昨年12月には、新歌舞伎座の跡地に伝統的意匠を引き継いだホテルが誕生。現代アートを身近に鑑賞できる、まったく新しい“ミュージアムホテル”での洗練された一時と、ほっと一息つける座裏の雰囲気。真逆のようでいて、双方が調和し共存する新・なんばのおいしい関係性を体験してきた。


新歌舞伎座が在りし時代の活気を受け継ぐ、今もっともアツいスポット「座裏」

演目を楽しんだ後、裏の店でちょいと一杯…のつもりが二杯、三杯と夜が深まっていく――。かつてのなんば・新歌舞伎座裏、通称「座裏(ざうら)」でよく見られた光景だ。2009年に老朽化で新歌舞伎座が上本町に移転した後、主を失ったその場所はしばらくの間ぽっかりと空白になっていた。

それが、駅チカという利便性や周辺に大型店舗が立ち並ぶようになり、次第に年齢を問わずさまざまな人が立ち寄る場所となる。老舗店に加えて、多ジャンルの新たな店も加わり、いまや座裏は国内外から食通が集う、“もっともアツイ飲み街”として活気づくエリアになった。

そして昨年12月、新歌舞伎座の跡地に雅な姿が蘇った。かつてその地に鎮座した建築美を忠実に再現し、新たな息吹が吹き込まれたアートホテルが誕生。その裏には、かつて以上の盛り上がりを見せる座裏。滞在中の遊びには到底困らないだろう、ひしめき合う店のネオンに、夜の座裏へといざなわれる。

昔ながらの赤ちょうちんに洒落た雰囲気のイタリアン…国籍問わずさまざまな店が立ち並ぶ。どの店も魅力的で、ほの明るい看板が手招きしているかのよう。しばし座裏の雰囲気を味わいながら散策。昭和のとある日にタイムスリップしたか、はたまた異国の地の路地裏に迷い込んだかと錯覚してしまいそうだ。

そのうちの一軒、老舗感漂うのれんと「名代おでん」の文字に惹かれて、足を踏み入れてみた。

創業70年以上変わらぬ味を求めて人々が集う「酒房 一富士」

70年以上愛される、座裏の中でも有数の老舗居酒屋「酒房 一富士」。厨房を取り囲むように置かれたカウンターには、会社帰りのサラリーマンや観光帰りのカップルなど、常連から一見さんまでが一同に集う。和気あいあいとした雰囲気が心地よい。

ここはやはり、「おでん」だろう。出汁がしみた大根に厚揚げ、たまご。冷えた日本酒をくいっとあおる。至福のひととき。

もう一品、毎朝9時から仕込むという、名物「どて焼き」を。コクがあるのに後味はさっぱりしていて、酒がさらに進む。

「そこのホテルにお泊まりなんですか?」。くったくない笑顔で声をかけられ、ホテルの誕生がもたらす新しい文化を快く歓迎する座裏の人々の懐の温かさを感じる。かつての大阪居酒屋の雰囲気がそのまま残る、憩いの空間だ。

酒房 一富士
住所:大阪市中央区難波4-2-10
営業時間:17時~23時
定休日:日曜・祝日

座裏に溶け込む味と雰囲気「焼きとん ええもん家」

せっかくなので、もう一軒。炭火焼きの良い香りと、店の前に置かれたコタツに惹かれて入ったのが、「焼きとん ええもん家」。その古民家のようなどこか懐かしい佇まいが、座裏の雰囲気にしっかりと溶け込んでいる。

店長が愛情込めて一本一本丁寧に仕込む「焼きとん」は、豚のさまざまな部位を炭火で焼き上げた逸品。

迷ったら、お任せでお願いするのが賢い。どの部位も甲乙つけがたい味わいだ。突き出しの梅風味のキャベツと焼酎との相性も抜群。

肉厚しいたけ(手前)や、期間限定で提供中というすきやき(奥)も、まさに絶品である。もう一本もう一本と、串を持つ手が止まらない旨さだ。

備長炭串焼き 焼とん ええもん家
住所:大阪府大阪市中央区難波4-8-5
営業時間:【月〜木】18時~24時30分(L.O24時)/【金・土】18時~25時(L.O24時30分)/【日・祝】18時~24時30分(L.O24時)
定休日:不定休

大阪の夜景を独り占めできるオーセンティックバー「雲雲~KUMOKUMO~」

座裏をたっぷり堪能した後は、ホテルに戻ってもう一杯。ホテルロイヤルクラシック大阪の最上階にあるバーラウンジ「雲雲~KUMOKUMO~」では、大阪の夜景が一望できる開放的かつ贅沢なシチュエーションで酒が楽しめる。宿泊しなくても利用できる点もうれしい。バーカウンターのライティングがなんともスタイリッシュ。

重厚で落ち着いた店内は、正統派のオーセンティックバーといった雰囲気。バーテンダーが軽やかに作るカクテルで大阪の夜を締めくくるとは、贅沢の極みである。今宵は満ち足りた気分のまま、眠りにつけそうだ。

まるで美術館を訪れたかのよう。伝統と意匠を引き継いだ“ミュージアムホテル”

