2191白馬岳〜天空の登山道をゆっくりと歩く〜

白馬岳〜天空の登山道をゆっくりと歩く〜

男の隠れ家編集部
編集部
北アルプス後立山連峰北部を代表する白馬岳(しろうまだけ)は、北アルプスの中でも特に人気のある名峰。日本三大雪渓にも数えられる広大な白馬大雪渓は、登山愛好家なら一度は体験したい憧れのルートだ。大雪渓ルートの歩き方や、白馬岳付近の山小屋、登山口までのアクセス方法について紹介する。
目次

北アルプスの北部、後立山連邦の最高峰、白馬岳(しろうまだけ)。登山ルートの中には一年中雪をたくわえた大雪渓がある。また様々な高山植物が咲き乱れる名峰は「花の名山」としても知られている。多くの登山家を魅了する白馬岳の魅力とはどこにあるのだろうか。

北アルプスの名峰「白馬岳」とは

白馬岳(しろうまだけ)は、北アルプスにおいて槍ヶ岳と人気を二分する山である。南北に連なる後立山連峰の北部に位置する標高2,932 mの山で、新潟、長野、富山の3県にまたがっている。日本百名山の一座であり、北アルプスの中でもっとも登りやすいとも言われている。白馬岳とその麓の高原は、昔から多くの登山客やスキーヤーで賑わう観光地である。

白馬岳は、江戸時代の半ばまでは南に連なる鑓ヶ岳と並び大蓮華岳(山)と呼ばれていた。白山や立山と同じく、信仰の山だったのである。白馬岳という名前は1824年頃から現れるようになり、山頂に一等三角点が置かれた1894年頃から固定した山名になったという。

白馬岳の由来は、農作業の代掻きが始まる頃、山肌に現れる馬の雪形から「代馬(しろうま)岳」と呼ばれ、いつしかそれが白馬岳に変化したと言われている。やがて「しろ」の音に「白」が当てられるようになり、「はくば」とも呼ばれるようになった。現在では、山や高山植物以外は「はくば」と読まれている。白馬駅も「はくばえき」だ。

白馬岳の東側の谷筋には、日本三大雪渓のひとつとして知られる「白馬大雪渓」があり、多くの登山者にとって憧れの場所となっている。また希少な高山植物の生育地でもあり、夏は雪渓の上部に日本有数の高山植物の花畑が広がる。

白馬村にそびえる白馬鑓ヶ岳の中腹、標高2,100mあたりにある温泉「白馬鑓(はくばやり)温泉」は、日本最高所の温泉のひとつとしても知られ、麓から歩いて4時間かけて行き着く雲上の露天風呂から望む景色は秀麗である。雪渓、花畑、岩場、山の温泉と、様々な要素で楽しませてくれるのが白馬岳の魅力だ。

交通の便も比較的よいことから、夏期には多くの登山者で混雑する。夏の登山者の大半は大雪渓を経由して登るため、夏休みの時期には大雪渓上は長蛇の列となる。赤い紅殻ラインを蟻のように列を成して歩いていく登山客の姿は、白馬の夏の風物詩とも言える。

白馬岳は非対称山稜であり、大雪渓のある東側は急峻で、反対の西側や越中側は緩やかな斜面が広がる。選ぶルートによって、登山初心者から中・上級者まで楽しめる。

山頂からの眺望は素晴らしく、北アルプスのほぼ全域をはじめ、南・中央アルプス、八ヶ岳、頸城や上信越の山々、そして日本海までを広く見渡すことができる。山頂にある展望盤は、新田次郎の小説「強力伝」に登場することでも有名だ。

登山の適期は7月中旬~9月頃。梅雨明けの7月頃には美しい高山植物が咲き乱れる。8月初旬でも山頂付近の最高気温は12度前後、夏期の最高気温は13度、最低気温は6度前後である。夏でも朝晩はかなり冷え込むため、防寒対策は必須である。

日帰りで白馬岳を登ることも不可能ではないが、登山にあまり慣れていない場合は山小屋で1泊するのがベスト。過去には悪天候による遭難事故もあったため、事前に現地の天気を調べておこう。自分のレベルに合った登山計画を立て、安全な登山を心がけたい。


大自然を堪能できる白馬大雪渓ルート

白馬岳登山コースの中でもっともポピュラーなのが、白馬大雪渓を経由するルートである。盛夏でも涼しいこの雪渓歩きは大人気。標高差約600m、距離約2km、登り一辺倒の雪渓は抜け切るまでに2時間半ほどかかるため、大雪渓を進むには軽アイゼンが必要となる。アイゼンがないときは、白馬駅前の北アルプス総合案内所でレンタル(1,000円)することもできる。また、大雪渓では落石の危険があるため、なるべくヘルメットをかぶろう。

