17750また食べたいあの味。宇和島港から直送される南予の旬の味に舌鼓「がいや」(東京都杉並区)|代表・福田光さんのおすすめ〈絶品郷土料理の店〉

また食べたいあの味。宇和島港から直送される南予の旬の味に舌鼓「がいや」(東京都杉並区)|代表・福田光さんのおすすめ〈絶品郷土料理の店〉

男の隠れ家編集部
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愛媛県といえば鯛の養殖が盛んに行われ、ミカンなどの柑橘類も有名だ。杉並区阿佐ヶ谷に店を構える郷土料理の店「がいや」は、そんな愛媛の味をお腹いっぱい堪能できる気取らない店。店主・福田さんの故郷・宇和島の名産品を中心に、様々な郷土の味に舌鼓を打つ。(2017年取材)

若き夢追い人が“愛媛の味”を東京で振る舞う

古くは『古事記』の国生みに由来する愛媛県の名は「伊豫國謂愛比賣」(伊予国は愛比売と謂い/いよこくはえひめといい)が、後に愛媛に転化したと伝わる。

瀬戸内海に面し、松山市や宇和島市を中心に、古くから伊予国として栄えた地だ。県内は大きく東予・中予・南予に分けられ、それぞれに特徴がある。

製紙などの製造業が盛んな東予。近年では今治タオルがブランド化し人気を博している。政治や経済の中心地となる松山を擁する中予は、愛媛県の人口3割を占める商業地域。南予は愛媛みかんに代表される柑橘類や、タイ・真珠の養殖漁業が基盤となる自然豊かな地域である。

広い範囲を海に面し、林業も盛んな愛媛県には、さまざまに美味しい郷土料理がある。

賑わう店内。テーブル席、カウンター、奥には小上がりもある。

東京都杉並区阿佐谷南。JR阿佐ケ谷駅の南口からすぐのところに、その店「がいや」がある。店先に掲げられた大きな提灯は年季が入り、ところどころ破れているが、しっかりと宇和島の文字が見て取れる。

がいやの若き店主・福田光さん(愛媛県宇和島市出身)は10年ほど前、27歳の若さでこの店を立ち上げた。

「上京して東京の刺身を食べた時に“美味しくない”と思いました。東京で美味しい魚を食べようとすると、必然的にお金がかかってしまう。結局、大好きなのに魚をあまり食べなくなったんです」

店主の福田光さん。

海に面した地方出身者が上京してから一度は抱く思い、生で食す魚への抵抗感を福田さんも感じていたという。

17歳で上京した福田さんは飲食業をはじめ、色々な職を経験した。25歳の時に一念発起し飲食業界での起業を目指すようになる。日本料理店で調理と経営の修業をし、開業前の半年は地元・宇和島へ帰り、地魚の勉強をしたという。

自分の店を持つならば、東京の人にも宇和島の魚を安く美味しく食べてほしい。それがいつしか福田さんの原動力となったのである。

「魚は全て地元の宇和島漁港で水揚げされたものを直送しています。旬の魚を中心に、養殖日本一のタイも人気メニューでお勧めの逸品ですよ」

珍味せい。通称カメノテと呼ばれる。

福田さんに勧められるまま、まずはひときわメニューの中で異彩を放つ「珍味 せい」を注文。“せい”とはフジツボの一種であるカメノテの愛媛での呼び方だという。日本の沿岸にはほぼ全国的に生息するが、食用にするところは少ない。宇和島ではこれをたっぷりの塩茹でにして、皮をむいて食べる。

試しにひとつ見本を見せてもらい、中のプルっとしたピンク色の身を食べてみた。鼻に抜ける磯の香りが強く、食感はコリコリと固めのエビのよう。

噛めば噛むほど甲殻類の風味がする。例えるならエビや貝に近い味なのだが、しかし何かが違う。「それが“せい”なんですよ(笑)」。

福田さんの言葉に頷きつつも、クセになる味と食感に手が止まらなくなる。せっかくなので“せい”に合わせて地酒が飲みたいと相談すると、「久米の井」純米吟醸を勧められた。愛媛県産の酒米・しずく媛で仕込まれた県民自慢の酒という。

「愛媛は日本酒も焼酎も、地酒が豊富です。ぜひ東京の人にも愛媛の銘酒を楽しんでいただきたいです」。愛媛にはあまり地酒のイメージがなかったが、飲んでみると丁寧に醸された米の旨みが喉元を通り過ぎていく。甘みや辛味が抑えられ、驚くほど刺身との相性が良い。

愛媛の地酒も各種そろっている。
宇和島・森本蒲鉾店のじゃこ天。

そうこうするうちにカリッと炙られた「じゃこ天」が供された。宇和島のソウルフードといっても過言ではないじゃこ天は、宇和島藩初代藩主・伊達秀宗が故郷の仙台を思い出し、職人を連れてきて作らせたのが始まりとされる。

頭と内臓を取ったホタルジャコやグチなどの身や骨を皮ごとすりつぶして作られる。がいやで提供するのは、福田さんが生まれ育った実家の目の前にあった森本蒲鉾店のもの。一番、故郷を感じられる味だという。

骨も一緒にすりつぶされているので、時折ジャリっとした食感があるが、決して嫌なものではなく、風味も含めて非常に美味しいものだとわかる。少しだけ醤油を垂らすと、酒にもご飯にも合う最高のおかずなのだと合点がいった。

さつま。愛媛で愛される冷汁だ。

無性に米が食べたくなり「さつま」を注文する。冷汁とも呼ばれるこの料理は、宮崎を筆頭に日本各地にあるが、愛媛のそれは「伊予さつま」と称される。ハマチなどの焼き魚のすり身と麦味噌を出汁でのばして作られる郷土料理だ。

薬味にはネギとミカンの皮がのり、柑橘のさっぱりとした風味が爽やかで、食欲をかき立てる。冷汁を豪快にご飯にかけ行儀の悪さも気にせず、ずるずると口にかき込む。最高だ。

福田さんのソウルフードという宇和島鯛めし。

さらに福田さんがお勧めするシメの逸品は「宇和島鯛めし」だ。人気実力ともにナンバー1の鯛めしは、卵を溶いた出汁にタイの刺身をよく絡め、熱々ご飯の上にのせて食す伝統の郷土食。

かつて日振島を拠点にした海賊・伊予水軍が船上で酒盛りをした際に生み出したという説もある。炊き込みご飯ではない鯛めしは全国でも珍しく、宇和島ならではの食べ方だ。

阿佐ヶ谷で出会った愛媛の味は、魚介の旨みを存分に堪能できる滋味深いものであると同時に、故郷・宇和島をこよなく愛する若き料理人が切り盛りする素敵な店であった。

年季の入った白提灯が目印だ。

※新型コロナウイルス感染症対策のため営業時間や定休日等に変更あり。詳細はHP等で要確認。

写真/池本史彦

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