メキシコ生まれのメスカルという酒をご存じだろうか。テキーラと同じくアガベを原料とする蒸留酒だが、その独特の風味から近年ブームとなりつつある。ここでは、メスカルという酒について簡略に解説しよう。

スモーキーが癖になる。メキシコの伝統酒「メスカル」の魅力

メスカルは、ひと口で言えばアガベ(リュウゼツラン)を主原料とする蒸留酒のことである。アガベは中南米に自生する多肉植物で、16世紀にメキシコを征服したスペインのコンキスタドールが、現地で酒を賄うためにこれを材料としたのがはじまりとされる。メスカルの一番の特徴は、野趣あふれるスモーキーな香味だ。

この独特のフレーバーは、原料となる葉を切り落としたアガベの球茎(ピニャ)を土に埋め、じっくり時間をかけて蒸し焼きにすることで生み出される。またメスカルは、家族単位のような小さな蒸留所で主に製造されている。それぞれが数百年にわたって伝統の製法を受け継いでいるため、銘柄ごとに味や香りの個性が豊かであることも、メスカルの大きな魅力といえるだろう。

ところで日本では、アガベに住み着く「グサーノ」という芋虫の入った「グサノ・ロホ」というメスカルも知られている。なぜ芋虫を入れたのか。加水した粗悪品でないことを証明するためとも、幸せの象徴ともいわれるが、その理由は定かでない。

近年、メスカルは世界中で注目を集めている。ハリウッドのスターやセレブの間で好んで飲まれるようになったのを契機に、全米やメキシコにおいて爆発的に広まっているのだ。日本でも、東京を中心にメスカル専門のスピリッツバーがオープンしはじめているほか、2018年にはメスカルの新製品「ブエンスセソ」が発売されている。

メスカルとテキーラとの違い〜テキーラの母と呼ばれる所以〜

ここで洋酒に詳しい人であれば、アガベを原料とする蒸留酒ならテキーラも同じではないかと気づいたことだろう。メキシコの酒といえば、今ではテキーラの方が圧倒的な知名度を誇っている。

しかし、テキーラとはテキーラ地方(村)のメスカルのことである。200年ほど前まではテキーラはメスカルの地方種の1つにすぎなかった。そのため、メスカルは「テキーラの母」と呼ばれる。その証拠に、メスカルに用いられるアガベは、今日では実に52種類に及ぶが、テキーラは1種類だけだ。しかし、テキーラが工場で大量生産されるようになると、世界的な知名度は逆転した。

テキーラは樽熟成のうえカラメル色を付けるものも多いが、メスカルは基本的に熟成を行わない。そのため、無色透明で素朴な味わいがストレートに伝わってくるのも特徴だ。今でも伝統的なメスカルは、ピニャの蒸し焼きを人の手で行うだけでなく、圧搾機を馬に引かせるなど小規模作業を貫いている蒸溜所が多い。

メスカルは一気に喉へと流しこむ前に、まずその香りを味わい、ゆっくりと口に広がる風味を堪能してほしい。蒸留所ごとに紡がれた歴史、伝統に思いを馳せる時間も乙なものだ。