大雪渓ルートは憧れのトレッキングコースと言われているが、初心者の単独登山は非常に危険である。必ず経験者と一緒に登るようにしてほしい。

今回は白馬岳の山頂直下にある白馬山荘に宿泊し、1泊2日で山頂を目指す。白馬大雪渓へは、登山口である猿倉が起点となる。一時間ほど樹林帯を歩くと、白馬尻小屋の前に「おつかれさん!ようこそ大雪渓へ!」と書かれた大きな岩の看板が見えてくる。白馬尻小屋付近からは、いよいよ白馬大雪渓がスタート。アイゼンを装着して装備を整える。

「花の名山」とも呼ばれる白馬岳の中でも、雪渓の斜面の花畑は特に規模が大きく、300種類以上の花々が咲き誇る。花の名所である葱平(ねぶかっぴら)を離れると、しばらくは急斜面の岩場を巻いて登っていかなければならない。

疲れた体に鞭打って小雪渓を越えた辺りまでくると、天狗菱の大岩峰が鋭さを増して眼前に迫ってくる。雲が立ちこめるその姿は神々しさすら感じるほど。一瞬、体がふっと軽くなったように感じたのは気のせいだろうか。

最後の力を振り絞り、村営白馬岳頂上宿舎へ。ここは山小屋としては珍しいバイキング形式の食事をはじめ、高地専用のビールサーバーによる生ビールや喫茶メニューなどを楽しむことができる。

さらに主稜線に出ると、一気に目の前がひらけた。西の彼方に剱岳や立山連峰、北には白馬岳山頂が座す圧巻の景色。白馬尻から稜線までひたすら登りの道を行くこと4時間半。山々は目も覚めるような姿で出迎えてくれた。白馬山荘はすぐそこ。はやる気持ちを抑えて歩みを進める。

北アルプス初の山小屋として110年以上の歴史を持つ白馬山荘は、その設備のよさに定評がある。標高2,800mの雲上レストラン「スカイプラザ白馬」では、大きな窓越しに剱岳や立山連峰を眺めつつ軽食やコーヒーを楽しめる。レストランは通過者も利用することができる。

翌朝は、まず小屋から15分ほどの白馬岳の山頂へ。苦労して登ってきた急峻な大雪渓を見下ろせば、大きな達成感に包まれる。朝の斜光に輝く北アルプスの主峰を望む大パノラマビューは、筆舌に尽くしがたい美しさだ。

小蓮華山へ向かってしばらく歩くと、馬ノ背と呼ばれる岩場を通過するが、その後は概ね緩やかなアップダウンを繰り返す歩きやすい道が続く。風に揺らめく高山植物たちを楽しみつつ、三国境の斜面に咲くピンク色が愛らしいコマクサの姿に心も踊る。白いザレた道をさらに30分ほど進むと、標高2,769mの小蓮華山に到着。頂には三角点と剣があり、かつては信仰の山であったことを物語っている。

ここまで来ると、急にガスが湧き出した。白馬大池までは白い霧の中を歩いたが、船腰ノ頭を越えて雷鳥坂の上部に来たとき、赤い屋根の山荘と群青色の水をたたえた池が見えてきた。チングルマの花園が近づいてきたら、白馬大池のほとりまでもうすぐだ。

白馬大池にはクロサンショウウオが多く生息しており、その姿は肉眼でも確認することができる。周辺には白馬乗鞍岳、小蓮華山、白馬岳などの山々がそびえ立ち、白馬大池が鏡となって山々を映し出す。夏季には池周辺にハクサンコザクラやチングルマ、ハクサンイチゲなどを中心とした高山植物の花畑が広がる。この辺りは著名な写真スポットでもあり、写真家の姿も多く見られる。


白馬大雪渓以外のルートを歩く

大雪渓ルート以外にも、同じ1泊2日なら様々なコース取りが可能。何度行っても楽しめるのが白馬岳のよいところだ。ここでは、初心者でも楽しめる2つのルートを紹介する。

栂池ヒュッテから白馬岳を目指すルート

「栂池スカイラインコース」と呼ばれるこのコースは、栂池自然園から天狗原、白馬大池、小蓮華山をたどって白馬岳に登り、山小屋で一泊してから下山する。登りの所要時間は約6時間50分。コースに難所が少ないため、初心者にもおすすめのコースである。

