山への熱意と厚い人望が実を結んだ燕岳の稜線上に建つ山小屋

北アルプスの人気縦走コースである〝表銀座〞。この登山道を歩くのであれば、立ち寄りたい山小屋が燕岳(つばくろだけ)の稜線上に建っている。大正10年(1921)の創業という、北アルプス有数の歴史を持つ「燕山荘(えんざんそう)」だ。この人気の山小屋は、創業者・赤沼千尋(あかぬまちひろ)の並々ならぬ山への熱意、そして彼の厚い人望によって生み出されたともいえる。

山小屋開業への思いを描く赤沼千尋

天蚕の飼育業と製糸工場を営む赤沼家のひとり息子として誕生した千尋。山との出会いは16歳の頃で、近所の営林署の作業員に付き添って燕岳に登ったのが最初だった。その時、北アルプスの壮大な景観や美しい高山植物の虜となり、すっかり山に魅了された。しかしその後、もともと身体が弱かった彼は、両親の勧めで茨城県・大洗海岸の別荘で療養生活を送ることになる。ところが、彼はすぐに自宅へ戻ってしまう。その理由は「山に入るほうが健康になる」というものだった。この時には、すでに山小屋開業の想いが彼の心には宿っていたのかもしれない。

燕山荘に名を変え大規模な山小屋建設へ

そして大正10年に、燕岳山頂に「燕ノ小屋」(後に燕山荘に改名)を開業。窓はガラス、食事にはカレーライスを出すなど、その営業形態は他に比べ実にモダンかつ革新的であった。そんな小屋の噂はたちまち広がり、多くの客が訪れた。その中には、実業家・大倉喜八郎の跡継ぎ喜七郎の姿もあり、これが山小屋の大きな転機になる。千尋は「もっと大きな小屋を建てたい」という夢を喜七郎に語ったところ、彼はすぐさま「一緒にやろう」と応じたのである。これにより、燕山荘は喜七郎率いる上高地帝国ホテルの建設者の手によって、よりモダンで立派な山荘に生まれ変わった。

まさに誰をも魅了する千尋の人柄によって燕山荘は発展したともいえる。引退後、親子三代で経営を受け継ぎ、今なお表銀座の一番人気の山荘として登山客に愛され続けている。


《燕山荘》
・花崗岩が造り出す独特の形が特徴の燕岳(標高2763m)。人気登山コースの表銀座に、絶景の山荘「燕山荘」が建つ。趣ある木造建築の山荘内にはカフェやライブラリーもあり、美しい山並みを眺めながらゆっくり過ごすことができる。
・URL:https://www.enzanso.co.jp/enzanso/
・TEL:0263-32-1535(燕山荘松本事務所)
※お問い合わせにつきましては、上記連絡先にお願いします。