28242ひとり家呑みの至福。|福澤 朗

ひとり家呑みの至福。|福澤 朗

男の隠れ家編集部
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休肝日は月に1回あるかないかくらいだというほど、大の日本酒好きな福澤朗さん。コロナ禍の外出自粛期間中は、毎日家呑みを楽しんでいたという。つまみで「実験」したり、温度を変えて「味変」したり……意外に奥が深い家呑みの魅力とは。
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私の休肝日は新聞の休刊日より少ない。月に1回あるかないかです。巷間(こうかん)言われるような週に2~3日は休肝日を!という教えに反しています。良い子は、いや、良い大人はマネをしないでください。週がスタートして景気づけに一杯。大安吉日で一杯。仏滅は厄落としで一杯。五十日(ごとおび)で一杯。仕事終わりに一杯。高視聴率で一杯。今日も誰かの誕生日ということでもう一杯。理由はともあれそれが明日への活力源なのです。決して依存症ではありません。お酒は“人生の句読点”。それがないと一日が終わらないのです。

そんな訳でコロナ禍の外出自粛期間中は毎日が家呑みとなりました。毎晩、ひと手間加えた酒の肴やお取り寄せの珍味で至福のひと時……。なんて上級家呑みエッセーだと思っていたあなた!もう読まないでください!私の家呑みはかなり低級かつ邪道です。局アナ時代に担当していた「全日本プロレス中継」における「プロレスニュース」並みに賛否両論な内容ですのであしからず……。

私は日本酒が大好きです。利き酒師の妻と付き合い始めた30歳頃からその魅力にハマりました。今では日本酒専門のセラーの中にそれなりの銘酒が数十本。その日の気分で杯を重ねます。で、おつまみは極力チープなものを選びます。焼き海苔、板わさ辺りはかなり高級な部類。6Pチーズ、スライスチーズ、納豆、煎餅、かりんとう、麩菓子、塩、ナッツ、羊羹(ようかん)、まんじゅう、シリアル、果てはカップ麺まで。私の家呑みはタヌキ以上に雑食性です。

家呑みは“実験”だと思っています。居酒屋や小料理店では絶対に出さないようなものをつまみに呑むことで、口の中で新鮮な化学反応が生まれます。それはあたかも普段めったにTVに出ない大物歌手がバラエティー番組に出演する感じに似ています。適度なざらつきや違和感を楽しめます(実はそうした摩擦熱こそがTV本来の熱量なのです)。

住む世界の違う両者が口の中で邂逅(かいこう)します。これはマリアージュなんてお上品な言葉では言い表せない。もはや強制的婚姻関係です。すると、つくづく日本酒のもつポテンシャル、守備範囲の広さに驚嘆します。大抵のおつまみと融合するのです。もちろん淡麗辛口から濃醇(のうじゅん)旨口までタイプは様々ですが、食べ物を包み込むようにして消すことなく、その魅力を十分に引き立たせるような仕事をします。それはあたかも懐の深い一流アナウンサーのごとし(私もこういう日本酒のような人間になりたい)。

おススメはペヤングソースやきそば。味のしっかりした濃醇系の日本酒と合わせます。奥行きのあるソースとコメコメしい酒との融合があなたを悦楽の世界へと誘います。私の最後の晩餐(ばんさん)はコレでもいいと思えるほどの旨さです(ちなみにペヤングは2分半で湯切りしてやや硬めの麺にしてください)。

家呑みの必殺技をお教えしましょう。それは「錫(すず)」です。錫でできたお猪口(ちょこ)やチロリに日本酒を注ぐことで酒の分子構造がほんの少し変化し、味がまろやかになるのです。かつて写真プリントのCMで『美しい方はより美しく、そうでない方はそれなりに』というセリフがありましたが、それを借りれば『旨い日本酒はより旨く、そうでない日本酒はそれなりに』旨くなるのです。四合瓶2,000円クラスのものが4,000円クラスに。1,000円以下のものが2,000円クラスに変身します。このグレードアップはついニヤニヤしてしまいます。是非お試しください。

今や食の世界では常套(じょうとう)表現となった「味変(あじへん)」。日本酒にもあるのです。日本酒は温度によって味が変わります。冷やから常温、人肌、ぬる燗……。温度が上がるほどに味が開くものもあれば、雑味が目立ってしまうものもあります。少しずつ温度を上げてみてください。気分は理科実験。家呑みならではの楽しみ方です。その酒の最適温度を見つけた瞬間、『決まった~!ジャストミート!』と叫びたくなります。

もうひとつの「味変」。酒器を変えてみてください。薄口のお猪口、ぽてっとした厚みのあるお猪口、ワイングラス、シャンパングラスなどなど。形状が異なると香りの立ち方、口に含んだ直後の舌の上でのお酒の広がり方が変わるのです。ホームパーティ等で同じお酒を異なる形状の酒器に注いで飲み比べをしてもらいましょう。

そして、『どちらのお酒がお好みですか?』と聞いてみるのです。『私はこっち』『俺はこっちだな』なんて意見が割れた後でタネ明かし。『どれも同じお酒でした~!』これ間違いなく盛り上がります。私はたびたび複数の酒器を用意してひとりで呑み比べる“ロンリー・ホームパーティ”をしています。ひとりでも全然淋しくありません。

家呑みには外呑みでは味わえない工夫、挑戦、発見、冒険がいっぱい。他人に迷惑をかけることなく自分の世界に浸りながら健やかに酔えます。ただ、端から見たらほとんど変態ですのでTVで公開するつもりはありません。そして、何よりも「イエノミ」は「エコノミー」。お金をかけずに楽しめます。さぁ、皆さんも独自の世界を構築してみてください。

福澤朗 AKIRA FUKUZAWA
1963年生まれ。フリーアナウンサー、タレント、司会者。元日本テレビアナウンサー。在局中はアナウンサーとして数々のヒット番組に出演。愛称は「ジャストミート福澤」、「福澤 ジャストミート 朗」。近年は俳優としても活躍中。特技は卓球、趣味は鉄道と日本酒。

日本酒を愉しむための入門書『日英対訳 ときめきの日本酒』

今や世界的人気となった日本酒。その日本酒の魅力や、銘柄の選び方、料理との合わせ方を日本酒アンバサダーで、フリーアナウンサーの福澤朗がわかりやすく紹介する。

『日英対訳 ときめきの日本酒』
1,320円/文芸社

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いくつになっても、男は心に 隠れ家を持っている。

我々は、あらゆるテーマから、徹底的に「隠れ家」というストーリーを求めていきます。

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