ふらりと立ち寄ってマタギの世界を味わう

オフィス街の一角で、異彩を放つ木目のファサード。鹿角のドアノブの扉を開けると、野趣あふれる猟師の家が広がっていた。ここ「炉端 美酒食堂 炉とマタギ」はその名の通り、山の狩人・マタギをテーマにした料理が味わえる居酒屋。

築60年の古民家をリノベーションした店内には、鉄砲や編笠などが並ぶ。調理法もマタギ流に、素材をシンプルに炉端で炙るのが基本。山の幸を焼いて食べるという、彼らの作法にあやかっている。

「ハンターが獲って、すぐさま適切な処理と管理が徹底された素材を仕入れています。だから余計な手を加えず焼くのが一番美味しいんです」と話すのは料理長の太平さん。

そんな同店の信条を体現したのが、5種の鳥獣肉を炭火でふっくら焼き上げた「マタギの五獣奏」だ。和歌山育ちの猪は、噛みしめるほどに甘い肉汁が口に広がり、自然と笑みがこぼれる。ウサギはきめ細やかな肉質と淡白でマイルドな口当たりを楽しみたい。どれも食感を満喫するのにベストな厚さにスライスされており、ついつい箸が進む。

その日のおすすめ5種を、蝦夷ワサビや神楽南蛮味噌などの薬味と共にいただく。
「パイで包んだ鹿肉デミ八丁煮込み」は和と洋のバランスが調和した一品。

鹿肉も外せない。同店で提供しているのは、北海道・トムラウシ育ちのエゾ鹿と和歌山で獲れた本州鹿。エゾ鹿は3歳前後の雄肉を厳選。柔らかな肉質と濃厚な旨味が特徴だ。八丁味噌入りのデミグラスソースで柔らかく煮込んだ「パイで包んだ鹿肉デミ八丁煮込み」の、トロリとほどけるエゾ鹿のまろやかな舌触りを堪能したい。

一方、生命力あふれる本州鹿を味わうなら「義経鍋」がおすすめ。義経鍋とは中央で湯豆腐を、周囲の鉄板で肉を焼くという欲張りな鍋。野性味を感じさせる鹿の焼肉と、野菜を交互に味わえる。ちなみに義経鍋の由来は、源義経が平泉に落ち延びる際に食べたという由来が残る東北の郷土鍋。ここではその鍋をアレンジして提供している。

ジビエの焼肉と温かい野菜を同時に楽しめる「義経鍋」。

「今まで牛・豚・鶏しか知らなかった方にも、こんなに美味しくてヘルシーな食材があることを知ってほしいと思います。ぜひ旨味が乗った炭火焼のジビエを味わってほしいですね」

店内にはかつて猟師が使っていたという火縄銃や、キジの剥製、エゾ鹿の角を使ったオブジェなどもありインテリアにもこだわりを感じられる。

ほの暗く居心地の良い空間で、ひと仕事を終えたサラリーマンや、食への感度が高い女性客が舌鼓を打つ。和のジビエが気軽に堪能できるとあって、初めてここで鳥獣肉に挑戦し、その美味しさに目覚める客も少なくないという。肩肘張らないジビエの新たな楽しみ方が見つかりそうだ。

炉端で香ばしく炙られるジビエをカウンターから眺めるのも楽しい。

※2017年取材(現在の営業状況についてはHP等で要確認)

文/田尾智恵子 写真/杉本幸輔