不足しがちなミネラル分を補った“えご草”を食す

塩の道とは新潟県糸魚川市から長野県松本市までを結ぶ、約30里(約117.8km)の「千国街道」のことである。

江戸時代、塩や海産物をはじめ、麻や穀物類などさまざまな生活物資が行き来し、信濃の暮らしを支えた庶民の道である。昨今は「塩の道トレイル」という、日本トレッキング協会の推奨ルートにもなっていて、全コースを歩き通す人も少なくないという。

北アルプス・槍ヶ岳への玄関口として知られる長野県大町市は、そんな塩の道の中継地点として賑わった宿場町だ。間口が狭く奥に長い“うなぎの寝床”と呼ばれる町家造りの建物が多く残るほか、里山居谷里の湧水「女清水」や、北アルプス上白沢の湧水「男清水」など、たくさんの湧水が湧く町でもある。

重厚な佇まいの「塩の道ちょうじや」。

今回紹介する大町市の「塩の道ちょうじや」は、かつては塩問屋だった旧平林家の建物を利用した博物館。千国街道沿いにあり、重厚な佇まいを今に見せている。館内には塩の道に関する資料の展示や、お休み処が完備されている。

明治22年(1889)の大火を経て、現在の建物は翌年に再建されたものだが、奥に長い敷地には塩蔵や漬物蔵などがあり、塩の道の繁栄の歴史を色濃く残している。

興味深い展示物に牛馬用の草履があるが、これは蹄鉄の代わりで爪を守ったものだという。物資を運ぶ上で必要不可欠な馬や牛を大切にしていたことがよくわかる。

牛や馬に使用していた草履。

塩の道に関する見学を終えたら併設されたカフェでひと休憩。リンゴの甘酒ラテやミルクかき氷など甘味メニューが人気だが、ここで食したいのは「えご小鉢3点セット」だ。日本海の海藻“えご草”を利用しているのだが、このえご草、ヒジキや天草などの仲間でプルプル、もちもち、つるっとした食感が特徴だ。

「えご小鉢3点セット」。色々な味わいが楽しめる。

シンプルに煮固めたえご草に醤油をつけていただくほか、暑い日の塩分補給にぴったりな“えごのみそ漬け”、ミカンやあんこと一緒に食す甘味など、多様な味わいが面白い。

えご草の味わいは、想像以上に海藻の風味が鼻に抜けさわやかだ。昔から山に囲まれた大町では、不足しがちなミネラルを効果的に補給する目的もあり、郷土の味としておなじみなのだという。

歴史に裏付けされた地域の食文化を味わうのも旅の一興。ぜひ、信濃へ訪れた際には大町にある「塩の道ちょうじや」で歴史と郷土料理を味わっていただきたい。

※2016年取材(営業時間・定休日等変更の場合あり。HP等で要確認。)

文/岩谷雪美 写真/佐藤佳穂