マスターの寺口孝雄さんは看板メニューのバターブレンドの生みの親である。幼い頃から明治生まれの父に連れられてコーヒーハウスに通っていたという、筋金入りのコーヒー好き。焙煎の仕上げにバターの香味を染み込ませる方法を開発し、昭和52年(1977)に28歳で創業した。
一杯ごとに魂を込めてドリップする
創業以来、コーヒー豆はバターブレンド一種だけを貫いているというから驚きだ。コーヒーをドリップする瞬間、饒舌な寺口さんが寡黙になる。ひとり用のドリッパーに超粗挽きの豆をあふれるほど入れ、静かに一投目の湯を注ぐ。
両手でドリッパーを包み込み、豆が膨らむ様子を見つめる。話しかけるのをためらうほどの静謐のなか、二投目を。
「ここや! というタイミングを豆が教えてくれる。二投目で一気に旨味を引き出すんです」。超粗挽きの豆は通常の3倍の量を使い、独自の方法で豆のポテンシャルを最大限に引き出すのである。
シックで落ち着いた店内は、カウンターの棚にずらりと並んだ大倉陶園製の美しいカップにも目を惹かれてしまう。華奢なカップに注がれた魅惑的な濃い茶色の液体をひと口、またひと口、ゆっくりと味わう。澄みきってふくよかにまろみを帯び、ラストにバターの甘味が素晴らしい余韻となって広がるのだ。
世界的指揮者の佐藤裕さんや秋元康さんなど多くの著名人を虜にしている、寺口さんのバターブレンド。精魂込めて淹れてくれる珠玉の一杯を、毎日飲みに通える人が心底羨ましいと思ってしまった。
【基本情報】
住所:兵庫県神戸市東灘区御影郡家2-19-16
最寄り駅:阪急「御影駅」よりすぐ
営業時間:12:00~20:00
定休:月曜・第3火曜(祝日の場合は営業)
文/郡 麻江 写真/尾上達也