5097街の片隅におたくが心安らげる秘密の空間があった「ひみつ基地」他|大山駅北口〈おたくの隠れ家〉

街の片隅におたくが心安らげる秘密の空間があった「ひみつ基地」他|大山駅北口〈おたくの隠れ家〉

男の隠れ家編集部
編集部
決して流行りのスポットやおしゃれなカフェなどではない。「おたく」たちが心の拠り所とする場所は、都会の片隅にひっそりと佇んでいる。そんな「おたくの隠れ家」を紹介したい。
目次

おたくを優しく受け入れる おたくの隠れ家

おたくと呼ばれる人たちは、趣味に掛ける精神の領域が一般人より広いようだ。彼らが一般人から理解され辛い存在になっているのは、多分に偏見のせいもあるだろう。おたく趣味の代表的なものはアニメ、漫画だったりするのだが、昭和の頃は大人がこれらに夢中になると、会社の上司などから「いい大人がそんなものに夢中になって」と鼻で笑われたものだった。

時代は変わり平成が終わり、令和になった。日本が全世界に誇れる洗練された文化はアニメ・漫画であり、それが世界中で評価される時代になって久しいのが現代、令和だ。何しろクールジャパンの筆頭とされるのが、これら日本のアニメ・漫画文化なのだから。

ところが既成概念と言うのは恐ろしいもので、全世界の文化人が評価している日本のクリエーターの創作物を、その発信源の日本の大人たちの多くが受け入れても、その理解者、愛好家たちの存在を大人たちは疎ましく捉えているのは何故なのだろうか?

その原因は、依然として日本を始め東南アジア全域のクリエーターの社会的地位の低さ、賃金が欧米の10分の1以下である事に一因があるのではないか。クリエイターの地位が低いから、その愛好家「おたく」は社会から優しく受け入れてもらえない存在になったのではないだろうか。

そんな中で、秘かに自分だけの安らぎ空間を持つ人たちがいる。彼らを優しく受け入れてくれる「おたくの隠れ家」が都会に幾つもひっそりと存在しているのだ。それらはアニメ・漫画だけでなく鉄道、アイドルなどのジャンルにまたがって幅広く大都会の片隅に店を開いている。

そんなお店の魅力を紐解き、伝えるのが「おたくの隠れ家」だ。第一回は「ひみつ基地」。昼は駄菓子屋、夜は駄菓子BARとして人気を集めているおたくの隠れ家だ。

ひみつ基地|大山駅北口

(注)2022年12月現在、営業は平日19〜翌1時、金土祝前日は19〜翌3時までに変更となっています。

前を通ると等身大フィギュアに魅かれ、ついつい店内を覗きたくなる。駄菓子屋とカウンターバーを合体させた不思議な懐かし空間。JR池袋駅から東武東上線で3駅大山駅の北口から、商店街を歩いて5分ほどのところに「ひみつ基地」がある。

「ひみつ基地」は、店内のディスプレイがレトロ感に溢れているのが特徴だ。 入り口では等身大のスパイダーマン(フィギュア)が迎えてくれ、店のドアを開けると、すぐ目の前に全長約2メートルのガンダムRX-78が入り口に向かって雄々しく立っている。

15坪ほどの店内奥には、アイアンマンの等身大ブリスターが壁面に備え付けられている。壁にはキン肉マン消しゴムのコレクション、世界各国の紙幣のコレクションなどがさん然と輝き、来店する人目を惹く。また、壁面の隙間には所狭しと「ET」「スパイダーマン」など懐かしいレトロ洋画ポスターも貼られている。

ここは昼間、普通の駄菓子屋として営業している。子供たちだけで駄菓子を食べに来て、ジュースやソフトクリームを買い、その場で食べてもOKなフランクで楽しい空間だ。子供たちは家族の大人が一緒の場合もあり、気軽に待ち合わせにも利用されている。駄菓子は10~30円ほどで購入出来、お手軽で懐かしい味の数々が楽しめる。

2階には、昼間来店した人なら誰でも自由に遊べる卓球台が設置されており、親子などでプレイが楽しめる。他にもレトロ感覚で楽しめる木製の本格サッカーゲームが置かれ、10円ゲームコーナーには多数のゲーム機が設置されている。ここでも昭和の頃の駄菓子屋にタイムスリップしたような懐かしい気分が味わえる(1階のカウンターでは、大人は昼間でもビールなどアルコールを楽しめる)。

さて、「ひみつ基地」の夜の部は、カウンターバーとして、大人だけの世界になる。お子様は残念ながら18:00までで帰らないといけない。

女の子数名がカウンターの中に立ち、アニメ、映画、漫画の話にも付いて来てくれる。店長はゆかさん、副店長はさきさん(卓球台の前でポーズを決めてくれた)。夜の部は2階の卓球台、10円ゲームコーナーは閉鎖になるが、1階で販売している駄菓子は昼間と同じ料金で買える。

