「大ゴイ!」。獲物を釣り上げた人の声が響く。21時過ぎ、こんな時間に本当にお客さんがいるのだろうかと思いながら訪れた埼玉県の「芝川つり堀センター」では、常連たちが真剣な顔で釣り糸を垂らしていた。
仕事帰りの太公望が集う、深夜の釣り堀情景
夜でも交通量の多い国道16号線沿い。すっかり暗くなった住宅街の中、「年中無休 つり堀」と書かれた大きな看板がひときわ目立つ。平日の夜だというのに、つり堀の駐車場は満杯になっている。
ちょうどこの日はポイント大会の真っ最中。9日間の大会期間中、釣果に応じてつけられるポイントをそれぞれ競っているのだという。なかには昨年の年間チャンピオンの姿も。常連同士、笑い話をしながら和気あいあいとした雰囲気だが、ウキが動いた瞬間、表情が鋭く変わる。
釣っては鈎外しを使い、魚を水から上げることなくリリースしていく。まさに釣り師の手慣れた動作だ。よく見てみると、釣り竿や鈎外しの道具が人それぞれ違う。それらはポイントを貯めて交換できる上級者用の道具なのだという。もちろん、この道具は交換した日限りのものではなく、釣り堀で保管してくれる。
22時頃に新しいお客さんが入ってきた。道具を見る限り、この釣り堀に通い始めたばかりだろうか。2つある水槽のうち、奥にある側へと歩いていく。どちらも放流されている魚の種類に変わりはない。週末や休みの日には50席近い座席が満席になることも多い。
スタッフの水谷さんに話しを聞いてみると、深夜まで営業していると聞いて、仕事帰りにふらりと立ち寄ってくれる釣りファンも多いのだという。
「遠いところだと船橋や草津から来てくれるお客さんもいますね。そのまま常連さんになってくれた方もたくさんいます」。なかには釣り堀の近くのホテルに泊まり、朝から夜まで釣っていく人もいるというから驚きだ。
そんなに楽しいものだろうかと、さっそく釣り糸を垂らしてみる。ジッとウキを眺めてみるが、なかなか動かない。きたか! と竿を上げてみても餌だけ取られている。空気を出しているパイプの脇を魚が通っていくので、そっちの方が釣れるかも、とアドバイスを聞いて席を移動した。すると釣れた釣れた。一匹目が釣れると、待つ心に余裕ができるようだ。
ふと常連さんの方に目をやると、竿を持つ手の横にはビールジョッキ。店内ではアルコールも販売しており、なんとボトルキープまでできるという。おつまみもあり、軽食だけではなく、しっかりとした食事メニューも提供している。
仕事帰り、ビール片手に釣り糸を眺める。「芝川つり堀センター」は、ゆっくりと流れる時間の中、少し哀愁も感じる大人の夜遊びスポットだ。
写真/山本昌史