キャンプ場に向かう道もツーリングキャンプの楽しみ
埼玉県入間市から十国峠を越えて長野県八ヶ岳方面へ抜ける国道299号。狭く曲がりくねった道が続く、いわゆる「酷道」のひとつに数えられる道としても知られている。キャンプ道具を積んだバイク、カワサキVERSYS’X250TOURERは埼玉県飯能市を過ぎ、高麗川沿いのワインディングロードに延々と続く大小のカーブを右に左にリズミカルに走り抜けていく。
並行するように線路が続く西武秩父線も、道の右を走っていたり左に移動したりと、国道299号との絡みを楽しむように秩父を目指している。朝方心配した天気は大丈夫そうだ。低く空を覆っていた雲も高度を上げ、ちぎれるようにまばらになってきた。時折雲の切れ間から青空が顔を出し、日も差してくる。


全長約2kmの正丸トンネルを越えると、道は一気に秩父の盆地に向かって下り始める。飯能から走ること約1時間、巡礼の札所の看板があちこちに目に付く秩父に入った。と同時に蕎麦の看板も。延々と続くワインディングロードを抜けた安堵感のおかげか、ほっとひと息ついたところで空腹の黄色信号をキャッチしたようだ。


秩父の隣町、小鹿野町に入るとさらに魅惑の蕎麦の看板が多くなり、国道を外れた地蔵寺近くの1軒の蕎麦店に立ち寄った。バイクツーリングに出ると決まって昼食は蕎麦になるのはなぜなのだろう。今回もそれに漏れず足が向いてしまった。


地元の名物を仕入れてソロキャンプの夜を楽しく
バイクツーリング時の昼飯はいつも蕎麦になってしまうのはなぜだろう、などとつまらないことを考えつつ昼食を終え、再び国道299号に戻り、目指すキャンプ場へ一気に向かうことにする。
キャンプツーリングの目的地は「まほーばの森キャンプ場」(群馬県・上野村)。国道から離れ、奥深い自然の懐に抱かれつつも、整備された居心地の良いキャンプ場だ。愛車が乗り入れ可能な木立の中に広がるサイトで過ごす時間を楽しみに、さらに狭くなった道を慎重に先に進む。
沿道の集落の姿が徐々に少なくなり、森がいっそう深くなった。カーブに飽きた頃、志賀坂トンネルを越えて群馬県に入った。道は「十国峠街道(国道462号)」と合流しキャンプ場のある上野村を目指す。

上野村には「道の駅上野」があることを事前に調べておいたので、ここで夕食の材料を仕入れる。名物・猪豚を使った豚鍋が今夜のメイン料理の予定だ。猪豚のほかに地元野菜や地元の醸造所の味噌を購入した。準備万端整ったところで、ここから10分ほどのまほーばの森に向かう。キャンプ場の近くにこうした店があるのは便利この上ない。



キャンプ場への看板に従い、国道を離れて道はぐんぐん標高を上げる。と、いきなり深い森から木立の合間に光が降り注ぐ開けた場所に出た。ここが目指すまほーばの森だ。
駐車スペースが広く取られたカフェ&レストランのある管理人棟で受付を済ます。ついでに焚き火用の薪を購入し、夜の焚き火酒宴に備える。ソロキャンプの夜は何もせず、ぼんやりとひとり静かに焚き火を見ている。この時間のためにキャンプをすると言ってもあながち嘘ではない。


この日は空いていたこともあり、好きなサイトを選ぶことができた。木々の間から光が降り注ぐ気持ちの良さそうなサイトを選び、バイクに積んだキャンプ道具を広げて、早速テント設営にかかる。ある程度荷物が積めるバイクといえども荷物の重量は軽い方が断然良い。
MSRの3シーズンテントはフライ、本体、ポールで1.5㎏。この軽さが思い立ったら出かけるツーリングキャンプには必須アイテムとなる。設営も手間がかからず10分ほどで完了。いつもならこれで終わるのだが、今回は雨でものんびりする時間を楽しみたかったので、ソロキャンプに適しているMSRのタープも張った。これでひとりの時間を楽しむ空間が確保できた。


日が暮れてからの時間はひとり楽しむ夕食と焚き火
設営後、コーヒーを淹れ木立に降り注ぐ柔らかな日差しを浴びてぼーっとする時間を満喫。この時間もソロキャンプの楽しみのひとつだ。ただし、キャンプ場の夜は思いも寄らず早くやってくるので、早々に夕食の準備にかからねばならない。いつ日が暮れても慌てないようにSOTOレギュレーターランタンやヘッドランプを用意して、夕食の下ごしらえを開始する。


今夜は件の猪豚鍋。鍋といってもひとりなので大きめのコッヘル、今回はSOTOのクッカーで代用する。野菜をざく切りして、道の駅上野で購入した名物・猪豚も適当な大きさに切っておく。
シングルバーナーでコッヘルに湯を沸かす。野外で聞くガスバーナーのゴーッという低く力強く、そして節度のある音はいつも安心をもたらしてくれる。
湯が沸いたところで、出汁、野菜を入れる。ソロキャンプではいつもレシピなどは無視。見よう見まねで料理を作っている。「こんな味だったっけ?」ということはよくあるが、それもソロキャンプでは美味しく感じるから不思議だ。味噌を溶き、猪豚に熱が通ったところで完成。ひとりなので鍋に使ったコッヘルを持ってそのまま食す。行儀は悪いが荷物も洗い物も減らせるので、これで良い。




ふと気がつくと辺りは暗くなってきて、空だけが木立の間から濃く暗い深青色となっていた。用意しておいた薪の束から細いものを選って焚き火台に数本置いき、着火剤で火を付ければ乾いた薪にあっという間に火が移り、炎が立ち上がった。
後は炎を大きくしないように少しずつのんびりと薪をくべていけば良い。そしてここからがとっておきの時間。といっても何をするわけでもなく、焚き火の炎をじっと見ているだけなのだ。



変幻自在、そして気まぐれに揺れる炎には魔力でもあるのか、何時間でもじっと見入ってしまうことがある。その間たぶん頭の中は空っぽなのだろう。ひとりの時ほどその時間が貴重になってくる。そんな時、空っぽの頭に浮かんだのが、道の駅上野で買った地酒のワンカップだった。コッヘルに湯を沸かし少し燗をして飲むと、より一層幸せな時間の密度が濃くなったような気がした。



車の側でテントが張れる
まほーばの森キャンプ場
奥深い自然の中で、鳥のさえずりと風の音を聞き木々の息吹を感じる環境に囲まれつつも、車・バイクでのアクセスが簡単。デイキャンプから本格的なキャンプには最適。コテージもある。
※シーズンによって料金が異なりますのでお問い合わせください。
Text/Takeo Aki
Photo/Shogo Motobayashi
Thanks/エイアンドエフ、キャプテンスタッグ、新富士バーナー、スノーピーク、デッカーズジャパン、モチヅキ、モンベル
※2019年取材