栂池自然園までは、リフト(栂池ゴンドラ+栂池ロープウェイ)を乗り継ぎ、山麓からたどり着く。リフトの料金は往復3,600円、片道1,920円で、往復の場合は栂池自然園入園料金も含まれる。栂池自然園には広大な湿原が広がり、夏には多くの花々を楽しむことができる。栂池自然園に登山ポストあるため、登山届を提出してスタートする。

栂池山荘を過ぎ、天狗原までは整備された歩きやすい登山道を進む。登山道をしばらく進むと、木道が整備された天狗原に出る。さながら庭園のような大湿原には、ワタスゲの白い果穂や、秋にはナナカマドの赤い実を見ることができる。

天狗原を過ぎると、大きな岩がゴロゴロとした歩きづらい道が始まる。こういった道では、疲れにくいよう歩幅を小さくして歩こう。眼下にはこれから向かう白馬大池が見えてくる。

乗鞍岳を緩やかに下っていくと、白馬大池に到着する。湖畔の白馬大池山荘では昼食や休憩を取ることができる。晴れていれば大池越しに周囲の雄大な山々を望むことができる。北アルプスの中でも風吹大池に次いで2番目に大きい白馬大池は高山植物が豊富な場所で、チングルマやハクサンコザクラの群生を楽しむことができる。

白馬山荘から小蓮華山、三国境に至るルートは非常に歩きやすい道が続く。三国境を過ぎると、いよいよ白馬岳へ。所々に大きな岩はあるものの、道も広くそれほど危ない道ではない。迫りくる空や遠くまで見渡せる稜線を眺めながら、快適な登山を楽しむことができる。

白馬三山縦走から白馬岳を目指すルート

猿倉荘から南東へ、下部は樹林帯だが、温泉に近づく頃には雪渓が現れて登山が始まる。しばらくは雪渓の左岸に沿って、トラバース気味に登っていく。左斜め上方にトラバースする20mほどの区間には、鎖が設置されている。谷側の傾斜は緩いため難易度は低めだが、表面がつるつるとして滑りやすくなっているため、スリップには十分注意して慎重に通過する必要がある。

雪渓を遡上すると、白馬鑓温泉小屋が見えてくる。標高2,100mに位置する雲上の天然温泉「白馬鑓温泉」は、白馬鑓温泉小屋が7月中旬~9月下旬という短い期間だけ営業している一軒宿の秘湯。小屋の裏にある岩の割れ目から温泉が噴き出しており、源泉の温度は43度、湧出量は毎分760Lを誇る。

小屋自体は簡素な造りであるが、アルプスの山々を見渡すことのできる露天風呂は格別である。開放感のある混浴の露天風呂と、周囲を壁で囲った女性専用風呂がある。

天然湧出量では標高日本一を誇る温泉であり、白馬鑓温泉での入浴を目的とするだけでも十分の価値があるだろう。登山で疲れた体を温泉で癒してみては。

白馬鑓温泉小屋からさらに登って大出原に出ると、一気に視界が開けて美しい鑓ヶ岳の岩肌が眼前に広がる。大出原の周辺には、ハクサンコザクラやハクサンフウロとった高山植物の大群落が形成されている。大出原から白馬三山の縦走路には、白馬岳まで特に難所はなく、周辺には多くの高山植物が生息する登山道が続く。

途中、唐松岳方面の分岐に向けてザレた斜面を登ることになる。分岐に立つと、白ザレた鑓ヶ岳の山腹が目に飛び込んでくる。登山道は鑓ヶ岳の西面にあり、なだらかで草木がほとんどない砂利の斜面を登っていくと山頂に到着する。鑓ヶ岳の山頂から杓子岳、白馬岳、小蓮華岳が1本の登山道で繋がる稜線は、白馬山荘のポスターに使用されるほどの美しい景観を見せてくれ、絶好の写真スポットと言える。

鑓ヶ岳山頂から杓子岳へ向かい、杓子岳山頂から一旦下りて白馬岳へ向かう登山道も大部分がなだらかである。稜線を進んでいくと、白馬岳頂上宿舎のキャンプ指定地に色とりどりのテントが見えてくる。白馬大雪渓と旭岳分岐を通過すれば、白馬山荘はもうすぐ。白馬山荘から15分ほど緩斜面を登れば白馬岳山頂に到着する。

