下町風情が漂う森下から出発した名店の「修理工房」
江東区森下に店を構える「CARESE」がオープンしたのは1989年。今ではこの本店以外に、都内に2店舗のアンティーク腕時計専門店を構える。
本店の1階はメンズ専門のショップ、2階には修理のための受付があり、3階は修理工房。専任の修理職人を多数抱え、マニアからは「修理にも強い」と評判だ。
同店では1970年代までの腕時計を月に200本ほど海外で買い付け、それを修理調整して販売。その延長線で修理も受け付けている。1階に置く腕時計は、ここでメンテナンスしたものを並べている。
同店では、親から受け継いだもの、他店で買ったものでもオーバーホールや修理の依頼に応じる。オーバーホールとは、人間でいえば定期検診みたいなもの。分解して大掃除し、油を注すなどしている。この定期検診は、3年に一度が妥当のようだ。ここでは併せて、調子が悪くなりそうな箇所もチェックする。
アンティークの時計修理は、それが作られた時代の性格、メーカーや保存状態などにより方法は異なる。
普通は分業体制で行うようだが、同店では一人の職人が診断し、最初から最後まで責任を持つ。メーカーに部品の在庫がないものは、「ドナー時計」といわれる部品を取るために買い付けたムーブメントから取り、それでもないときは旋盤で作る。ゆえにマニアからも信頼を得ているのだ。
また、CARESEならではのサービスに「シースルーバック」がある。時計の心臓・ムーブメントは、アンティーク腕時計の魅力のひとつだが、同店では元の裏蓋を加工することなく、新しい裏蓋を作ってくれる。
オリジナルを損なわずに中身が見えるシースルーバックを実現できるのは、旋盤ができるだけでなく、彫金師も所属しているからだ。
身につけて楽しめるアイテムは、ほかのアンティークにもあるだろう。しかし、時計ほど男心をくすぐるアイテムは少ないだろう。
いいものを永く使う。それこそが本当の“エコ”だと。魅力あるものと出合い、着ける喜び。その先にあるのは、それと共生し、積み重ねる時間だろう。定期的なメンテナンスは、そのための行為なのだ。
古いものの独特の雰囲気と使い込む喜び――。もしかしたら、この世にふたつとない貴重な時代の生き証人を再生する、そんな神の手を持つ職人たちがいる店である。
※新型コロナウイルスにより臨時休業中、再開情報は公式HPにて(2013年取材)
文/山本裕美子 写真/遠藤純
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