京都の老舗牛肉店で堪能する
最高級の黒毛和牛すき焼き
鴨川とその西に並行して流れる高瀬川に挟まれた木屋町通のさらに三条大橋の北側は、鴨川に向かって路地が幾筋もある。
その路地の奥に「モリタ屋 木屋町店」の暖簾が見える。鴨川の畔に建つこの木屋町店は、石畳の路地奥に静かに佇む料理旅館だった数寄屋造りの建物をそのまま生かし、坪庭を眺める個室や鴨川沿いの部屋などが用意されている。灯りがともる夜は、より京都の老舗らしい風格が滲み出るのだろう。
明治2年(1869)に創業したモリタ屋は京都で初の牛肉専門店「盛牛舎森田屋」として、森田卯之助が創業。嵯峨に牧場を構え、牛肉と牛乳の販売を手がけたのが始まりだ。以来、味とサービスを追求。
現在は京都府下の丹波・和知高原に専用牧場を有して黒毛和牛の飼育を行い、京都の和牛肉といえばモリタ屋と言われるほどの質を極めた。
オイル焼き、しゃぶしゃぶ、京籠膳などが並ぶ昼食のメニューから「すき焼き特選(7500円)」を選んだ。ほど良くサシが入り、まるで咲き誇る花のごとく華やかな色を放った黒毛和牛。
皿に大きく広げられた存在感のあるすき焼き肉を眺め、その美しさにしばしうっとりしていると、「では、焼いていきますね」と仲居さん。
まずは熱した鉄鍋に牛脂が入れられた。脂をのばしたところでザラメ砂糖をぱらぱらと加え、すぐさま牛肉を広げるように豪快に投入。
ジュジュッと快音を響かせながら湯気がふわりと立ち上った。そして割り下を注ぎ入れると、さらに鼻孔をくすぐる香ばしい匂いが漂う。
ゴクリと喉が鳴るのを覚え、思わず頬も緩む。仲居さんは手早く肉をひっくり返した後、「さぁ、どうぞ」と言いながら皿に盛りつけてくれた。
一連の流れを眺めているだけですでに口中の幸せ指数は高まっている。「まずは生卵にくぐらせるだけでお肉をお召し上がり下さい」。そう促されて口に運ぶと、芳醇でとろけるような食感、香ばしさと肉の甘みが口いっぱいに広がった。
ゆっくり噛みしめ、肉の旨さをしみじみ味わう。その瞬間、〝口福指数〟は頂点を極めたかのようだ。ふと、窓の外に目を転じると、三条大橋の架かる鴨川や東山の稜線が、最初に部屋に通された時以上に美しく思えた。
関東のすき焼きはいわゆる割り下で〝煮る〟方式が多いが、関西のすき焼きは、最初に肉を“焼く〟のが一般的だ。まずは肉を香ばしく焼いて味わい、その後、野菜や豆腐などと一緒に焼く(煮る)のである。
昭和50年(1975)に店ですき焼きを出して以来、長年その食べ方で提供。「肉は専用の冷蔵庫でじっくり熟成させ、和牛が持つ柔らかさと旨味を最大限に引き出し、さらに熟練の職人の調理技術を踏襲しています」と話す料理長の森下進一郎さん。
夏は川床が設えられ、そこで味わう昼のすき焼きもまた格別。早速、帰り際に川床の席を予約していくことにしよう。