普段から飲む機会がしばしばある日本酒。主に米と水から作られるが、それを発酵させて酒にするまでには、さまざまな工程を挟んでいる。作り方をよく知れば、もっと美味しく酒をいただくことができるだろう。そこでこの記事では、日本酒がどのように作られるのかを製造工程の順を追って解説していく。

世界でも類を見ない醸造法の酒

日本酒の発酵は、世界でも珍しい高度な醸造法によって行われている。まずは発酵のメカニズムについて確認してみよう。

通常酒は、「アルコール発酵」を利用した醸造法で作られる。アルコール発酵とは、糖分(ブドウ糖)を含んだ原料を発酵させてアルコールを作り出す手法のことである。つまり糖分(ブドウ糖)がアルコールへと変わるのだ。

ここで日本酒の材料を振り返ってみよう。日本酒のもととなるのは米と水だ。米は主成分がでんぷんとなる穀物。でんぷんは糖分(ブドウ糖)の集合体だが、実はそのままの状態ではアルコールに変えることはできない。

そのため、アルコール化するときは、でんぷんを分解し、一度糖分(ブドウ糖)へと変える作業が必要となるのだ。この作業を「糖化」といい、糖化を正常に進めるために米麹が使われる。

日本酒の発酵は通常1つの樽の中で行うので、糖化が済んだものから、次々にアルコール発酵が行われていく。日本酒の醸造が優れているのはこの点で、糖化とアルコール発酵という2つの化学反応を同時に行う「並行複発酵」は世界に類を見ない醸造法だ。

たとえば、ビールは日本酒と同様に原材料の麦を麦芽糖という糖分に糖化してから、アルコール発酵が行われる。しかし、これらは別々の樽で行われるため、この醸造法は「単行複発酵」と呼ばれている。

また、ワインはぶどうから作られるが、ぶどうにはもとより糖分が多量に存在するため、糖化の工程を必要としない。そのため、ワインを作るときはアルコール発酵のみを行う。

この醸造法は「単発酵」と呼ばれている。これらと比較してみても、日本酒の「並行複発酵」は高度な技術を駆使していることがわかるだろう。では、次の項目からはもう少しくわしく作り方を解説していく。

製造工程その1「原料処理」

ここからは、日本酒ができるまでの基本的な製造工程を解説する。まず取りかかる作業は、原料となる米を削り上げることだ。

原料の玄米を精米

玄米は内側にでんぷん質、外側にタンパク質や無機質などの成分が内蔵されている。この外側の部分は、普通に食せば大切な栄養素として体内に吸収されるのだが、日本酒製造では栄養素が多すぎると、酒の風味や香りに影響し、いわゆる雑味を生み出すことになってしまう。そこで、はじめにこの外側の部分を削り取る「精米」が必要となるのだ。

米一粒一粒を削るのは大変な労力がかかり、この作業に50時間以上かけることもある。また、玄米の表面が削られて、精米として残った割合のことを精米歩合というが、精米歩合はこれから作られる日本酒の種類によって変えられる。たとえば、本醸造酒なら70%以下、吟醸酒なら60%以下、大吟醸クラスになると50%以下と、酒のランクが上がるにつれ、より削られた米が必要になるのだ。

ちなみに削られた部分は、ただ捨てられるわけではない。家畜のえさになったり、漬物用の糠になったりと実にさまざまだ。また、インスタントラーメンやせんべいなどの食品にも使われるなど、幅広い用途がある。

精米が終わった米は摩擦によって熱を帯びているため、米に含まれる水分も不安定な状態にある。そこで2~3週間冷暗所で保存して米を安定させる「枯らし」と呼ばれる工程が必要になる。

洗米から浸漬

次に精米した米を洗う「洗米」に入る。これは、精米時に表面についた糠や米くずを取り除くための作業だ。洗米が終わると、次は「浸漬(しんせき)」に移る。浸漬は米を水に漬けて、水分を吸わせる工程。適切な量の水分を吸収できるかどうかが日本酒の品質に大きく関わる。浸漬は日本酒製造に欠かせない大切な作業なのだ。
            

蒸米から放冷

浸漬で十分水を吸った米は、大きなせいろや蒸米機で蒸される。この「蒸米」の作業は、米の組織を壊して酵素の作用を受けやすくするほか、殺菌の工程も兼ねている。こちらも酒の質に大きな影響を与えるといわれる重要な作業だ。蒸米が終わると、今度は米を冷やす「放冷」作業に移る。

