11102趣味のコレクションがあふれる建物。DIYで一から築いた秘密基地〈埼玉県 戸田邸〉|小さな秘密基地の造り方

趣味のコレクションがあふれる建物。DIYで一から築いた秘密基地〈埼玉県 戸田邸〉|小さな秘密基地の造り方

男の隠れ家編集部
編集部
ここはビンテージグッズのショップなのだろうか? 県道沿いに佇む建物内部を見れば、誰もがそう思うに違いない。DIYで一から築いた秘密基地を紹介する。

DIYで造りあげた秘密基地

外壁は全て下見板張りだ。

なにしろ外観からして古色を帯びた板壁。脇には鮮やかなオレンジ色のサニートラックもある。そしてアンティークのドアを開けて中へ入ると、レトロな照明や家具。数えきれないほどのビンテージフィギュアに雑貨、写真、ポスター。一角にはずらりと、いかにも年代物であろう古着も並んでいる。

オフィス中央には工場の床材に脚をつけた大テーブルが置かれ、ビンテージ雑貨であふれる。
壁面には秘密結社系の古写真が。
価値あるフィギュアも多い。
照明も多種多様。

実はこの建物、デザインプロダクション「ルーキーズ」のヘッドオフィスだ。とはいえスタッフは在宅で仕事をしていて、オフィスに集まることはない。日々を過ごすのは代表の戸田将(すすむ)さんだ。ここは、まさに戸田さんだけの趣味で固めた秘密基地であり、仕事場なのである。

ドクロ系やちょっとエッチな雑貨も。
お気に入りのフィギュア。
現役の電話機。
ガラスとアイアンの間仕切り壁は鉄工所に依頼。
取っ手にもこだわりが。

さらに驚愕すべきは、この空間が全てDIYで造られたということだ。小屋レベルではない、外観からもわかる通りなかなかに大きな建屋である。一体どういうことなのか。

かつては都心の広告代理店に勤務していた戸田さんだが、12年前に会社が廃業。顧客の勧めで株式会社として独立することにした。

「オフィスを持つなら、都会の集合ビルの一室よりも、小さな町の一軒家にしたい。そこで、生まれ育った土地に戻ろうと思ったんです」

それには理由がある。もともと中学生時代からアメリカの古着が好きで、お気に入りのショップに通ううち、店に並んでいるビンテージ雑貨にも惹かれていった。実家の部屋には長年かけて集めた品が大量にある。それを飾って楽しめる空間、いわば秘密基地を造りたかったのだ。

窓辺のベンチは座面を上げれば収納になる手製。窓は縦使いの既製品をあえて横向きに取り付けた。
オフィス奥にあるコーナー。ガレージを見通す窓は、2枚のガラスの間に金属網をはさんで作った。

今の建物の場所には、使われていないプレハブの倉庫があった。それをベースに、知人の大工さんにロフト付きガレージなど増築部の基礎と柱の骨組みとベニヤ板の壁だけを依頼。プレハブ内で仕事をしながら、電気工事ができる地元の先輩や興味を持った後輩に手伝ってもらいながらセルフビルドを進めていった。

建物外壁は厚みを半分にした古材で下見板張り。一番大変だった作業だとか。

「土台に床や壁を張っていくだけですから、作業自体は難しくはないです」と言う戸田さんだが、それまでDIY経験はゼロ。電動工具を使ったこともない。ジャンクショーやネットで見つけた古い窓やドアに合わせて開口部を作り、壁には2×4材とラスカット板を張ってモルタルとペンキで仕上げた。

床や一部の壁に使われているのはアメリカの古材。サンドペーパーをかけて水洗いしてから使っている。外壁は“ランチフェンス”という古材を、厚みを半分にして使用した。電気配線やスイッチ類なども、ビンテージ雑貨との相性にこだわり、自製している。

