東山の喧騒とは無縁の
静かな空間で茶粥を食す

さらりとした口当たりと番茶の香りが引き立つ茶粥

青葉が累々と連なる東山の山稜。その山麓には清水寺、高台寺、知恩院をはじめ名だたる古刹が南北に数多く点在し、京都きっての観光エリアとして国内外に広く知られている。

「松葉亭」は店名にも冠してあるように、その「高台寺」の近くに暖簾を掲げる料理処である。高台寺は豊臣秀吉の正室・北政所ねね様が、秀吉の冥福を祈るために建立した寺院で、寺の前の散策路は“ねねの道”と呼ばれて親しまれている。

近年は産寧坂、二寧坂から続くこの界隈は“喧騒”とも例えたくなるほどの賑わいを見せているが、「松葉亭」はその人波から少し離れた路地に町家の情緒をたたえて静かに佇んでいる。

格子戸の入り口から暖簾をくぐり、細長い通路を抜けて中庭へ。明るく開けたそこには苔の色も鮮やかな京都らしい小さな坪庭が設えられ、客はそのまま玄関へと導かれる。

「おこしやす」のはんなりとした出迎えと共に通されるのは、床の間のある数寄屋造りの落ち着いた座敷。店というより町家のお宅にお邪魔したような空間に心が和む。

「創業は大正元年(1912)ですが、昭和30年(1955)には旅館業も始め、8年前までは“片泊まり”の宿としても営業しておりました。夜は懐石料理、お昼は茶粥や湯豆腐、ひょうたん弁当などをご提供しています」と話す女将の畦地真澄さん。

ランチの後の喫茶タイムには、あんみつやぜんざいなどの甘味も愉しめる。わずか10席のみだが、客一人ひとりに目が行き届き、おもてなしするにはちょうどいい規模の席数だという。

お昼にいただけるこの店の名物はなんといっても茶粥セット。番茶で炊いた茶粥、だし巻き、湯豆腐、生湯葉の田楽味噌、そして自家製のちりめん山椒、湯葉のつくだに、しいたけ昆布などが添えられる優しい味わいだ。

番茶は発芽玄米の宇治茶を使用。生米からことこと炊き上げた茶粥は、香ばしい風味と、胃に染み入るさらりとした口当たり。さらに山椒の利いたちりめんを載せると、また違う味わいを愉しめる。実に美味だ。また、湯豆腐は三条白川にある山崎豆腐店の豆腐を使っている。

「毎朝、お豆腐屋さんまで歩いて買いに行ってます。運動にもなるし、私の日課なんでよ」と笑顔を見せる畦地さん。こちらも豆の味が濃い滑らかな豆腐が舌を愉しませてくれる。

一方で、予約制(2名以上)の夜のコース料理は本格的な懐石料理。八寸から始まり、お造りや焼き物などが彩りよく供されるが、茶粥をしみじみ味わううち、次はぜひこちらも味わってみたいと思わせてくれた。

奈良や京都宇治の朝ご飯としても知られる茶粥だが、京都で本格的に茶粥が食べられる店はそう多くはない。隠れ家的な雰囲気といい、茶粥といい、ちょっと秘密にしておきたくなる、でも、人に教えたくなるそんな貴重な一軒である。