(※その他の写真は【関連画像】を参照)
※この記事は2025年5月号に掲載されたものです。
■「南船北馬」の中華文明 風土も酒も南北に分かれる
「南船北馬(なんせんほくば)」という四字熟語がある。「中国全土をせわしなく旅する」という意味であり、中国の風土を端的に示した言葉でもある。

中国南方は湖沼が連なる水郷地帯、だから移動には舟が良い。乾いた平原が広がる中国北方は、馬を用いた旅が良い。水郷地帯の南方の主食は米、かたや乾燥地帯の北方では小麦やキビなどが栽培されている。
このように栽培される穀物が異なるから、中国の南北で「主食」も、そして「酒文化」も異なる。中国南方では米を醸した醸造酒。
日本酒と異なり黄色味を帯びるので「黄酒(ファンジョウ)」と呼ばれ、長く貯蔵したものは「老酒(ラオチュウ)」として珍重される。
その代表が、浙江省紹興の街が本場の「紹興酒」である。とろりと濃い色合いに深みのある味わいは、温暖な江南の風土を彷彿とさせる。

一方で中国北方。古代にはキビや高粱(コーリャン)の醸造酒が醸されていたが、12世紀頃にアラビア方面から蒸留技術が伝来、もろみから何度も蒸留を繰り返すことで度数を高める。
その酒は黄酒と異なり、無色透明だから「白酒(パイチュウ)」。折しも中華料理は炒め調理の流行により脂っこくなった。度数70度にも達する白酒は、口中の脂気をすっきりと洗い流す。アルコールで体を温める効果も相まって、北方で愛飲されるようになった。
⚫︎Question「黄酒と白酒とは?」
黄酒とは、穀物を麹で発酵させた「醸造酒」。造り方そのものは日本酒に似ているが、黄色味を帯びるので「黄酒」と呼ぶ。白酒は中国の蒸留酒のこと。主に中国北方で造られる、もろみを蒸留した無色透明の「焼酎」。度数は最高70度にも及ぶ。
■紹興酒とは
浙江省紹興の街で醸造される、中国を代表する黄酒。もち米を麦麴と「鑑湖」の水で仕込み、搾った後に3年間熟成させる。色は濃く、甘みを含んだ深い味わい。常温でも、燗でも飲まれる。

■日本酒と似た製法の「黄酒」
⚫︎黄中皇 10年
厳選された蔵元の「皇帝の酒」

6つの酒蔵にのみ許されていた「紹興酒」の醸造。中でも「中粮酒業」が誇る紹興酒ブランドがこの「黄中皇」。国際金賞受賞歴多数、韓国、香港、ヨーロッパなど世界でも愛されている銘紹興酒。
長期熟成の10年物は豪胆で濃芳、やや甘口にもかかわらず、後味に爽快感を漂わせる。甜、渋、辣、苦、鮮、酸の六味で表現される中国酒、わけても「鮮」の語で表される「うま味」が際立ち、「紹興酒の皇帝」の名に恥じることがない。
産地/浙江省紹興
酒造/中粮酒業
原料/もち米、麦麹
アルコール度数/14.5度
⚫︎即墨焦香型 5年
あたかも「中華式黒ビール」

中国北部の山東省では、黄酒は米ではなくキビで仕込まれる。「即墨焦香」は、当地で4000年前から醸造されている酒。キビをあらかじめ炒ってから仕込むことで、独特のスモーキーフレーバーが生まれる。
見た目は泡立たない黒ビール、カラメルのような独特の芳香と酸味のある甘みと適度な苦みを有した複雑な味わい。当地ではこの酒で煮た川蟹や鶏卵は婦人病に効果があるとして料理酒に愛用され、キビの成分が血の巡りも促進するとして珍重される銘酒。
産地/山東省青島
酒造/山东即墨黄酒厂有限公司
原料/黍米、麦麹
アルコール度数/11.5度
⚫︎黒谷有机干紅
米どころが醸す「米の赤ワイン」

陝西省洋県は、長江の支流・漢水が潤す水の豊かな米どころ、当地に生息するトキから名を授かった「朱鷺酒業」が提供する、天然栽培の黒米を原料とした醸造酒である。
清冽な仕込み水から引き出された素材由来の深みのある色合いは、あたかも「米の赤ワイン」。赤ワイン同様にポリフェノールを大量に含み色味は濃い赤紫、ワイン同様、常温か冷酒で口に含めば丸味を帯びながらも軽やかな酸・渋も感じられ、度数10度の穏やかな飲み口も相まって人気の品。
産地/陝西省青楊県
酒造/陕西朱鹮黑米酒业有限公司
原料/黒米
アルコール度数/10度
⚫︎台湾老酒
大陸、台湾、日本の技の融合