白馬岳付近の山小屋へ泊まる

白馬山荘

白馬山荘は北アルプスに初めて建てられた山小屋で、創業110年以上を誇る。約800人の収容人数はとても山小屋とは思えないほど。昭和9年(1934年)の新館増設に伴い”山岳ホテル白馬山荘”とうたっている。その名が示す通り、純和室1室とツインベットの洋室2室の特別室が設けるなどホテル並みの設備が特徴である。また一面ガラス張りの窓から杓子岳などの山並みが望める本格的なレストラン「スカイプラザ白馬」では、軽食やケーキ、コーヒーや生ビールなどを楽しむことができる。名峰を眺めながら、極上のコーヒータイムを堪能するのもよい。

宿泊棟は全部で3つ。1号館には2人用の個室と大部屋が1、2階にいくつも連なり、2号館には大小多数の部屋が用意されているが、原則として相部屋となっている。3号館には、最大7名で利用できる畳の個室が用意されているので、用途に応じて部屋を選ぶことができる。

標高2,832mに位置する白馬山荘は、登山道や山荘周辺に高山植物が咲き乱れ、部屋からもアルプスの山並みを眺めることができるなど、絶景が自慢の宿舎である。

<白馬山荘>
山小屋創業年:明治39年(1906)
連絡先:0261-72-2002(白馬館予約センター)
営業期間:2019年4月27日~10月14日 
収容人数:800名
宿泊料金:1泊2食付10,300円1泊夕食付9,200円 素泊まり7,000円 個室:有(8,500円~) お弁当1200円 ランチ&喫茶メニュー:おでん850円、ソーセージ盛り合わせ850円など 生ビール850円 飲料水:500mlペットボトル350円 人気土産:バッヂ600円 バンダナ800円~など 
充電設備:有(20分100円) Wi-fi設備:無 テント場:無 診療所:有(7月中旬~8月中旬)
(※2019年6月時点)

白馬大池山荘

白馬大池山荘は、標高2,300mの火山堰止湖・白馬大池の湖畔にひっそりと佇む山荘である。小蓮華山から降りて1時間30分ほど。個室はなく、すべて相部屋である。

白馬大池には、山荘のキャラクターであるサンショウウオが生息している。この他、オコジョや雷鳥といった生き物も生息する自然豊かなエリアである。また周辺にはナナカマドが多く、秋には湖面を鮮やかな赤に染める。湖畔にはテント場もあり、のんびりと過ごすにはうってつけのロケーション。蓮華温泉へも足を伸ばすことができる。

<白馬大池山荘>
連絡先:0261-72-2002
営業期間:7月6日~10月13日 
収容人数:150名
宿泊料金:1泊2食付10,300円  1泊夕食付9,200円 素泊まり7,000円 個室:無
(※2019年6月時点)

猿倉荘

白馬岳と白馬大雪渓への登山口にある山小屋。登山口すぐという立地の良さから、遠方から来る人など前泊・後泊が必要な登山者にとっても重宝されている。部屋はすべて畳部屋の和室となっており個室として使用できるが、混雑時には相部屋となることもある。

登山最盛期には、猿倉荘前に登山相談所が開設される。アイゼンを忘れた場合には、ここで購入することも可能。

<猿倉荘>
連絡先:0261-72-4709
営業期間:4月下旬~10月上旬(詳しい日程については要確認)
収容人数:89名
宿泊料金:1泊2食9,000円、1泊夕食8,000円、素泊まり6,300円 個室:有(混雑時相部屋の可能性有)
(※2019年6月時点)

登山口までの交通アクセス情報

白馬岳の登山口となる猿倉へのアクセス方法を紹介する。登山口までは、JR大糸線「白馬駅」よりアルピコ交通の猿倉線バスに乗車し猿倉で下車。所要時間は30分ほど。運賃は1,000円。バスは季節運行のため、事前に時刻表を確認しておこう。

マイカーの場合は上信越自動車道「長野IC」より約1時間45分。あるいは長野自動車道「安曇野IC」より約1時間30分。猿倉駐車場は無料で約70台収容可能である。
問い合わせ先:白馬村観光協会 0261-72-7100

豊かな自然や雲上の天然温泉、歴史ある山小屋など、魅力あふれる白馬岳。ダイナミックな風景を堪能できる白馬大雪渓ルートが定番であるが、登山者のレベルに合わせて様々なルートが用意されているため、ビギナーでも挑戦しやすい。

都会の喧騒や猛暑から逃れる避暑地としても最適なスポットである。この夏は是非、1泊2日で白馬岳を訪れてみてはどうだろうか。


写真/佐藤佳穂、渡辺健吾(一部)

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