今回宿泊した宿は、昨年12月にオープンしたばかりの「ホテルロイヤルクラシック大阪」。かつて鎮座していた新歌舞伎座の伝統的な意匠はそのままに、建築家・隈研吾が設計し、新しいなんばのランドマークとして生まれ変わった。

まず目を引くのは、低層部の唐破風。馴染みの深い新歌舞伎座の華麗な佇まいが見事に再現されている。そして高層部は、アルミフィンを幾重にも重ねたスタイリッシュでダイナミックなデザイン。温故知新の精神が感じられる。

夕暮れ以降、明かりが灯された様子もまた味わい深い。エネルギッシュでパワーがみなぎるなんばの地にどっしりと構えたその姿は、まさに伝統と革新が調和した唯一無二の建築美である。

ホテル内にも、至るところにこだわり抜いたデザインが。格子模様や直線美、そして屋根が感じられる独自のデザインが随所にほどこされている。

高さに変化のある客室は、12~19階の上層階に全150室。ともすると、閉塞的になりがちなホテルの一室も、ゆったりと独立した個別の家屋にいるかのように感じさせてくれる造りだ。

客室内の壁に浮かび上がる窓枠とカーテンの影までも、屋根を感じさせるデザイン。午後のわずかな時間帯にしか遭遇できない美しさだ。照明や空調、アラームなどはタブレットで一括操作でき、利便性の高さも追究されている。

ミニバーの冷蔵庫内には、大阪名物「みっくちゅじゅーちゅ」が。思わず頬が緩む粋な心配りもうれしい。

最上階の18・19階に設けられた最新鋭の音響設備がそろう「AUDIOスイート」(全2室)も。気のおけない友人との集いに利用してみようか、と早くも次の来訪に思いを馳せてしまう。

100点を超す現代美術作品を展示。アートを身近に感じられる空間がそこに

(右)舟越 桂/(左上)靉嘔(Ay-O あいおう)/(左下)ジャン=ミシェル オトニエル (C)Work of Jean Michel Othoniel, copyright belongs to Perrotin.

同ホテルもう一つのこだわりは、フロントやエレベーターホール、客室廊下などのパブリックスペースに、選りすぐりのアート作品が100点以上展示されている点である。

(右上)ニコライ・バーグマン (C)Nicolai Bergmann Flowers & Design. All rights reserved./(右下)元永 定正/(左)デイル・チフーリ (C)Chihuly Studio. All rights reserved.

前衛芸術家の草間彌生、彫刻家の舟越桂、フラワーアーティストのニコライ・バーグマン、ガラスを用いた現代美術家ジャン=ミシェル オトニエルら、大御所から若手アーティストまでの多彩な作品に館内随所で出会える。なかには億単位のハイクラスな作品も。

上前 智祐

各階ごと、作品にあわせて床の絨毯の柄や壁紙などの内装までさり気なくコーディネイトされているのだから、本当に心憎い。プロが本気になって作り上げた空間は、こんなにも遊び心にあふれているものか。

セキュリティの関係で、宿泊する部屋の階にしかエレベーターが止まらない。そのため、ホテル全階の作品をコンプリートはできない。さらに、季節やイベントにあわせて作品も順次入れ替えを予定しているとのこと、訪れるたびに新しい作品と出会い、異なる感動が味わえる点も魅力的だ。

ちょっと一息も、しっかり食事も。魅力あふれる飲食店の数々

座裏も良いが、ホテル内の食事も見逃せない。新歌舞伎座外観の波打つ破風のイメージを銘した内装が印象的なレストラン「ユラユラ」では、ランチ・ディナーと終日ビュッフェスタイルの食事が楽しめる。

目の前で調理してくれるライブキッチンは必見。軽く食事をしたい場合は、同フロアにあるカフェラウンジ「コアガリ」へ。

御堂筋を眺めながら、ゆったりとした時間が過ごせる空間。こちらもオープンスペースなので、買い物の合間にちょっと一息するのもいいだろう。

宿泊者限定のレストラン「ハフ」では、和洋中盛りだくさんの朝食ビュッフェで一日のスタートを。テイクアウトコーヒーもあり、いたれりつくせり。

また、御堂筋に面したホテル1階には人気のオープンカフェ「TSUCHI」が。設計はホテルと同じく隈研吾が手掛け、建築美が楽しめるデザインとなっている。チェックアウト後に軽くランチするのもいいだろう。


懐かしくも新しい座裏と、他に類を見ない魅力を兼ね備えたホテルロイヤルクラシック大阪。なんば駅を出てすぐというロケーションの良さ、そして宿泊せずとも堪能できるアート作品の数々は、美術に明るくなくても十二分に楽しめるコンテンツだ。さまざまな顔を持つ大阪・なんばに新たな一面が加わった様を覗きに、ふらりと足を伸ばしてみてはいかがだろうか。

ホテルロイヤルクラシック大阪
住所:大阪府大阪市中央区難波4-3-3
アクセス:大阪メトロ各線「なんば」駅 12番出口直結
開業日:2019年12月1日(日)
TEL:06-6633-0030(代)

文/水谷映美 撮影/福羅広幸