放冷では、次の工程で使用する麹(こうじ)用・酒母(しゅぼ)用・掛米(かけまい)用の3つに分けてそれぞれの適温まで冷やされる。

製造工程その2「麹造り(製麴)」

麹とは先ほども紹介したとおり、でんぷんをブドウ糖へと変えるために必要な、媒介を果たす存在だ。日本酒の製造において重要な役割を果たす麹は、蒸米の工程で蒸した米から作られる。

麹を造る工程は「製麴(せいきく)」といい、その内容は蒸米に麹菌の胞子を振りかけ、米の中で麹菌を繁殖させるというものだ。作業は温度・湿度を細かく調整できる「麹室(こうじむろ)」という専用の部屋で行われる。繁殖中は熱を発するため、手でほぐす「切り返し」が必要となり、温度を調節していく。栗に似た香ばしい香りがしてきたら完成だ。

製造工程その3「酒母造り」

ブドウ糖からアルコールを作り出す働きをするのが、清酒酵母だ。酒母とは、酵母を大量に増殖させたもののことをいう。

酒母は麹と水、蒸米、酵母、乳酸菌から造られる。なかでも乳酸菌を得る方法が大切で、どのように乳酸菌を得るかで酒母は2種類に分けられる。1つは醸造用の液体乳酸を手で加える「速醸系酒母」、もう1つは蔵の空気中に浮遊する乳酸菌を取り込ませる「生もと系酒母」だ。

生もと系酒母は昔からある手法だが、速醸系酒母に比べ、時間と手間がかかる。しかし、純粋な酵母が培養されるので、コクや辛味を重視した酒を作るのに最適だといわれている。

製造工程その4「醪造り」

ここでいよいよ今まで造ってきた蒸米・麹・酒母、そして水を1つのタンクに収めて発酵に入る。これが発酵した状態(日本酒の前段階)のものを醪(もろみ)といい、この作業を「醪造り」という。醪を造るときは一度に全量を入れるのではなく、3回に分けて入れるため「3段仕込み」と呼ばれる。これは一度に投入してしまうと、ほかの微生物が繁殖しやすくなり、酵母の働きが十分に発揮されなくなるからだ。

醪の熟成まで約2週間から1ヶ月間。じっくりと発酵され、アルコール度数は19%程度にまで高まる。

製造工程その5「上層から火入れ」

最後に完成した醪から、日本酒を取り出す作業に入る。これは主に以下の4段階に分かれている。

上層

「上層(じょうそう)」とは、醪を搾って液体の酒と、酒粕(さけかす)に分けることだ。しぼり方には、「自動圧搾機」を利用して一気にしぼり上げるもの、袋に入れた醪を桶に並べて時間をかけてしぼる「槽しぼり」、袋に醪を入れて吊り下げ、滴り落ちてくる酒を集める「雫しぼり」の3種類がある。機械を使うものは、空気に触れる時間が短いので酸化しにくいというメリットがあるが、槽しぼりや雫しぼりは醪にストレスがかからないので、上質な日本酒を作り出すことが可能だ。

おり引き

上層した後の酒には、まだ細かいタンパク質やでんぷんが浮いている。そこでタンクの中でしばらく酒を寝かせ、これらの物質を沈殿させる。この作業を「おり引き」という。おり引きが終わったら、上部から酒を抽出していく。

濾過

おり引きでも取り除けない小さな微生物や固形物を取り除くため、濾過(ろか)機を使って「濾過」を行う。濾過機の代わりに活性炭素で濾過することもある。また、この工程の際には、脱色や香味の調整の作業が同時になされることもある。

火入れ

濾過が終わると、残った菌や酵素を死滅させるため、約65℃まで加熱する「火入れ」に入る。火入れが終わると、ようやく半年程度タンクに入れる熟成作業がはじまる。これにより、日本酒がまろやかな味わいに。熟成の後、瓶詰めされる前にもう一度火入れを行い、ついに日本酒が完成。全国を流通して日本酒好きのあなたの元に届けられるのだ。

長い手順を踏んで作られる日本酒。今回はその工程を紹介した。日本酒の製造工程では、ひとつひとつの作業が酒の品質の良し悪しを決定するほど大切になってくる。その工程のすべてが蔵元さんの手によって、丁寧に作られていることがわかっていただけただろう。

また、上質な日本酒は作り方からこだわっている。今後、日本酒を購入するときは、どのように作られたのかということも念頭に置いて探してみてはいかがだろうか。