「ひみつ基地」は平日もなじみのお客さんで賑わい、特に週末はお客さんが溢れるほど。店のカラオケでかかる曲は、アニメの曲が2割程度、ポピュラーなヒット曲を歌われる方がほとんど、とのこと。

取材に伺った日曜日、子連れのお客さんのひとりから秘密の話を聞いた。彼はお子さんを2階で遊ばせて、カウンターでひとりビールを飲んでいた。彼がこっそり教えてくれたのは、彼こそがネットに匿名で「地球人の危機に警鐘を鳴らし続けている、秘密組織の一員」だということだった。

ちなみに彼に職業を聞いたところ、「それは絶対に秘密」だと答えてくれた。そんなお客さんもいて、他では聞けない楽しい会話が楽しめた。

ひみつ基地
昼間(11:00~18:00、火曜日、木曜日、雨の日お休み)は駄菓子屋として営業。夜は19:00~4:00カウンターバー。日曜日、祝祭日休み。
お酒(ウイスキー、焼酎、生ビール・ハイネケン)は1時間2500円(税別)2人以上同伴2000円。時間内飲み放題(シャンパンは別)、割りもの(ソーダ、ウーロン茶、緑茶、お水、氷)代金は全て無料。

CAN GIRL CAFÉ(カンガールカフェ)|大山駅北口

「ひみつ基地」にはいくつかの姉妹店がある。それが「ひみつ基地」から20メートルほど離れた道向かいにあるカウンターバー「CAN GIRL CAFÉ」だ。

この店は、バットマンの等身大フィギュアがお客さんを迎え入れてくれる。店内のディスプレイはアメコミ、洋画で統一されていて、天井にはスパイダーマンのフィギュアがダイナミックに張り付き、こちらも来店するお客さんを驚かせる。

この店の特徴は、金属のコンテナの中に造られたお店ということ。飲み物も缶ビールがメイン。そこでお店の名前が「CAN GIRL CAFÉ」となっているのだ。開店が20:00と比較的遅く、閉店も早朝5:00なので、同業者の方が自分の店を閉めたあとで来店されることも多いようだ。

CAN GIRL CAFÉ
システムはほとんど秘密基地と同じ。1時間飲み放題2500円、2人以上同伴の場合ひとり2000円。カクテル、リキュールもこちらは飲み放題。営業時間20:00~5:00、日曜日、祝祭日お休み。

TARAKO家|大山駅北口

「ひみつ基地」や「CAN GIRL CAFÉ」の元になったのが、グループの本店の「TARAKO家」。こちらのお店も紹介しておこう。

店名の由来は、27年前にオーナーがお店を開いた時、飼っていた猫の名前がTARAKOだったとか。現在の店長・青山りりさんが、お店の歴史を教えてくれた。もともとの「TARAKO家」はスナックとキャバクラの中間の様なシステムの飲食店で、店内の装飾は純和風、日本映画のポスター、広告、看板などを多数配置したレトロな雰囲気だったそうだ。

バブル崩壊後、お客さんが減りつつあった時期、カウンター形式に全店内を改装し、飲み放題おつまみ駄菓子のシステムを作ったところ、それが爆発的に支持され、お客さんで溢れるようになったとのこと。当時は平日でも店に入りきれないお客さんが外にまで並び、TVで話題のラーメン店のようだったという。 これを経て現在の「TARAKO家」グループが出来たそうだ。

TARAKO家
営業時間21:00~5:00。日曜日、祝祭日お休み。飲み放題1時間2500円。2人以上2000円。柿ピー食べ放題。

BAR ルーラ|大山駅北口

大山駅北口線路沿いにあるカウンターバー。「TARAKO家」グループのなかで駅から最も近い店だ。カウンターの中の女性は話し上手な素敵な熟女ばかり。楽しい話題作りは地元のなじみ客を放さない。特に店内にレトロ感はない。写真は最年長のみおさんと、お客さん。

ルーラ
営業時間21:00~4:00。日曜日、祝祭日お休み。飲み放題1時間2500円、2人以上2000円。駄菓子の一押しはブタメン。

最近の飲み屋はどこも客足が減り、閉店に追い込まれる店も多いが、「レトロ、駄菓子、飲み放題」と他店にはない企画力で差別化を図り、「TARAKO家」グループは大山に4店舗、上板橋に2店舗で、元気に営業を続けている。

文/宮川総一郎
エッセイスト、漫画家、小説家。代表作:漫画『マネーウォーズ』(集英社ビジネスジャンプ)。小説:「七福神食堂」「東京謎解き下町巡り」(マイナビFan文庫)。総監修:「漫画から学ぶ生きる力」、他。


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いくつになっても、男は心に 隠れ家を持っている。

我々は、あらゆるテーマから、徹底的に「隠れ家」というストーリーを求めていきます。

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