入り口の床材は多様な色をつけて斜めに張った。
壁の塗装には知人の手伝いも。

オフィス部分が完成したのは8年前。次に着手したのがガレージだ。

オフィス奥のドアを出ると、古いブランコベンチのある喫煙スペースを経て、ルパン三世の愛車でもある黄色いフィアット500が置かれている。

壁の片側はアメリカの工場から出た古材。コールタールの汚れもいい雰囲気だ。もう片側は日本のものとはひと味違う、トタンの波板で内装している。そしてコロニアル風の柵をつけた小さなバルコニーへの階段を上がると……ロフト部に造り上げた第二の秘密基地がある。

友人たちと過ごすこともある第2の秘密基地。

足を踏み入れると、勾配天井の4畳半ほどの部屋。ソファとテーブルが置かれ、窓からほどよい光も入る。中央部を斜めに張った床材も格好良い。夜になれば間接照明がぐんと落ち着いた気配を演出するだろう。

「親しい友人とゆっくりお酒を楽しむのにいい場所です。冬には70年代のクッキングストーブで、ちょっとツマミを炙ったりしますし」

壁にはマッドマガジンが。
ヘリンボーン張りの床。

ふと見ると、壁の上部に小ぶりの両開き扉があり、そこに上がるかのようにキャスター付きの古びた脚立が置いてある。収納部か? 聞けば、なんとこの扉の中には、第三の秘密基地が隠されているという。

「大工さんが物置として造ってくれた空間だったんです。でもそんなに置くものもないですし。それで、内装して仮眠用の場所にしました」

上のスペースには脚立で上がる。

ぐらつきも楽しい脚立を上がって入ってみた。天井は低く、かなり腰をかがめて進むしかないのだが、その細長い空間にソファベッドやサイドテーブルがある。エアコンも設置されているので、さぞ快適だろう。

「昼間でも疲れたらここで休みます。家のベッドで寝るのとは違って、こもる感じがいいんですよね」

第3の秘密基地内。
内部には照明やエアコンを完備。

壁にはカラフルな塗装が施された古材が使われている。貼るのはずいぶん大変だったという言葉も、この狭い場所に入れば深く納得できる。

オフィス空間から仮眠スペースまで、徐々にプライベート感を醸し出す3段階の手造りの秘密基地。その全てが、戸田さんにとってのオモチャ箱であり、本当に好きなものだけで彩った快適空間なのだ。

「計画性は全然ないんです。造りながら考えていく感じ。木ばかりだと飽きるからモルタルを使って色も塗ろうかなとか。気の向くままです」

スタートしてから12年。作業は今も続いている。現在取り組んでいるのは、第四の基地となるガレージ横のL字型の小部屋だ。ラスカット板を張り終え、電気配線もすんだ。

「モルタル塗りの白い壁にするつもりです。植物を色々置いて、昔ちょっとかじったギターの練習もできる部屋にしようかな」

作業が進む4番目の秘密基地。壁にラスカット板を張り終え、次はモルタル塗装に入る。

その次は建屋の奥にあるプレハブのガレージにも手を付けるつもりだ。

ガレージは壁面の装飾も楽しい。

「人に見せるためではなく、仲間皆が楽しめる空間にしたい。自己満足なだけでしょうけれど、体力と時間が許す限りはずっと造り続けていくと思います」と戸田さん。

それでいいのだ。大人の秘密基地とは、自己満足の結晶なのだから。

製作中の部屋に通じるドア。
ドアにはヘビの取っ手。
窓や建具は見つけるたびに買っておく。
オフィス1階のミニカウンター内がメインの仕事場。

【秘密基地造りのPOINT】
1.好きなものを集め唯一無二の空間に。
2.DIYでコストを抑え好みを反映する。
3.古材やペイントを用いて個性を出す。
4.多くを決めず気の向くままに造る。
5.ひとり時間を満喫できる場所を造る。

1階
2階

文/秋川ゆか 撮影/池本史彦

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いくつになっても、男は心に 隠れ家を持っている。

我々は、あらゆるテーマから、徹底的に「隠れ家」というストーリーを求めていきます。

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