国産の蕎麦のみを使用した職人による手打ち蕎麦を食す

通りに面した入口の暖簾をくぐると、きれいに布敷された石畳と、竹垣で演出されたアプローチが現れる。その先に料亭かと思わせる暖簾と引戸がある。

蕎麦をいつでも美味しい状態で食べてもらいたいという志から、日本全国の生産者から良質な玄蕎麦を一番いい状態の時に仕入れ、年間を通じて低温保管している。そして必要な分だけ自社で脱皮し、最良の状態の蕎麦を石臼で挽く。石臼を使用することにより、風味が損なわれないのだ。こうして出来上がった蕎麦粉を、30名以上も在籍している熟練の職人が、毎日手打ちで仕上げている。蕎麦打ちに機械を一切使用しないのも、よしむらのこだわりだ。

蕎麦職人だけで30名以上も在籍している専門店は、全国的にも珍しいだろう。

「大量の保管を可能にしているのが、西院にある『生産工房よしむら』に設置されている、150トンの保管用冷蔵庫です。蕎麦は国産のものしか扱わないので、台風などで被害を受けてしまうと確保するのに苦労することもあります。そのため北海道から宮崎までの生産者と契約して、新蕎麦の季節になったら最高の玄蕎麦をストックするのです」。さらに「ここには蕎麦と米の脱皮室、惣菜製造室、豆腐と湯葉の製造室、そば麹室、スイーツ製造室などが備わっていて、生産者が丹精込めて作ったものを、美味しい食材へと生まれ変わらせ、各店舗に配送しているのです」と現在、専務取締役を務める吉村匠平さんは、店のこだわりを熱く語ってくれた。

よしむらは、もともとは匠平さんの父が20年ほど前に、嵐山の渡月橋たもとにあった日本画家の川村曼舟の邸宅を利用して開いた蕎麦店が始まり。今では嵐山の本店のほかに蕎麦料理店を3軒、豆腐料理店1軒を展開。北山楼は平成27年(2015)にオープンした店舗である。地下鉄烏丸線北山駅の2番出口から目と鼻の先にある店は、民芸調の造りとなっていて京都という土地柄に溶け込んでいる。

洒落た庭の一角にはテラス席も用意されている。この席を好んで選ぶ人も少なくないそうだ。
駐車場から店に入る場合、上の写真とは別の入口となる。花頭窓から職人の作業姿が見える。
太い梁などは古民家のものを再利用している。

店内に入っていきなり目に飛び込んでくるのは、大きなガラスの向こうで一心不乱に蕎麦を打つ職人の姿だ。席を待つ間も、この作業を眺めていれば飽きることがない。店内のあちらこちらに旧家から持ち込んだ箪笥や蔵の扉、釜などが置かれていて心が和む。さらに店内に人工の滝まであり、五感を楽しませてくれる。

あれこれと楽しめるコース膳だけでなく、酒の肴に最適な一品料理もこの店の自慢ということなので、まずは「自家製湯葉」を味わう。目の前に置かれたそれは、湯葉とは思えない厚み。しっかり大豆の甘みが口いっぱいに広がる。続く「鴨ロースそば麹味噌漬け」で使われている自家製味噌は、大豆から蕎麦麹までよしむらで作ったもの。「牡蠣のねぎみそ焼き」の味噌も同じ。辛すぎずコクがあって、いくらでも舐めていたくなる、最上級のおかず味噌だ。

まずその厚みに驚かされる「自家製湯葉」。豆乳ダレと醤油ダレで味わえる。濃厚な豆の味わいがクセになる逸品。
鴨肉に自家製の味噌が合わさり、よりジューシーな旨味が楽しめる「鴨ロースそば麹味噌漬け」。
冬の季節に人気の「牡蠣のねぎみそ焼き」。味噌と相まって肉厚の牡蠣の甘みが強調される。

そして締めは「そば寿司」と「半量二八そば」をお願いした。二八そばはお好みに応じて細切り、並切り、太切りから選ぶことができるのも嬉しい。蕎麦は十割もあるが、二八でも十分に蕎麦の香りが強く、手繰れば新鮮な香りが鼻孔をくすぐる。細切りをお願いしたのだが、コシがあって歯触りが良く、喉ごしは実に爽やか。少し辛めのそばつゆとの相性も素晴らしかった。

数量限定の「そば寿司」。酒の肴だけでなく、ご飯代わりに注文する人も多い。ちなみにご飯は米と蕎麦を炊き込んだ二穀米だ。
れこれ食べた後にはありがたい「半量二八そば」。十割も用意されている。まさしく挽きたて、打ちたて、茹でたて。太さを注文時にオーダーできる。出汁の昆布は2年寝かしてから使用する。
キビキビとした従業員の立ち振る舞いも好感が持てる。

文/野田伊豆守 撮影/むかのけんじ