち「ミョウガのフリット」に合わせたいのは、柚子や柑橘を使ったビール。ミョウガのピリッとした味わいが柑橘類の爽やかさと合わさると、日本人好みの粋な味わいに。江戸らしさを感じながら、ビールが進む体験ができ、夏におすすめ。

季節が変わると、フードメニューやビールもスタウトなど濃厚なタイプも登場するので、そちらも楽しみとなる。

江戸東京ビールに併設された「ON TAP」の扉

江戸東京ビールは、深川にあって東京らしさとは何かを追求した職人気質が感じられるブルワリーだった。東京産の生ホップのビールは、ぜひ飲んでみたい一杯。深川は、コーヒーロースターやワイナリーもある街。そうした施設を巡る計画を立てた際には、ぜひとも覚えておきたい一軒だ。

【江戸東京ビール ON TAP】
住所:東京都江東区千田16-2
TEL:03-6659-8379
営業時間:平日 17:00〜23:00(LO22:00)、土日15:00〜22:00(LO21:00)
定休日:月・火
https://edo-tokyo-beer.com/

取材・文:岡本のぞみ(verb) 撮影:山田大輔

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有限会社verb 岡本 のぞみ (おかもと のぞみ)
有限会社verb 岡本 のぞみ (おかもと のぞみ)

編集プロダクションverb所属。広告制作会社でコピーライターを経験後、ライターに。Webメディア「東京ワインショップガイド」も運営している。ワインエキスパートやビアテイスター、普通自動二輪の資格・免許を所持。ワインやクラフトビール、テニスが趣味で、酒を楽しむこと、体を動かすことが好き。男の隠れ家デジタルを担当するようになり、アウトドアやバイクにも興味が広がっている。

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