元々マレー系の民族が住んでいた台湾島には明朝の頃より対岸の福建方面から漢民族が移住し、黄酒の製法も伝わった。近代に日本統治を経験したことで日本酒の醸造法も加味された。
原料米を磨きすぎないのは黄酒の技法、醸造用乳酸を添加するのは日本酒の製法、最終的に壺で熟成させるのは黄酒の技法……。
大陸に台湾、日本の製法がそれぞれ組み合わされた台湾老酒は大陸産にはない独特の香気、口に含めば渋味、ドライ風味を併せ持ち、根強い人気がある。
産地/台湾
酒造/埔里酒廠
原料/もち米、蓬莱米、米麹
アルコール度数/17.5度
■最古の酒レシピ『斉民要術』
中国が南北の王朝に分かれていた6世紀の半ば、山東省在住の豪族が執筆した農業指導書「斉民要術」は現存最古の「中華料理レシピ本」。麹、味噌や酢の仕込み方に加えて醸造酒の仕込み方も詳細に記される。

■無色透明の蒸留酒「白酒」
⚫︎孔府家酒 壺
孔子の故郷の町の酒

中国が生んだ偉大な思想家・孔子の故郷は現在の山東省、曲阜の町。現地の清冽な水で仕込まれた高純度な白酒は「孔家秘伝」と称され、明、清時代には宮廷への貢ぎ物として献上されていた。
主原料は高梁、小麦、大麦、エンドウ豆。麦麹を使い、長く貯蔵することで風味がまろやかになる。穏やかな香り、アルコール度数は39度と白酒にしては低いため口当たりが良く、含むと口中に甘みが広がり、飲み下す瞬間に喉から大地の薫りが広がる。
産地/山東省曲阜市
酒造/曲阜孔府家酒蔵有限公司
原料/高粱
アルコール度数/39度
孔子と酒
孔子は「酒は量なし、乱に及ばず」と、飲酒による乱れを戒めている。なお孔子が生きた紀元前500年頃の中国に「蒸留酒」は存在しなかった。孔子が飲んでいたのはキビの醸造酒だろう。

⚫︎沱牌六粮
6種類の穀物の共演の妙

四川省水寧市で古来から製造される白酒。「六粮」の名は、高粱、大麦、小麦、もち米、トウモロコシ、うるち米と計6種の穀物を原料とすることにちなむ。
白酒そのままに無色透明のボディだが、麹の豊かな香りとともにフルーティーな香気を放ち、口中に含めば50度の強さを感じさせない絹のような舌ざわりに喉越し。
そして飲み下した後にまたフルーティーな余韻が広がる。口当たり良く、余韻に清涼感がある、濃香型白酒の典型ともいうべき銘酒である。
産地/四川省
酒造/舎得酒業股分有限公司
原料/高粱
アルコール度数/50度
⚫︎百吉納
騎馬民族伝統の「牛乳酒」

中国北方の内モンゴル地区、バヤンノール市に伝わる「牛乳酒」。草原で草を食む牛が提供する上質なミルクを麹と麦芽で発酵させる。素材がミルクながら黄金色、緑色。
爽やかな酸味のボディには18種類のアミノ酸、各種ビタミン、有機酸、カルシウム、鉄、亜鉛などの栄養素が豊富に含まれ、健康酒としての一面もある。黄酒とも白酒とも一線を画す百吉納は、ペアリングに飲み方を創り出せる可能性を薫らせる。
産地/内蒙古
酒造/百吉納奶酒股份有限公司
原料/水、白砂糖、乳清紛、牛奶
アルコール度数/12度
Shop
酒中旨仙
黄酒を中心とした歴史ある中国酒の伝道師となる
酒中旨仙、通称「うません」は、中国酒専門のネット酒店。定番の紹興酒はもとより、中国全土の黄酒、白酒の銘品を取り揃える。20年物の老酒など希少な品もあり。ホームページでは飲み方の解説もしてくれている。
https://www.umasen.co.jp/
文/角田陽一
▼あわせて読みたい
いくつになっても、男は心に 隠れ家を持っている。
我々は、あらゆるテーマから、徹底的に「隠れ家」というストーリーを求めていきます。
