全国の津々浦々まで足を運んで探したS600。その甲斐あって調子はすこぶる上々。

そこで工藤さんが取った行動は日本全国、北海道から九州まで、良さそうなS600があると聞けば、足を運んで実際に見て触って確かめることだった。こうして何年か全国行脚が続いたのち、友人から元ホンダの技術者を紹介してもらい、これだとひと目見て気に入った1965年製のS600に出会えたのだった。

週末の早朝、このクルマで異国情緒あふれる横浜をゆっくり流すのが無上の喜び。

当時の購入価格は300万円。そこまでの情熱を注いだ S600 の魅力はどこにあるのか聞いてみた。

今後入手したいクルマは、と聞いても、「考えられない」と答える工藤さん。

「可愛らしさのなかの凛とした佇まい。日本人特有の丁寧な作り込みを、至る所に感じることですね。エンジンを高回転まで回すと、雅楽器のような音色を奏でるエキゾーストノート。やはり日本人の感性で造った傑作ですよ」と相当な惚れ込みようだ。

ガレージに収まるS600。新車と見まごうばかりのコンディションを維持している。

誕生して50年以上。〝よくぞ元気に生き延びてきて、出会えたという喜び〟を持ってハンドルを握っている。しかしメンテナンスは欠かせないようだ。工藤さんは常日頃、ここが壊れたらこうしよう、と頭の中でシミュレーションしている。希少な純正パーツの値段の高さに頭を抱えることもある種の楽しみだという。

高回転で奏でるエキゾーストノートは耳に心地よい雅楽器の調べにも似ている、とは工藤さんの言葉。
ホンダS600
S500の水冷直4DOHCエンジンを606ccとし、レースで培った技術を取り入れたDOHCの超高回転型エンジンを搭載している。
よく手入れされているDOHCエンジン。ホンダがレースで培った高回転型のエンジンは、今でもよどみなく回る。

撮影/佐藤佳穂